第24話 快適な旅
「毎度ありがとうございますにゃん♪」
そこには、巨大な猫がいた。
地面をえぐって生成された、ちょっとしたクレーターの中心には招き猫とまったく同じポーズをした猫がいたのだ。
大きさはかなりのもので、人間の身長の何倍かもあった。
そして、しゃべった。
猫なのに。
「いや、猫は元からしゃべるだろ?」
そ、そうか?
いや、君のお母さんはそうかもだが、普通猫は喋らないぞ。
「おや、私がしゃべることに驚きで? これまた珍しいお客さんですこと。もしかしてあなたがた、人間ですか? 見た目からしてそうみたいですね。しかし、ご安心を。この私ニャールはあなたがたがなんであろうと、目的地である猫の国に送り届けることが使命であります。そこのお嬢さんのおじい様には私がこんな小さな子猫のころより……」
「ストーーーーーップ!!! 話が長い!!!」
口を開いたかと思えば、とめどなく言葉が溢れてくる。
このままでは埒が明かないので、佐藤が割り込んだ。
しかし。
「おや、すみません。これは私のいけないところですね。長く生きた猫は話せるようになるとはよく言ったもので。私もいつしか言葉が口から出るようになったことに気づくと夢中になったものです。やはりにゃーにゃー鳴くのとはわけが違います。感動を……」
「早く私達を乗せて!」
「了解ですにゃん」
やたら話が長いので、出会って五分で一家はそれぞれなんともいえない顔になってしまった。
この先大丈夫かって顔にね。
しかし、悪い猫ではなさそうだ。
乗せてと頼めば、それまでごきげんに話していた口を閉じ、すんなりと乗せてくれるし。
「はい、ではここからお乗りになってください」
巨大猫ニャールは地に伏せるように姿勢を低くして、片足を背中に向けた。
よく見れば、背中には籠が付いていて、そこから縄梯子が垂れてきた。
「こ、これを登るの?」
「はい」
三人共、怖がっている。
だって、しゃがんでいてもこの猫の体を登るにはそこそこの高さがある。
だが、やるしかない。
「お母さん、お父さん! がんばろう!」
お、ブレサルいいこと言うー。
「そうね! 行きましょ!」
「ああ!」
――――――――――
「わーーーー!!! すっげーーーー!!!」
みんなが乗り込むと、運び屋ニャールは勢いよく地を蹴った。
瞬時にケスカロールの町を一望できるほどの高さまで到達する。
だが、中の揺れはまったくない。
おかげでみんなが乗り物酔いをすることはなさそうだ。
「お父さん、見て! 鳥より早いよ!」
「はは、そうだなー!」
ブレサルは窓に張り付いて、青空を飛ぶ初めて見る生き物に目を輝かせている。
「猫の国には、こんな移動手段があるのねー。すごいわー」
「お褒めの言葉、光栄でございます。私ニャールは体調が良いときはニャッハ3で跳ぶことができるのです。ああ、ニャッハというのは速さを表す単位のことで音が一秒間に空気中を進む距離を猫の国ではニャッハと言うのです。それで、具体的にどれほど速いのかというと……」
「でもさ、猫には翼なんてないよね? どうやって飛び続けるんだ?」
具体的な速さにはあまり興味がないようで、ブレサルが別の疑問を口にする。
「好奇心は猫をも殺す。坊ちゃま、いい着眼点でございますね。そうです、私には羽も翼もありません、猫ですから。では、どうやって飛んでいるか。否、猫が空を自由に飛ぶことはできません。猫ですから」
「じゃ、じゃあ……このままだと……」
次第に佐藤の顔が青くなっていく。
「さすが勇者様、もうお気づきなのですね。その賢しさ素晴らしいです。貴方様のその知恵と勇気があったからこそ、魔王とも友好的に接することが出来たのでしょう。おっと、お隣にいらっしゃる奥様も忘れてはいけませんね。シャロール様が魔王に……」
「どっ、どうなるか教えてよ!」
話がどんどん逸れていく運び屋。
慌ててシャロールが先を促す。
「はい、ただいま落下しております」
「「落下!?」」
「えぇ、重力に従って下へ下へと落ちております」
「窓の外見て〜! すっごーーーい!」
佐藤とシャロールは急いで窓の外を見る。
そして、さらに顔を青くする。
さきほどまで隣を飛んでいた鳥は、はるか上に上がっていっている。
否、こちらが下がっているのだ。
「これ、また地面にぶつかるんじゃないか!?」
「ブレサル!!!」
ギュッと力の限りブレサルを抱きしめるシャロール。
なにがあっても守るという強い意志が感じられた。
そして、ニャールはついに地に足をつけようとする。
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