第20話 案外強い
「はぁ……はぁ……」
「疲れた……」
なんとか洞窟の外に出た二人。
「死ぬかと……」
「思った……」
振り返れば、入口まで水が溢れている。
幸い、洞窟には多少の傾斜があるのでこれ以上水は来ないだろう。
「う……ううん……」
シャロールが唸る。
「シャロール、大丈夫か?」
「佐藤……?」
「あいつは……?」
「大丈夫、倒したさ」
「よかった……」
うっすらと笑みを浮かべる。
「あ、ブレサル……」
「なーに? お母さん」
「あとで、お説教ね……」
「なんで!?」
「俺、お母さんを助けたんだよ!?」
「しっぽ……」
「うっ……!」
まあ、あれは私にも責任があるけど。
「そうだ、作者が悪い!」
「ブレサル、人のせいにしちゃだめよ」
「……ううぅ」
ごめんよ、ブレサル。
私も反省するから許して。
「まあ、なにはともあれだよ」
「無事に終わって、よかったな」
「うん!」
「あれ、そういえばお父さん」
「なんだ?」
なにか言いたいことがあるのか?
「……魔王ちゃんは?」
「「……」」
「それに、ファイウルも……」
「「……」」
「しかも、ジェクオル……」
そう言われると、問題がなにも解決してないな。
それでは、二人がなにをしているか。
お見せしよう。
――――――――――――――――――――
「ここはどこなのじゃ?」
「トゲトゲの岩がいっぱい生えてるー」
時は少し遡る。
彼らも洞窟に来ていた。
佐藤達とは別の。
「佐藤やシャロールは?」
「僕達だけみたいだねー」
周りには、誰もいない。
二人っきりだ。
「そうじゃな……」
「なんだ、もう来たのか」
この声は。
「しかし、肝心の勇者は来ずか」
「ジェクオル?」
みたいだね。
「そうだ、せっかく勇者と別れたのだ」
「提案をしよう」
提案?
「お前らも魔王軍だろ?」
「やはり、我と一緒に勇者を倒さぬか?」
ジェクオルは、気味が悪い笑顔で語りかける。
「お断りなのじゃ」
「嫌だねー」
「なに?」
即答した二人に困惑している。
「佐藤は、佐藤達は孤独な私を救ってくれたのじゃ」
「僕も短い間だったけど、友達になれて楽しかったー」
そうか、そうだよね。
想い出があるもんね。
「だから殺さないと?」
「「殺さない」」
息ぴったりに、宣言する。
「ちっ、役立たずめ」
「それなら……!」
苛立つジェクオルは、ファイウルに斬りかかった。
丸腰のファイウルは、それをまともに喰らう。
「ファイウル!?」
悲鳴をあげる魔王。
「なっ……!」
そして、ジェクオルも驚く。
なぜなら、剣が止まったからだ。
「僕の体に剣は通らないよー」
変わらず悠長に喋るファイウル。
「バカな! 以前は!」
「地獄のお姉さんと遊んでたら、毛が変わっちゃってさー」
「これでもか……!」
剣から凄まじい炎が噴き出る。
「無駄だと思うよー」
涼し気な声。
火に強いからね。
「それなら……!」
ジェクオルは諦めたのか、剣を抜き、今度は魔王に向かう。
「お前だけでも……!」
「止まるのじゃ!」
「ぐっ……!」
魔王の言葉通り、その場で制止するジェクオル。
「我は魔王ぞ、侮るなかれ」
「貴様は配下ぞ、跪け」
「な、なにを……!」
その場に跪く。
「どういうことだ!」
「魔王に逆らうとどうなるか、目にもの見せてやるのじゃ……」
魔王の背後から、黒いオーラが立ちのぼる。
「まずは、貴様の手足を……」
「ストーップ!」
「魔王ちゃん、そこまでだ!」
佐藤が勢いよく現れた。
「地獄に返すだけで、十分」
「そいつは、連れて帰ればいいだけだよ」
「殺す必要はないでしょ?」
「魔王ちゃん、元に戻って……」
ブレサルが魔王に抱きつく。
心配してるんだなぁ。
「はっ!」
「ついスイッチが入ってしまったのじゃ」
「魔王ちゃん、戻った?」
なぜか涙目のブレサル。
こういうとこ、かわいいよね。
「大丈夫じゃ」
「心配かけて、すまなかったのじゃ」
「で、ファイウルも無事なんだよな?」
「平気平気ー」
やっぱり緊張感がない。
いや、この二人が強すぎただけかな。
「それじゃあ、戻るか!」
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