みんなの居場所、自分の居場所

「本当ですか!? 喜ばせておいて、実は冗談だったとかなしですよ!? いいんですね、本当にいいんですね!? 神に誓わなくてもいいけどわたしには誓えますね!? 命賭けられますね!?」


「そこまで言うならやめようか、貸すの」


「あああうそですごめんなさいごめんなさいあまりにうれしすぎて怒髪天になっちゃいましたぁぁぁぁ!!」


「怒ってるのか。やっぱりやめよう」


「間違いました間違いました正しくは有頂天ですぅぅぅぅ!!」


 あの後、マリアさんにプレハブを貸す旨を伝えたら、ごらんのありさまだよ。

 突然の提案だったもんだから、マリアさんの調子乗りっぷりが半端ない。


「まあ、貸すのは全く問題ないんだよ。ただね、一つだけ俺が懸念してるのは」


「わたしが大々的に報道されるような悪質な犯罪行為をしないかどうか、でしょうか?」


「する予定あんのか。そうじゃなくて、もしマリアさんがここで聖女教会を開いたとしたら、非常識な異世界の皆さまが押しかけて変な騒動を起こさないか、ってことだけ」


「明日の朝刊載ったぞテメー!」


「聞けよおい」


 お腹が偏頭痛起こしそう。


「というのは冗談でして。なんとなく義徳様の懸念することがわかりましたが、それに関しては問題ないと思います。異世界からやってきた方々は、皆様つつましく静かに暮らしておりますよ」


「そうなの?」


「ええ。実刑判決を受けるようなことをしますと、国から仮で発行された戸籍をはく奪されてしまいますので。そうなるともともと身寄りもないわたしたちですので、闇に葬られても誰も騒ぎ立てませんし」


「……」


 なるほど。悪いことした異世界人は、確かに暗殺されても誰も文句言う人がいないわな。家族みんなで転移してきてるならともかく。


「だけどさ、いわゆるチート持ってる転移者なら、その力で並大抵のことはできるんじゃない?」


「銃には勝てませんよ」


「……」


 やっぱり銃って異世界人にもチートな武器なんだな。

 ま、確かにそうだ。何の特殊能力もない普通の一般人でも、引き金引く力さえあれば誰だって倒せるわけで。

 おまけにマリアさんが言うにはこの世界には魔素がないらしいし、防御魔法とかが使えたとしても、銃弾を跳ね返すほどの効果は期待できないんだろう。


「とはいっても、やはり以前にいたみたいです。異世界の力で強盗などの悪事を働いた方が」


「……ちなみにその人はどうなったの?」


「あっさり逮捕され、どこぞの独裁国家へ輸出されたと聞きました。それ以来消息は途絶え、生死すら不明です」


「それ死ぬよりつらいやつぅぅぅぅ!!」


 輸出という言い回しに恐怖を感じる。まるで奴隷扱いじゃないか。

 この二十一世紀の世の中でもそんな社会の暗部は存在するんだな。背中のさぶいぼが引っ込まねえ。


「なので、なにか騒動が起きることはあまり心配しなくていいかと思います。万が一、義徳様や香奈子様にご迷惑をおかけする事態が勃発しましたら……」


「責任取って聖女教会閉鎖する?」


「いいえ。生きたままはりつけになってもらい、どこぞの神様のように信仰心を深める礎になっていただこうかと」


「聖女というジョブを返上する覚悟、ってことね。わかった、一応信じる」


 いろいろな残酷物語が展開されるのはマジ勘弁なので、深く追及しないでおこう。

 ま、いちおうマリアさんの覚悟として受け取っておくか。


「そうと決まれば、必要なものを集めないとなりませんですね」


「必要なもの? 十字架とか?」


「いえ、まずは賽銭箱から」


「今度からマリアさんのことを生臭聖女って呼んでいい?」


「だって十字架なんて、さおだけをクロスさせれば簡単に出来上がりますよ?」


「大活躍だなさおだけ」


「さおだけの用途は万能です!」


「だからさー、そろそろどこかから怒られそうだからやめない?」


 そんないい加減な教会あって許されるのか? ま、神というくらいだ、慈悲の心にあふれてるんだろ、きっとな。


「とにかく、異世界転移してきた方々の居場所を増やす、ということだけが重要ですから、その他は適当でいいんです」


「……ふーん、ニッチじゃん」


 適当とか言っちゃったよこの聖女様。

 そりゃ確かに異世界人以外は近寄らなさそうだわな。にぎやかになることは間違いなさそうだし、本当にトラブルが起きないのか不安は尽きないけど。


 それでも、そこでマリアさんが、ちょっとだけりりしい顔つきになって。


「わたしは、義徳様から居場所を与えてもらいました。それはとても幸せなことです。だからこそ今度はわたしが、同じように心細い方々に居場所を与える役目を果たさなければならない、そう思っているんですよ。どうかご理解お願いします」


 聖女に恥じない慈悲の心を言葉に込め、俺の目をまじまじと見つめながらそう懇願してきたもんだから。

 なんも余計なこと言えんわなあ。


「……マリアさんの思うがままに、どうぞ」


「感謝いたしますわ、義徳様」


 礼として見せたマリアさんのカーテシーは、間違いなく高貴な聖女のそれだった。

 マレに聖女っぽくなるんだから、ほんとにこの人は。一日一マレくらいの頻度ではあるけど。

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