回答⑨🌰🌰🌰🌰🌰 🌰🌰🌰🌰

🌰🌰🌰🌰🌰 🌰🌰🌰🌰


「きみが話したいなら、僕はいつでも聞くよ。でも僕は、たとえ話してくれなくても」

「聞きたい? 聞きたくない?」


「つらい話だったら、無理に」

「聞きたい? 聞きたくない?」


 鈍感な僕にもわかる。二子ちゃんの顔に、思いっきり「聞いてっ!」って書いてある。というか、ピンク・ペッパーが胸に掲げてるディスプレイにもしっかり「聞かなきゃバッドエンド」って出てる。ブラック・ペッパーのディスプレイには「ルートBに進む場合はこちら」というボタンまで出現してる。


 うすうすは気づいてたけど。今まで僕が直面してきた二択って、だいたい結局は一択だったような気が。


 ブラックのボタンをポチっとすると、『悲しい過去を聞くときのBGMメドレー』とやらが流れ出した。あ、これ知ってる、『栗かのこ』で使われたやつ。


~♬~ダバダ~♬~


「あれは、あたしがまだ『かのこ』もペッパーくんたちも知らなかった、あどけない少女だったころ」


 えーと、その話長いの? そろそろ暗くなってきたんだけど……


「親友の万引き現場に出くわしてしまいました」


 いきなりヘビーなの来た!


「関川くん、こんなときどうしたらいいと思う?」


 いきなり質問!

 あれ、僕は二子ちゃんの過去を聞いてたはずなのに。


 ひょっとして、自分のしたことに悔いが残ってるから、僕の判断も聞いてみたいのかな。

 少女だった二子ちゃんと、大人になった僕とじゃ、判断基準が色々違うと思うんだけど。

 彼女はきっと、そんなわかりきったことを聞きたいんじゃない。ブラックのディスプレイにも、「押し倒すなら今」って出てるし――って! バグるなよこんなときにッ!


 回答を間違えちゃいけない。

 今までひとつひとつ、大事に🌰を積み上げてきたんだ。🌰はもう九つ目。僕はもう🌰回答のプロフェッショナルだ。


「状況と、その子がどんな子かによって、かける言葉は変わると思うけど……そこはやっぱり」


「あたし、こう言っちゃったんだ。『その馬面マスクより、こっちのキリン面マスクの方がいいよ』って」


 どんな状況でどんな子だかさーっぱりわからんッ!!


 ブラック&ピンクのディスプレイに、馬とキリンが登場しちゃったし。

 なんか、ブラック&ピンクと、ディスプレイの馬&キリンがお互いに見つめあっちゃってるし。バックにハートまで飛んでるし。


 馬とキリンのハーフ&ハーフが爆誕する前に、さっさと話を進めないと。

 僕はこわごわと続きをうながした。


「で、どうなったの……?」


「『やっぱりどっちも捨てがたいから、両方買おう! あたしもお金出すから!』って言った」


「あ、よかったじゃん」


 どうやら万引きは未然に防がれた模様。

 これ、美談じゃないの? 彼女は何を後悔してるんだろう。


「両方買っちゃ、まずかったのよ……」


 彼女の声が震えだした。いったい何が起きたんだ。


「親友は、おさななじみの男子に馬面マスクをかぶせて、自分はキリン面マスクをかぶったの」


 それなんかの余興?


「親友は、『馬面マスクをかぶったおさななじみ』にドシャーーン! と、雷でも落ちたかのように恋をしてしまった……。そして相手は、『キリン面マスク』をかぶった親友にドシャーーン!! ……あとはもう、ずるずると……ご想像どおりよ……」


 想像するより先に、ディスプレイでは馬とキリンの結婚式が行われている。この映像、二子ちゃんのセリフを読み取ったイメージ映像かと思ったら、過去のガチ映像だったらしい。


「あたしの、なにげないたった一言が、二人の運命を変えてしまったの! お互いにマスクを外せない体になってしまったの! ちなみに子供はアルパカよ! 両親の姿を見て、自分からかぶりたがる子になっちゃったの! あたしってば、こんなにも罪深い過去を持つ女だったのよ……!」


「あのー……BGMが最高潮に盛り上がってるとこに水差すようで悪いんだけど、二子ちゃんは別に悪くないし、その二人はなんつーか、自己責任っつーか、幸せなら別にいいんじゃない? っつーか……」


「だよねっ!」


 立ち直りはやっ!


「ありがと。ちょっとスッキリした。今まで誰にも言えなかったから……」


 よかった。二子ちゃんに、笑顔が戻った。

 話を聞いてあげて正解だったよ。ありがとう、ピンク&ブラックペッパー。


 ふと、くりっとした上目づかいで彼女が僕の目をのぞき込んだ。


「あたしたちは、さ」


「なに?」


「どんな姿で、あの……ううん、なんでもない!」


「えー、なに! 教えてよー」


 軽やかにステップを踏む二子ちゃん。追いかける僕。


 もしも、まだ言い出せないような過去があったとしても。

 僕は全部、ちゃんと受け止めるよ。

 ひとつひとつ、二人で力を合わせて解決していこう。

 二人で歩く道は、まだまだ長いんだから。



🌰🌰🌰🌰🌰 🌰🌰🌰🌰


『次回――え、もう最終回!?』

『関川くん、何か芸しないとね!』

『もうけっこうやってるけど!?』


<終>

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