06 マスコットの攻防/アラクネ討伐
「アラクネにキングアラゴスタか」
大森林の奥。冒険者の一団。本来ならば参加資格のないアラクネ討伐にギルド『夢の国』が参加できたのは、他ならぬミランダ・ジーナスさんの助力があったからだ。
一団の最後方から巨大な二体の蜘蛛の姿を確認しては、勇者パーティー時代の記憶と照らし合わせながら、少しでもその期待に応えられるようにとその特徴や攻略方法を思い出していく。
「依頼書には記されてにゃかったけどあの黒くておっきいのは強いのかにゃ?」
そう横から問いかけてくるのはいつも通りの軽装に身を包み、馬頭のサラブレッドさんに抱きかかえられた猫耳メイド姿のニーナさんだ。
「うーん。勇者パーティーにいたころはそんなに強かったイメージはないけど……正直アラクネと二体でもあの勇者パーティーなら苦戦もしない程度じゃないかな。逆にニーナさんは元ギルドの職員としてどう思う?」
「にゃあ? にゃあはただ結果を聞いてただけだからにゃあ? でも基本的に勇者パーティー以外には回さないよう言われてたにゃあ!」
「そっか。アラクネも話に聞いてたような変異種じゃないようだし、どちらか単体だけならミランダさんたちに任せておいても問題なさそうだね」
「クロにゃあ! それって二体だと危にゃいってことじゃにゃいのかにゃあ!?」
「うん? うーん……仮にも次の勇者パーティーだっていうのなら積めるときに経験を積んでおいたほうがいいと思うけど、その辺はどうなんだろう?」
「クロにゃあって結構スパルタにゃんだにゃあ……」
「あ、始まったみたいだね」
討伐隊の先頭。大森林に差し込む陽光にミランダさんの振るう剣が一瞬反射してキラリと光ったかと思えば、次の瞬間には森を揺らす衝撃と共に四方八方へと小さな蜘蛛の集団が吹き飛んでいく。
当初の予定では討伐隊を構成するそれぞれのパーティーに役割があったはずだが、今のところアラクネとキングアラゴスタ相手に立ちまわっているのは、どういうわけかミランダさんたちのパーティーだけだ。
「これは……」
少し不味いかな――そう思って踏み出そうとしたところで、何故か突然ギルドメンバー同士での殴り合いが始まった。
「ハハッ!」
「フフッ」
「ワンッ!」
「グルルルル……」
「ヒヒーン?」
容赦なく殴り合うミスター・マウスさんと熊頭のアーノルドさん。
そして二人を仲裁しようとしては、ミス・マウスさんに掴まれ一瞬で関節技を決められる犬頭のおまわりさん。
馬頭のサラブレッドさんはといえば、そんな惨状をニーナさんに見せまいとしてそっとその手で目隠しをしている。
「ええと……」
良く分からない状況に周囲を見回しては、終始静観を保っているウサ耳のネクロマンサーさんが目に入る。
「ネクロマンサーさん」
「に」
「これは一体……」
「い」
「そうですか……」
ネクロマンサーさんはただ知らないとそう告げては、マスコット同士の殴り合いを静観し続けている。
「あー……皆さん」
こちらの声に動きを止めるミスター・マウスさんに熊頭のアーノルドさん。
ミス・マウスさんは最後に思いっきり関節を決めては、それで渋々とおまわりさんを開放する。
「何というか……その……」
「クっ、クロにゃあ! これには事情があるのにゃあ!」
どう事態を収拾するか頭を悩ませていると横から飛んでくるニーナさんの声。
目を向ければサラブレッドさんの目隠しはすでに外れていて、代わりにその顔にはどこか立てこんだような焦りが浮かんでいる。
「その、クロにゃあ! 実はこのアラクネ退治で一番貢献したメンバーのグッズをにゃあが一番最初にアラクネの糸でつくることになってるのにゃあ!」
「じゃんけんにしなさい」
マスターの威厳でもって自身とネクロマンサーさん、ニーナさんを除いた五名での勝負の結果。激戦の末に勝利を手にしたのはミスター・マウスさんだった。
全身を使って自分のことのように喜ぶミス・マウスさんと、その場で膝を突きうなだれる熊頭のアーノルドさんと犬頭のおまわりさん。
審議の結果、キングアラゴスタへの最初の三十秒間の攻撃権を手にしたミスター・マウスさんは、三十秒と言わず、一瞬でその巨体を甲高い笑い声と共に殴りつけては粉みじんにした。
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