第34話 #異世界の国でディプロウマスィ(外交)


 何やらかなり怒った様子の兵士が、剣先を俺に向けて睨んでいる。


 今にも剣をこちらに突き出しそうなのだが、俺の事がそんなに気に入らなかった?



「待ちなさいっ!」



 そう叫んだキャロルが俺の傍に駆け寄って来たのだが、俺には彼女が叫んだ事の方に意外性を感じてしまった。


 キャロルってこんなに怒鳴る事もあるんだなーと、そう俺が思ったと同時にさっきの兵士が彼女を見て声を上げた。



「なっ⁉ キャロル様っ⁉」


「け、剣を向けるとは何事ですかっ! あなたこそ、その行いを悔いなさいっ!」


「で、ですがこいつは……」



 物凄い剣幕で剣士を怒鳴りつけたキャロルを、納得のいかない様子で兵士が弁解し始めた時、馬に乗った兵士に先導されて二台の馬車が大広場に入って来た。


 キャロルがハッとしてそちらを見ると、兵士は剣をおさめながらも俺を睨んだ。



「貴様、そこを動くなよっ!」


「あ、はい!」



『何なの? この人……グーパンしていい?』


 やめてくれ。


『冗談よ』


 ああ、分かんないけど逆らわない方が良いよな?


 俺が入って来た馬車を見ると、二台の馬車には大きな紋章の旗がなびいているのに気付いた。


 あの紋章は……やはりこの街で何度も見た物だ。



「お母様っ!」



 お母様?


 確かにそう叫んだキャロルが、たった今広場に入って来た兵士達の方へ駆け出した。


 お母様って事は領主さんが来たって事?


 そんな彼女を目で追うと、動いている馬車の扉が突然バンっと開き、中から身を乗り出す婦人の姿が見えた。



「ああ、キャロルっ! 無事だったのねっ⁉」


「馬車を停めろーっ!」



 先頭の兵士がそう叫ぶと同時に、キャロルは馬車に飛び乗り彼女に抱きついた。



「お母様っ! エルの街は救われました!」


「ああっ! 本当だったのですねっ⁉」


「はい! ハルト様にっ! ハルト様に街も私も救われましたっ!」



 そう叫んだキャロルの目には涙が溢れ、その声も感極まった様に震えている。



「ああ、キャロル!」


「お母様ーっ!」



 わんわんと泣き出したキャロルを宥めながらも、彼女の目にも涙が溢れる。


 そこへメリルが駆け寄って来た。



「閣下ーっ!」


「ああっ! メリルっ! あなたも無事で本当に良かった!」


「はいっ!」


「助けて戴いたそのお方は、ハルト様とおっしゃるのですね⁉ すぐに紹介しなさいキャロル!」


「はい、お母様!」



 涙を流しながらも笑顔を見せたキャロルに付き添われ、婦人と一人の側近らしき女性が馬車を降り、馬車の下で待つメリルと一緒に俺に向かって歩いて来る。


 すると他の兵士も馬を降り、ガシャガシャと装備の音を立ててその後をついて来た。


 そしてキャロルは涙を拭きながら俺の前まで来ると、連れて来た婦人の手を握った。



「ハルト様、ご紹介させていただきます!」


「あ、うん」



 すると、婦人はキャロルの紹介を待たずに俺へ歩み寄る。



「貴方がハルト様ですね?」


「あ、はい、霧島悠斗です」


「私はキャロルの母、フローリアと申します。この度は何とお礼を申し上げたら……」


「あ、いえいえ!」


「あ、申し訳ございません、申し遅れました! この街の領主、ルビエンド家の当主でございます。そして、これは側近のエルデと言います。」



 そう言うと、フローリアとエルデは跪いて頭を下げた。


 すると、キャロルや周りの兵士がガシャガシャと音を立て、慌てた様子で一斉に跪く。


 さらにそれに気づいた広場の人達が跪くと、他の人達も周りの人を真似る様に順々と頭を下げて跪いた。



「いえ、本当に頭を上げて下さい! 皆さんも! お礼はキャロルさんや街の皆から十分されましたから……」


「いえ、そう言う訳にはいきません!」


「ほ、本当ですよ⁉ ついさっきまで街の皆に、もの凄い拍手して貰ったんですから!」


「拍手……? 拍手でございますか?」


「ええ! ホント、凄かったんですから!」



 頭を上げたフローリアはキョトンとした表情で俺を見上げた。


 すると、キャロルがフローリアに寄り添い、そっと彼女の手を取った。



「お母様、ハルト様はこういう方です」


「そ、そうなのですか……? ハルト様、お心遣いありがとうございます」



 そう言って跪いたまま、再度頭を下げたフローリアだったが、先に立ち上がったキャロルに促され、おずおずと立ち上がった。


 お心遣いって……飯食わせて貰ったり宿に泊まらせて貰ったり、世話されてるのは俺の方だし?



「あ、いえ、こちらこそキャロルさんには立派な部屋や、昨日から食事を沢山ご馳走になっています!」



 俺がそう言って頭を下げると、キャロルが慌てて声を上げた。



「ハルト様、それ位はさせて下さい!」


「あ、うん。本当に助かってる」


「そうですねキャロル。ハルト様がルビエンド領にご滞在の間は、身の回りの事を全てお世話させて戴きなさい」


「はい、お母様!」


「え、そんな事されても……」


「させて下さい!」



 間髪入れずにそう言ったキャロルが訴える様に俺を見た。


 その目にはまた涙も溢れている。



「そ、そう? 何だか……すみません」


「いえ! いいんです!」



 しかし、キャロル……何とも嬉しそうに返事するなぁ。


 案外、キャロルって奉仕へきでもあるのか?


 色々世話を焼いてくれるし、風呂でも背中流してくれたりしたもんな……。


『何を馬鹿な事考えてるのよ』


 あ、いや、変な意味じゃ無くて……。



「あ、お母様! 一件、通覧して頂きたい事案がございます」



 キャロルがそう言って跪くとフローリアへ頭を下げた。



「え? 今ですか?」


「はい」



 フローリアが驚いて俺の方をチラッと見ると、キャロルも俺の顔色を伺う様に訊いて来た。



「ハルト様、少しだけお時間を戴けませんか?」


「あ、俺はいいけど?」



 キャロルが何を考えてるのか分からないが、そう言われたら仕方ないでしょ?


 すると、安心した様にフローリアはキャロルに頷く。



「ええ、いいでしょう」


「ありがとうございます」



 顔を上げたキャロルはくるっと向き直り、ピンと背筋を伸ばした。



「先程の早馬の兵士! こちらへ!」


「は、はい!」



 キャロルに呼ばれ、最初に広場へ入って来た兵士が慌てて前に出て来た。


 そうそうこの兵士、かなり怒ってたよな。



「あなた、先程お母様と同道している自分を見下ろすのは、お母様を見下ろすのと等しき事と、ハルト様へ言いましたね?」


「は、はい……」


「そして、ハルト様へ剣を抜き、その剣先を向けましたね?」


「はい! 申し訳ございませんっ! お嬢様をお助けになられた英雄様とは知りませんでした! 重ねてお詫び申し上げます!」


「今回は演壇に立たれていたハルト様が、早馬として近付いて来たあなたを、偶然見下ろしていたのです。そこに非などありませんっ!」


「はい……」


「そして、本質はそこではありません! お母様に同行しているあなたに、例え剣先を向けたとしても、それはお母様に剣先を向けた事にはなりません! これまで多くの民にその様な態度で接していたとしたら、あなたこそ考えと行いを改めなさい!」


「はいっ! 申し訳ございませんっ!」



 早馬の兵士が立てた膝を地につけると、そのまま土下座をして頭を地面につけた。


 するとそれを見たキャロルが辺りを見廻して叫んだ。



「今回はこの者に私からの処罰は与えませんが、この者の上官はしっかりと教育をして頂きたく思います!」


「承知致しました!」



 フローリアの傍で見ていた兵士の一人がそう言うと、キャロルに対して深く頭を下げた。



「そして、ここに居る全ての方へ告げます! この様に権力で領民を虐げる事は、我がルビエンド領内であってはなりませんっ! これが侵された際、ルビエンドでは領主裁判権を行使するとお考えください!」


「はっ! 全ての者に通達致します!」


「よろしくお願い致します」



 キャロルは満足そうに小さく頷くと、フローリアに向き直り頭を下げた。



「お母様、以上でございます」


「ええ、拝見しました」



 フローリアにそう言われるとキャロルは頭を上げたが、今度は俺に対しても頭を下げる。



「ハルト様、お時間を戴きありがとうございました」


「あ、いや、うん……」



 キャロルの対応があまりにも力強く感じた俺は、彼女へ対しての返事に躊躇してしまった。


 例え次女であっても、これが領主の娘って事か……。


 それにしても、あの兵士に怒鳴られた時はこの国の法律か何かだと思って焦ったけど、違ってたみたいでホッとしたわ。



「キャロルは立派に成長してますね、嬉しいです」


「お母様……」



 すると、それまでシンと静まり返っていた大広場の領民達が叫びながら立ち上がると、手を叩きながら更に声を上げた。



「キャロル様ーっ!」


「ルビエンド万歳ーっ!」



 スゲーな、おい……。


 この街の人達がキャロルをあんなに慕っていたのも分かる気がする。


『いい機会だから、ちょっと私に任せて』


 え? 何を?


 アニマが操る俺は突然、広場に集まる兵士全てが見える位にまで飛び上がった。


 すると、離れた所に居た領民が俺を見つけて声を上げる。



「おおーっ! 英雄様だ!」


「ハルト様だよっ!」


「いや、ハルトくんって呼べと言って無かったか?」


「ば、馬鹿野郎! そんな呼び方出来る訳無いだろっ!」



 中にはそんな事を話す人達も居たが、兵士を含めて広場の皆が見上げている中、アニマが操る俺は構わず話し出した。



「今し方、この広場にご到着の皆様、無事にお越しのご様子で何よりです。

 僕は異世界から来た霧島悠斗と言います。


 昨夜、偶然通りかかったこの街の近くで、キャロルさんとメリルさん、モーリスさんを盗賊の襲撃から確かに扶けましたが、それは盗賊達の非人道的な行為が、僕には見るに堪えないものだったからです。


 そして、そのお礼としてキャロルさんには食事と宿を提供して戴きました。

 その食事の席で、僕がこの街へ来た理由を皆さんに聞いて戴きました。


 ですがその時、この街が十数年もの間、盗賊達の脅威に晒されていると知り、すぐに近くの村を占拠していた盗賊達を討伐しに向かいました。


 ですが、本音を言いますとこれは、行方不明となっている僕の家族の情報を、出来る限り多くの皆さんに尋ねたかったからです。

 こちらから皆さんへお願いする以上、皆さんの生活を脅かす脅威を、早急に取り除かなければいけないと考えたからです。


 そしてその事後処理は、街の皆さんが徹夜でやって下さったと聞いています。

 ですから、廃村の解放と盗賊達の拘束は、皆さんと協力して行ったとも言えます。

 僕は今後、この件で皆さんに見返りを求める気などありませんし、だからと言ってこの街で噂される神の使いでもありません!


 ですが、僕から一つお願いがあります!

 僕は家族を捜して、遠い異世界からこの世界へ来ています!

 イーリスと言う名の、ピンク色の髪をした少女を捜しているのです!

 何か心当たりがありましたら、何でも結構ですので教えて下さい!


 僕からは以上です。

 皆さん、ご清聴ありがとうございました」



 そう言うと俺は、ゆっくりとフローリアとキャロルの前に降りた。



「閣下、お時間を戴き感謝いたします」



 こいつ、やっと降りて来やがった!


 あのなぁ、アニマお前、高い所から長々と喋り過ぎなんだよ。


 また短気な兵士に剣突き付けられるだろー?


『うっさいなー』


 すると、フローリアが俺の前に一歩二歩と近づいて来た。



「ハルト様、お申し付けは確かに承りました。お探しのお方は、イーリス様……でございますね?」


「はい。ピンク色の髪をした幼い少女なんです」


「幼い少女ですか……」


「七、八歳位に見えると思うんです」


「それは心配です……」



 そう呟くと、フローリアは連れて来た兵士達を見て左手を高々と上げた。



「近衛兵達に命じます! 直ちに領内全土に通達して下さい! 今すぐにイーリス様の情報を全力で集めるのですっ!」


「はっ!」


「承知しましたっ!」


「私の警護はこの街の衛兵でかまいません! すぐに近衛兵は城へ戻り、この事全てを我が夫にも伝えて下さい。皆さん、道中は気を付けて戻るのですよ⁉」


「はっ! 直ちにっ!」



 兵士達が大広場から一斉に出て行くと、キャロルとメリルがフローリアに駆け寄った。



「お母様!」


「ラトナラジュ閣下! ありがとうございます!」


「キャロル、メリルも……ハルト様はご恩人です。居なくなってしまった家族を捜す、これは至極当然のことですよ?」



 そう言うとフローリアはキャロルとメリルに優しく微笑んだ。


『ねえ、ハルト』


 ん? 何?


『あたし、この人好き』


 キャロルのお母さんか?


『うん』


 ああ、俺もだ。


 フローリアが俺に挨拶した時、キャロルの母だと最初に言った。


 先ずは娘を助けられた母として俺に会ったのだ。


 これだけの街を治める領主であれば、領民を前にして中々そうはいかないだろう。


 色々な面子やしがらみもあるに違いない。


『だからって訳じゃ無いけど、彼女とも握手して』


 ま、マジかよ……。


 またミランダ達みたいにならない?


『この人ならハルトに気負いしないでしょ、キャロルのお母さんだし、しかも領主だし?』


 わ、分かったよ。



「あの、領主さん……」


「はい、ハルト様。私はこの街の領主に違いありませんが、遠い異世界からお越しになられたハルト様には、私の事はフローリアと呼んで戴けませんか?」


「え……フローリアさんですか?」


「ええ、領主はこの国には大勢いますから」



 そう言うと彼女は俺に微笑んだ。


 そう言う事?


 でも、この街にいたら領主さんでもいいじゃん?


『そんな事はどうでもいいから握手してよ』


 わ、分かってるよ。



「で、ではフローリアさん、改めてどうぞよろしくお願い致します」



 俺は彼女に握手の手を差し出した。


 勿論、出来る限り最高の笑顔で……。



「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」



 フローリアがそう言って俺の手を握ると、瞬時にアニマがステータスを読み取り、そのログを俺に見える様に流した。


 ラトナラジュ侯爵・フローリア・ルビエンド……三十二歳、あれ?


 ラトナラジュって名前じゃ無いのか?


『ええ、爵位の称号みたいね。それと、間違いなくキャロルとは濃い血縁があるわ』


 まあ、親子だと言ってたしな。


『やっぱり特殊なスキル持ってる』


 そっかー、やっぱり領主さんだから?


『それはどうなの?』


 それよりさ、三十二歳って……地球では四十八歳くらいだよね?


 めっちゃ若く見えるけどっ⁉


 キャロルの姉さんって言われても信じるぞ?


 モーリスは見た目より年齢は若かったけど、この人は逆だな。


『あの人は老け顔なのよ』


 フローリアはそっと俺の手を離すと、キャロルを見て微笑んだ。



「キャロル、あなたがハルト様にお逢い出来たのは、ルビエンド家にとってもこの上ない幸運です」


「はい、お母様!」


「では、お集りの皆さんにご挨拶を済ませてから、メルドの宿へ行きましょうか」


「はい! メルドもアイカもきっと驚きます!」



 厳かに演壇へと上がったフローリアは、集まった領民達を見回すと頭を下げた。


 それを見た領民達がざわざわとし始めると、彼女はゆっくりと顔を上げて話し出した。



「お集りの皆さん。昨夜、娘であるキャロルがこの街へ向かう途中、盗賊に襲われた所を、遠い異国からお越しの方に助けて戴いたとの報告を受けました。


 その報告を受け、夜明け前に居城を出立する用意をしていた所、今度はノーフォス村を十二年前から占拠し、更にはこの街の脅威にもなっていた盗賊達が、全て捕獲されたとの連絡を戴きました。


 これを聞いた時、私にはとても信じられない程の事でしたが、ノーフォス村を解放し盗賊を捕まえて下さった方こそが、娘を助けて戴いた異国の方だと聞かされました。


 これまで盗賊達に酷く虐げられ、ノーフォス村の方々やエルの街の皆様は、十二年もの永い年月、辛い生活を過ごされていた事でしょう。

 ですが、今日この日からは以前のエルの街の様に、いえそれ以上に素晴らしい街としていきましょう。

 それは全てこちらにおられる、ハルト様のお陰に違いはありません。

 ですが同時に、これまでの皆さんの苦労も決して無駄では無かったという事です。


 これまでの永い間皆さんが苦労をしてきたのは、領主である私の不甲斐なさゆえの事、それをこの場をお借りして深く謝罪致します。

 そして今後は、更なる街の改善をお約束致します」



 話を終えたフローリアが再度頭を下げると、演壇の傍で聞いていた人々から順々と跪き頭を下げ始めた。


 お詫びって……これが領主?


 思ってたのと随分違うけど……?


 そう思って人々を見回すが、フローリアの話を聞き入っていた人達の中に、ただの一人として彼女を責め立てる者はいない。


 それどころか、涙を流して手を合わせる者も居る。


 暫くして頭を上げたフローリアが厳かに演壇から降りると、人々は歓声を上げて手を叩いた。


 そしてその後も街の平和をいつまでも喜び合っていた。



 ♢



 俺がフローリアやキャロル達と一緒に宿へ戻ると、待ち構えていたメルドと大勢の使用人達に出迎えられた。



「ああ、ラトナラジュ閣下! よくぞいらっしゃいました!」


「お元気そうで何よりです! ラトナラジュ閣下」



 宿の支配人メルドと食堂の責任者アイカがフローリアへ挨拶をすると、他の使用人達が跪いて頭を下げた。



「アイカもメルドもやめて頂戴。近衛兵も居ないし、この宿に居る時ぐらい堅苦しいのは嫌ですよ」


「はい。それにしても……八年ぶりでしょうか」


「ええ、八年と半年よ。アイカもメルドも元気そう、他の皆さんもお変わりなくて?」



 部屋へ案内をされる際に、その後をついて来る使用人の数は二十人を優に超えており、俺にはそれが仰々しくも感じたが、領主が来たとなればこれが当たり前なのだろうか。


 結局、今朝の部屋へ戻って来た俺は、フローリアに薦められるがまま大きなソファーに座らされた。


 今朝、一階の食堂でキャロル達にお母さんと会ってくれと頼まれたしな。


 領主の願いを聞いてくれって言ってたし、メリルの心理状態を探ったアニマの推測によると、近隣諸国との外交問題やら娘の結婚問題とかを、キャロルのお母さんであるこの領主が悩んでいるらしいが……。


 実際、何を話し出すのか見当も付かないけど、まあここは聞くしか無いか。


『うん、領主の願いってのを直接聞かない事には……』


 領民や国民を救ってくれとか……かな?


 何だかやっぱり大事おおごとになってきた気がする。


 だけど、多くの兵士さん達が城へとんぼ返りしてまでイーリスの情報を集めてくれている訳だし、俺に出来る事なら何かしないと……。


 目の前にはフローリアと側近のエルデが座り、その横にキャロルとメリルが並んで座った。


 その表情はかなり硬く、そっと精神状態を探ると四人共かなりな緊張感が見られる。



「ハルト様、改めてこの度は本当に感謝しております」



 フローリアがそう言って頭を下げると、三人も前のテーブルに当たる程に頭を下げた。



「いえいえ、先程お話した様に、僕も消えた家族の情報をお願いしましたし……」


「はい。それはもとより、出来る限りの事はさせて頂きます」



 フローリアがそう言ってから横に座るエルデを見ると、彼女はテーブルの上に台帳の様な紙の束をそっと置いた。


 そしてチラッと俺を見たが、すぐにその視線をテーブルに置いた紙に落として話し出した。



「実は廃村を占拠していた盗賊達の殆どが、指名手配犯と賞金首でして……」


「賞金首? あー、そうだったんですね」


「はい、中でも幹部と思われていた賞金首が八人、その懸賞金だけでもかなりなものになります」


「おおっ! そうなんですか⁉」


「はい。衛兵隊長であるミランダの確認も済んでおります」



 つーか、賞金首とか居るんだ⁉


 しかも、懸賞金がかなりなものって……どの位?


 

「でっ⁉ どの位の金額です?」



 すると、エルデはテーブルの上に置いた紙の束から数枚を抜き取ると、自身の前に並べた。



「そうですね……こちら八人の懸賞金だけでも大金貨五十五枚と小金貨三枚、そして大銀貨六十五枚になります」



 そう言って数枚の紙を俺に見せた。


 だが、写真では無く似顔絵だ。


 そして、下には色々と特徴や罪状が明記してあった。


 手配書に気を取られていたが、懸賞金が金貨とか言って無かった⁉



「……えと、金貨?」


「はい。金貨は大金貨と小金貨の二種でございます」



 金貨って金で出来てんのかな⁉


『普通はそうだけど?』


 いや待て、金メダルって純金じゃ無いよな?


 あれはメッキだと聞いた事がある。


 大金貨とか小金貨って言っても、やっぱ金メッキした合金じゃない?


『通貨の価値を聞いた方が理解しやすいね~』


 そうだよな。



「えっと、俺にはその価値が分かんないけど……」


「これは申し訳ございません! ルビエンド領土で換算しますと、一般領民の平均月収が小金貨二枚程でしょうか」



 平均月収が小金貨二枚って……一枚十万円弱位かな?


『まあ、その程度の価値かもね~』


 じゃあ、小金貨三枚で三十万じゃん⁉



「おお! じ、じゃあ! 大金貨一枚は?」


「はい。最近の相場では、小金貨十枚と大銀貨十枚が大金貨一枚でございます」


「相場?」


「はい。時期によっては小金貨一枚程の上下はありますが……」



 相場があるんだ?


 で、どの位の価値なの?


『小金貨を十万円の価値としたら、五千五百三十万円ね』


 はぁ⁉ ごせんっごっ⁉ 


 マジかよっ!


 ポルシェの新車が買えるじゃん!



「そんなにっ⁉ すっげーっ!」


「はい! 先ずは賞金首の懸賞金を早急にご用意致しますが、これとは別にルビエンド家からの報奨金もございます」


「え、報奨金? マジすかっ⁉ それはどの位になるんです?」



 領主さんからお礼金みたいなのがあるって事かな?


『あー、領土への貢献とかキャロル達を助けたからかな?』


 だとしたら凄いじゃん!


 既に五千万超えてる訳だし、合計で六千万とか七千万とかっ⁉


 かなりな金額を貰えるって事じゃん!



「はい。村の解放だけでなく、盗賊団の壊滅はこの街の脅威も除去された事になりますし、その報奨金はかなりなものになります」


「お、おお……」


「しかも、ルビエンド家の御令嬢と使用人二名を救って戴けたとなると……」



 そう言ってエルデがフローリアと顔を合わせると二人は軽く頷いた。


 俺はそっと唾を飲む。


 緊張するぜ……。


 すると、フローリアが俺と目を合わせると深々と頭を下げた。



「ハルト様。お助け頂いた娘や使用人達の命は、勿論お金では計れないものではありますが、せめてものお礼として大金貨七百枚をご用意してございます」


「な、七百枚ーっ⁉」


「あ、いえ、ハルト様がご納得頂ける金貨を、出来る限りご用意させて頂きます」



 は?


 ちょっと、納得も何も七百枚って⁉



「いやいや、そんなにっ⁉」


「はい」



 って、良く分かんないけど、どの位の価値になる?


『七億円相当ね』


 ぎゃぁああああああああああーっ!



「ま、マジすかっ⁉」


「ハルト様には是非ともお受け取り戴きたく……」


「あ、それは結構です」



 間髪入れずに俺が断ると、フローリアだけでなく目の前に座る皆が、ハッとした表情で俺を見た。


 そして、彼女達のその目は驚愕した様子で見開いている。


『あはははーっ! 行き成り拒絶しないでよ、思わず笑っちゃったし』


 あ、いや、こういうのはキッパリと断らないとだな。


 俺はそんな大金を貰う気にはなれないのだ。



「は、はい?」



 エルデが思わず聞き返すと、横に座るキャロルとメリルの表情も強張った。



「ハルト様っ⁉」


「だって、そんなにお金貰ってもここに長居する気無いし?」


「え……」



 彼女達は信じられないものを見る様な目で俺を見つめる。


 ここに居る間の滞在費は必要かも知れないけど、そんなに俺が受け取ってもなあ?


『仮に純金だとしたら何十キロにもなるし、邪魔ね』


 何十キロか……それは考えて無かった。


 それに今、本当にお金が必要なのは俺じゃない。


 俺は解放した村の人達について、今朝ミランダ隊長と話した事を思い出していたのだ。


 俺に無茶を言われ、ミランダ隊長も頭を悩ませているかも知れないしな。


『ミランダさんを呼んで貰う?』


 ああ、そうして貰えたら直接やり取りして貰えるかな?



「あの村に沢山の人が捕まってたでしょ? 俺が貰えるお金があるのなら、その人達にあげて下さい」


「で、ですが……」


「ミランダ隊長が必要になるお金だと思いますよ?」


「え? ミランダ隊長が?」


「ええ」


「この場にミランダ隊長を呼んで貰える事って出来ませんか?」


「え、ミランダをですか?」



 すると四人はそのまま顔を見合わせてしまった。


 あの村の人達は十数年も盗賊達に虐げられて居たのだ。


 家族や夫を殺され……。


 もっと早く俺が来ていればとあの時は思った。


 それにモーリスに連れて行かれた店の女性も村の出身だと言っていた。


 あの人達だってきっと辛い生活をしていたに違いない。



「ハルト様のご希望であれば……」


「それにね、この街の人達だって十数年もあいつらに嫌な思いしてたんでしょ? 皆で分けて下さいよ。あ、でもそうなると足りなくなるかな……うーん、やっぱミランダさんに相談しなきゃな。村の人達が優先だろうし……」



 この街の人口が何人なのかは知らないけど、七億あっても街の皆で分けたらかなり減るよね?



「ハルト様。ミランダはすぐにお呼びいたします。ですが、お受け取りになって頂かないと……。ハルト様にお願いをする事が出来なくなってしまいます」



 エルデがそう言うとフローリアと顔を見合わせた。



「エルデ、すぐにミランダ隊長を」


「はい。ではハルト様、失礼致します」



 エルデがスッと立ち上がると、俺に一礼をしてそのまま部屋を出て行った。


 で、俺にお願いする事って何だと思う?

 

『今朝キャロルとメリルに頼まれたでしょ』


 あ、その事?


 それは分かってるし。


 最初から出来る事はするつもりだったじゃん。



「ああ、お願いがあるってキャロルとメリルが今朝言ってましたよね?」



 俺がキャロルとメリルを見ると、二人が困惑した表情のまま頷いた。



「はい……」


「それとこれとは別ですよ? ちゃんと話を聞きますし、出来る事はするつもりです。でも、フローリアさん。あの村や街の人達にこそ大金が必要になるんですから、そちらを優先して下さいね?」



 そう言うと、三人は安心した表情で俺を見たが、どうやらキャロルがフローリアの手をテーブルの下でギュッと握っている様だ。


 仲の良い母娘だな。


 すると、ドアをノックしてエルデとミランダが入って来た。



「ハルト様、お呼びでしょうか」


「あ、ミランダさん。お忙しい所すみません。今朝の話なんですけど……」


「はい。解放して戴いた村の方たちでございますね?」


「うん。賞金首だった盗賊数人分の懸賞金を戴けるらしいんですけど、それをミランダさんに預けるって事でいいですか?」


「え?」


「えーと、大金貨五十枚位だったかな? それを村の人達の為につかって下さい」


「そ、それは……」


「で、それ以外にもフローリアさんから報奨金を沢山用意してくれるって言われたんだけど、そっちは村と街の復興に用立てて欲しいんだ」


「し、しかしっ!」


「んー、そうなると町長さんとフローリアさんが直接相談した方がいいのか……」


「そ、それは……そうでしょうが……」


「なら、フローリアさん」


「はい」


「もう、全て皆さんで決めちゃって下さい。俺はその辺りに詳しく無いので」


「え……」


「兎に角、僕には懸賞金も報奨金も必要無いですから」



 すると、エルデが呟くように俺の名を呼んだ。



「ハルト様……」



 その彼女の目が未だに疑心暗鬼に俺を見ている様で心地悪い。



「あー、何度も言ってますけど、俺はイーリスを見つける事が出来ればそれで良いんです」



 いくらお金や物を貰ってもな……。


イーリスが居なきゃここまで来た意味も無い。


 

「ハルト様、大変恐縮でございますが……」


「うん、エルデさん何ですか?」


「どうしてそこまでして頂けるのですか?」



 やっぱりこの人、俺を疑ってるよね?


 領主の側近だもん、人一倍責任感も強いんだろうな。



「あ、ですからね? 俺はなるべく多くの人にイーリスの情報を教えて欲しくて、その代わりに俺は出来る事をしただけですよ?」


「それは何度もお伺いしましたが……」


「慌ててあいつを追いかけてここまで来ちゃったけど、今の俺にはイーリスの居場所がわかんないからさ。結局、誰かの助けが必要なんですよ。一人じゃ何も出来やしない。実を言うと、俺の出来る事何てホント、たかが知れてるの」


「ハルト様……」



 エルデはさっきよりも少し表情は穏やかになってはいるものの、完全に疑念が無くなった訳ではないだろう。


 それでも俺には強みがある。


 金品を受け取らなきゃいいだけだよな?


『まあ、必要も無さそうだしね』



「それよりもさ、フローリアさん。領主としての頼みってのを聞かせて貰えます?」


「あ、はい……恐れ入ります」



 フローリアがそう言って頭を下げると、エルデ達四人も頭を下げた。


 そして、顔を上げたエルデが先ずは近況からと話し始めた。



「ハルト様、我が領土のあるこの大陸には、幾つかの小国もございますが、ほぼ二つの大国に二分されております」



 この大陸には大きな国が二つと、小さな国が幾つかあるって事か。


 しかしそうか、ここは大陸なのか!


 島国で育った俺にしてみれば、大陸中を見て回りたい気もする。



「そうなんだ」


「はい。これより北東にガルドル王国があるのですが、そちらとは永い間、産業や兵力等の均衡を保っておりました」


「ああ、同じ位の規模って事かな?」


「そうだったのですが、小さな近隣諸国の吸収合併も関係しているのか、近年その均衡が崩れ始めているのです」


「あら、そうですか……」


「はい。国境付近の小さな王国を事実上占拠し、我が王国の村や街にまで派兵する様になったのです」



 え……侵略って奴?


 他の小さな国を占領して、そのままこの国へ攻めようとしてるって事か?



「それは……穏やかじゃ無いですね」


「そんな最中、先日ガルドル王国からこちらの王国の娘を数名、王妃に迎えたいと提示があったのです」


「数名? どういう事? 合同結婚式とか?」


「いえ、ガルドル王室は多妻制なのです」


「マジかよっ!」


「王室の多妻制自体は珍しい事ではありませんが、こちらの王室や公爵の娘を複数妻として迎えると言うのは、完全に我が国を見下した行為です」


「そうだろうね……」


「我々の王国が女王が治めると分かっていながらの提案なのです」


「あ……そうか! 酷い話じゃん!」



 近隣の小さな国を占領して境界まで出兵しておいて、女王の娘をよこせとか……。


 反社ですか?


 あ、いや、そんな次元じゃ無いよな。



「長女のフランソワ様は両国の親善となるのであればと、婚姻の決意はなさったのですが……」


「え……」



 そんな所へキャロルのお姉さんを?


 やれるわけねーだろっ!


 俺がそっとキャロルの顔を見ると、俺をジッと見ていた彼女は小さく頷いた。



「ですが、旦那様のお考えはそうでは無いのです。これは王室の血縁だけでなく、この国の力のある貴族達を手中に収めようと考えた、ガルドル王の愚案に違い無いと……」


「うん……俺も何だかそう感じる」



 俺も何と無くそう感じるが、本当にそれだけの理由なのか?


『情報がこれだけだと判断出来ないわね』



「これは私個人の見解ではありますが、旦那様のお考えに同様の意見を持っています」


「ふむ……」



 エルデはキャロルのお父さんに賛成してるって事か。


 この大陸がどの位の大きさなのかは分からないけどさ。


 何とかいい方法ない?


『この大陸の広さは不明だけど、二国の外交問題は何とか出来るでしょ』


 マジすか、アニマさん!


『ガルドル王国がどうしてこの国へ攻めて来てると思う?』


 は?


 そんな事、分かる訳無いじゃん。


『この国へ攻めるメリットがあるからでしょ』


 いや、まあそうなんだろうけど。


『でもそれには、想定以上のデメリットがあるって分からせたらいいのよ』


 あ、なるほど!


 この国への侵攻は当然ガルドル王国なりに考えて決断した事だろう。


 攻めた場合、兵の損失や食料維持等のデメリットよりも、メリットの方が大きいと考えたからこそ、こうしてちょっかいを出して来ている訳か。


 この国へ攻めるのは、明らかにデメリットの方が多いと知らしめれば良いって事だな?


 でも、どうやって知らしめる?


『今から行っちゃう?』


 は? 何処へ?


『北東にあるガルドル王国でしょ?』


 ちょ、マジすかっ⁉


『あ、勿論この国の女王様に一言伝えてからね』


 女王様って……本気かよ。


 ふと気付くと、目の前の五人が心配そうに俺の顔色を伺っていた。



「ああ、ごめん。それで、この国の女王様は何と?」


「はい。陛下は争いは避けるお考えだと、公爵より伝えられております」



 そうは言っても相手は無茶苦茶な要求して来てんじゃん。



「直接女王陛下に話は出来ないの?」


「そ、それは……」


「ハルト様であっても、今の女王陛下には直接お会い出来ません」



 エルデがそう言って残念そうに俯くと、フローリアも難しそうな表情で俺を見た。



「私が最後にお会いしたのは十二年前です」


「えっ? そんなにっ⁉」



 流石に大国の女王様ともなると謁見するのも珍しい事なんだろうか。



「以前はこんな事など無かったのですが、十三年程前ある公爵が突然、女王様への謁見規定を定めたのです」



 公爵って王族に一番近いんでしょ?


 それが庶民だけでなく他の貴族にも会わせなくなったって事か。



「どうしてそんな規定が?」



 するとフローリアが、その話をするのにはもう少しこの国の歴史をお聴き下さいとゆっくりと話し出した。



「今から五十六年前、ルビエンド領土が今のルルディア国に統治される前は、小さくとも平和で豊かな小国の王族でした」



 歴史って言っても、五十六年前ってまだそんな昔じゃ無いよな?


『地球時間では八十年近く前ね』


 あ、そこそこ昔じゃん。



「ルビエンド家は代々自国であるジュエリナ国を治めておりましたが、近隣諸国や他の大陸の国々との交流が盛んになると、ジュエリナ国は古くから親交のあった隣国、ルルディア国との二国合併をしたのです」



 フローリアさんって元は王家だったんだ!


 そして外交も盛んになって、今後脅威となりえる国から自国を守る手段って事かな?


『ありがちな歴史ね』



「合併後のルビエンド家は、ジュエリナ国の王族としてルルディア国女王陛下と直接の交流もあったのですが、十五年前に北の小国を吸収合併した後、十二年前突然ルビエンド家は侯爵とされ……」



 そこまで話すとフローリアの表情が少し強張った。


 王家から侯爵って……。


 しかしそうか、その頃から女王と距離を置かれたって事か……。



「そして十二年前、あの村を襲った盗賊の一味がこの街の周りで犯罪を始めた後、何度も女王陛下へ謁見を求めたのですが……」


「ルビエンド領の出来事は全てルビエンドで解決されよと、バルム公爵が伝令して来たのです」



 フローリアの言葉が詰まるとすぐにエルデがその後を続けた。


 その瞳には怒りの感情も見える。



「バルム公爵って人とは?」


「北の小国、バルム王国の前国王でございます」


「なるほど……その国が吸収合併された後、前国王がこの国の公爵になった訳か」



 明らかに十五年前に吸収合併したバルム王国が怪しく無いか?


『恐らくバルム王の策略ね』


 だよな⁉


『廃村の盗賊達も繋がってるかも』


 マジかよっ!


『バルム王国を吸収合併した頃から時間軸で追ってみて』


 バルム王国を吸収合併したのが十五年前だろ?


 で、その二年後に北の村に盗賊が住み着いたんだよな?


 そして街への嫌がらせと、ルビエンド家のルルディア王室からの排除……。


 ど、同時期じゃん!


『でしょ? ガルドル王国との癒着も想定出来るじゃん?』


 そ、そうか!


 ガルドル王国とバルム王国が手を組んでいたって事か!



「領土の税金はルルディア国へ納めているのに、そちらの領土で解決しろとは……」



 そう言うと、エルデが悔しそうに唇を嚙んだ。



「それは酷い話ですね……」


「しかも増税が毎年行われていて……」


「そうなんだ?」


「はい。それも十三年前から毎年増えております」


「税金が増えてるって事?」


「はい。今では十三年前の六倍なのです」


「うわ……」


「そうなんです! それも腑に落ちません!」



 キャロルがテーブルに手を付き身を乗り出すと、俺に声を上げて訴えた。


 物価の上昇を考慮してもかなりなものだよな。



「キャロル……」



 フローリアがキャロルを見て寂しそうにすると、ソファーに座りなおしたキャロルが寂しそうに言った。



「私が生まれた時には、女王陛下が自ら早馬で駆けつけて下さったと、幼い頃から聞かされております」


「ええ……そうでしたね」


「お母様、一体女王陛下はどうされてしまったのでしょうか?」



 大まかな事情は分かった。


 この国の情勢がヤバい方向へ向いているのは事実。


 十五年前、ガルドル王国とバルム王国が最初から仕組んで、バルム王国をこの国に吸収させ、内部から崩そうとしているとも考えられる。


『あ、そこに気付いちゃった?』


 あ、お前気付いてたのか?


『完全な憶測だからね。ガルドルへ行って確かめたら早いじゃん』


 だからすぐに行こうって言ったのか?


『そゆこと』


 だとしたら、捕まえている盗賊のボスに尋問したらどう?

 

 二国が繋がっていると言う裏付けを何か取れないかな?


『どちらかの国だけでも良いんだけどね』


 白状するかな……。


『依頼者に裏切らせるのが効果的かも』


 と、言うと?


『依頼者がガルドル王国かバルム王国だと想定して、その国の大使が暴露したと伝えるのよ』


 この街の脅威になれと盗賊に依頼したと?


『そうよ。そして、当初の目的は済んで盗賊達に用が無くなったから、捕まえたのなら処刑しても良いと言ってるとかね』


 ゆさぶりをかけるんだな?


 でも、そんなに上手くいくか?


『ま、失敗したら直接ガルドルへ行って確かめたらいいし』


 んー、アニマって何だか俺よりも大雑把に感じるけど……。


 まあ、捕まえた奴らに会うのが先か。


 外交には根回しも大切だよね。

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