1回戦 Sランク冒険者ゲーム49
その後、俺は新しい折り紙に充分に慣れたと判断したら、MPが切れるまでアイテム複製魔法Lv.1を使用した。
「ちょっと思ったんだけど、烏丸くんはMPが切れても苦しくならないの?」
安来鮎見は金魚の折り紙を作りながらそう訊いた。
「うん……。別に何ともないな」
「でも、あの守銭奴の回復魔術師の人は、私達にヒールを使った後、苦しそうにしてて、MP切れだって言ってなかった? それはどうなってるんだろう」
安来鮎見が疑問を投げかけたが、誰も分からなかった。
というわけで、翌朝、食堂にやってきた鈴本にその質問をぶつけてみた。幸い、鈴本が読んだ本に説明があったらしく、すぐに答えてくれた。
「ああ、それは僕らの最大MPが少ないから、MPが切れても影響が少なくて何も感じないだけだよ」
「どういう意味?」
安来鮎見は首を傾げてそう訊いた。
「例えば一般人が100メートル全力疾走した場合、少し休んだらすぐに体力が回復するけど、10キロも全力疾走したら凄く疲れて、なかなか体力が回復しないだろう? 同じように、MPを10全消費したところで大して疲れないけど、MPを10000も消費したら凄く疲れる、って感じみたいだね」
「うーん。まあ、何となく分かったかな。おにぎりを3個食べただけで満腹になる人の『満腹』と、フードファイターの『満腹』はレベルが違うってことね」
安来鮎見はそう言い、頷いた。なぜフードファイトに
その後、朝食の時間になっても青山だけが現れず、俺は青山を起こしに行った。
「解体所も、とんだブラック企業だったよ……。2時間だけって約束だったのに、休憩なしで親方に怒鳴られながら6時間以上も魔物の解体作業をやらされて、途中でバックレてきちゃった……」
目の下に大きな
「えっ。バックレちゃったの? じゃあ、お給料ももらってないの?」
夏目理乃はそこが気になった様子でそう確認した。
「うん。もらってない」
「働いた分はちゃんともらわなきゃ駄目よ。サービス残業とかタダ働きなんてしたら、敵の思う壺よ。1人でお給料をもらいに行くのが辛いなら、11人全員で抗議しに行きましょう」
夏目理乃は厳しい表情でそう言った。
「敵なんだ……」
安来鮎見は夏目理乃の方を見ながらそう呟いた。
相変わらず角ウサギ肉だらけの朝食を終えた後、夏目理乃の宣言通り、本当に11人全員で解体所に乗り込むことになった。口の悪い解体所の親方は青山のことを「根性無し」呼ばわりし、「途中で逃げ出したから給料なんて払わん!」と言い放ったが、夏目理乃は一歩も引かず、親方と5分以上も口論を続けた。
「副ギルドマスターのエイブラムさんに、解体所で組織ぐるみの横領の疑いがあると報告させてもらうわ」
夏目理乃がそう宣言したところで、遂に親方が根負けし、青山が6時間分働いたという証明書を発行させることに成功した。それをギルドの受付に持っていくと、ちゃんと給料が支払われた。
「夏目さん、ありがとう……」
少し顔色が良くなった青山は、夏目理乃に頭を下げてお礼を言った。
「別に。私は、不当に搾取されるのが許せなかっただけだから」
「理乃、偉いよ。今回は悪役っぽくなかったね」
有希は感心した様子でそう褒めた。
「あっ。しまった。もっと商人っぽいロールプレイをしないと……」
夏目理乃は反省した表情でそう言った。
「夏目さんの中の商人のイメージはどうなってるんだよ!」
俺はそう突っ込んだ。
そして、昨日までと同じように朝の訓練をしたり、夏目理乃が新作の折り紙を卸しに行ったり、国吉文絵がポーションを作ったりした後、昨日と同じダンジョンに向かった。
途中の小休憩のときには、立花光瑠がそこらへんに生えている雑草に向かって生長促進魔法Lv.1を使用しているのを目撃した。おそらく、職業レベル上げのために使い道のないMPを消費しているのだろうと思ったが、俺は有希のようには上手に立花光瑠とコミュニケーションをとれないので、何も言わなかった。
ケイヴタートス狩りをして平均レベルの底上げをした後、Fランクに昇格するための魔物を狩ることになった。
冒険者デビュー初日は、タイミングが全く合っていなかったせいで角ウサギに槍の先端を当てることができなかった佐古くんは、ステータスが上がったことと地道な訓練のおかげで、ついに角ウサギを倒すことに成功した。佐古くんは感情をあまり表に出さないタイプだが、このときばかりは嬉しそうなのが伝わってきた。
そして、他のメンバーも続々と、Fランクに昇格するための魔物を狩ることに成功したのだが――。
唯一、鈴本だけは角ウサギを1羽も倒すことができなかった。最初は虚勢を張っていた鈴本も、最後の方は無言で思いつめたような表情になっていた。
あー、これはあれだ。小学生の頃、体育の授業で逆上がりをやらされたときのことを思い出すな。俺はクラスの平均くらいのタイミングで逆上がりをできるようになったけど、クラスで1番太っている男子が全然できなくて、その男子が自称熱血教師に逆上がりをやらされるのを他のクラスメート達全員と一緒に見てたときの気分だな。見てる方も辛いんだよな、こういうの。
逆上がりが何の役に立つんだよ、別にできなくてもいいじゃないか、って、だんだん自称熱血教師に対して苛立ってきたのを思い出してしまった。
「でもまあ、鈴本も動かない的には槍を当てられるようになったんだから、大きな進歩だよ」
青山はそう慰めた。
「そうだよ。今日はたったの3回しか、階層を移動するときに足を滑らせなかったし」
俺も、鈴本の成長したところを必死になって捻り出した。
「別に今日倒せなくても、1回戦が終わるまでに倒せるようになればいいんだから。焦ることないっしょ」
有希はそう言って、目標を限界まで下げた。
他のみんな(無口キャラの立花光瑠を除く)も必死に慰めた。朝倉夜桜本人は慰めようとしなかったが、その分身である褒め上手のコンちゃんは、鈴本のいいところを列挙した。そのおかげで帰路に着く頃には、鈴本は普通に話すようになってくれた。
こうして俺達は、1回戦開始から4日目にして、鈴本と米崎以外の10人全員がFランクに昇格することができた。
2日連続でブラックな職場から逃げ出した青山は、夜は休むべきだと思い直し、もうアルバイトをしようとはしなかった。
5日目、6日目も別のダンジョンに潜り、俺と青山と千野と有希と夏目理乃と立花光瑠の6人は、Eランクに昇格した。
残念ながら鈴本はGランクのままだったが、もうこれ以上鈴本の成長を待てないと判断し、スプリングワッシャーの街を出て、南にあるギアウィル王国の首都に向かうことにした。
スプリングワッシャーから首都までは、徒歩で3日かかる。乗り合い馬車もあるのだが、馬車は魔物が出現する森を大きく迂回しているため、徒歩で最短距離を歩くのと同じくらいの時間がかかってしまうらしいし、運賃は結構高かった。
「歩くのはタダなんだから、徒歩一択でしょ! 馬車なんてもったいない! 贅沢は敵よ! 歩くのは体力作りになるし、途中、出現した魔物を倒せば経験値稼ぎもできて一石二鳥よ!」
夏目理乃が強硬にそう主張し、徒歩で移動することになってしまった……。
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