第7話 絶好調と解散

 翌日、耕介のグループは隣県のパーラー大丸にいた。


 メンバーは、耕介をリーダーとして、リーゼント広清とスリム川吉だ。


 嬉しいことに、リーゼント広清は上手かった。


 コインを5箱以上出した状態から、ひと箱ほど飲み込ませ、苛立つ素振りを見せたあと、更に3箱を出すという様子を巧みに店員に見せながら、着々と箱を積み上げて行った。


 それに対してスリム川吉は、朝イチからずっと波もなく出し続けたため、耕介が何度か『合図』を出して、トイレで注意しなければならなかった。




 山根先輩のグループは、ヤマトク市のサンコーにいた。


 昼に一度、電話で様子を聞いたときは、「店員が、あわくってコインの補給をしている様子が痛快です!」と笑いながら言っていた。


 コインの出し具合は、耕介のグループと同じくらいだったので、おそらく上手くやっているのだろうと判断した。


 念の為、他の客の具合を聞いたところ、最高で5箱くらい出している客もいたが、やはり10箱も出している客はいないようだった。


 これも耕介のいる店と状況は同じだった。




 ☆☆☆




 駅の喫茶店でコーヒーを飲んでいたスリム川吉は、耕介の姿を確認するとそそくさと金を払って喫茶店から出てきた。


 「広清はまだやってるんですか?」と、券売機で新幹線のチケットを購入している耕介に尋ねた。


 「いや、僕より先に店を出たから、もうホームにいるんじゃないかな?」と耕介は答えた。


 ホームに上がると、ベンチで弁当を食べているリーゼント広清を見つけた。


 「スンマセン。腹減っちゃって。一緒に食います?」と言いながら、耕介と川吉にキヨスクを指差した。


 広清も川吉も、大勝の喜びを隠せず、表情にニヤ付きが貼りついていた。




 新幹線でヤマトク市に戻ると、そのまま居酒屋「だん」に行った。


 「だん」はテーブル毎に衝立で仕切られているため、勝利金の勘定には好都合だった。


 山根先輩のグループは、既に計算を終えてビールを飲んでいた。




 「お疲れ様でした。そっちはどうでしたか?」と山根先輩は、ニヤニヤしながら耕介に聞いた。


 「上々だよ。」と耕介は言いながら、山根先輩グループの稼ぎを確認した。


 3人で42万円。


 予定通りの金額だったのでホッとした。


 耕介のグループは48万円だったので、一人あたり7万4千円の勝利金を配り、店の飲食代は耕介がおごった。




 次の日からは、一人の勝ち額は1店舗5万円までとして、近くの店を可能な限り回る作戦とした。


 山根先輩のグループは、新幹線で隣県まで行き、パーラー大丸周辺を回り、耕介のグループは、ヤマトク市のサンコー周辺を回った。




 稼ぎは順調に伸び、作戦最終日には、メンバー各人の儲けも25万円ほどになり、耕介の儲けも予定の200万円を優に超えていた。


 メンバーは、最後は盛大な打ち上げを期待していた様だったが、いつもの居酒屋でそっと解散式を行った。




 リーゼント広清が、「まだまだやれる、もっと稼ごう!」と言い、他のメンバーもそれに同調したが、耕介はこう言った。


 「多分、あと1週間くらいは行けると思う。でも、上手く行っているうちにやめとこう。折角の稼ぎと、いい思い出が大問題に変わってしまう可能性だってある。ここから先は、みんなの稼いだ金で自由にやればいい。ただ、未成年が普通じゃないことをやっていることだけは認識して、控えめにやった方がいい。」


 広清は何か言いたそうだったが、「そうですね。これまでが出来過ぎですよね。ありがとうございました。」と、この中では一番耕介と付き合いのある山根先輩が言ったので、言葉を飲み込んだようだった。


 「まあ、キヨちゃん。今夜はパーッと行こうよ!オレは新品のスクーター買っちゃうよー。」と山根先輩が、わざとおちゃらけて場を盛り上げてくれた。


 みんなジョッキを持って、もう一度乾杯した。


 短い期間だったが、良い出会いと経験だったと耕介は思った。




 作戦大成功とは対照的な、小さな解散式が終わり、耕介はホテルに戻って改めて今回の収支を計算した。


 全ての稼ぎから新幹線代や飲食代を差し引くと、227万円のプラスだった。


 恐らくメンバーの誰も、勝ち額の改ざんやちょろまかしをしていないと思われた。


 ある程度それらの損失を見込んでいた耕介は、最後の晩餐をもっと盛大にやってやるべきだったかなと、少し後悔した。




 耕介は、その夜ホテルをチェックアウトした。


 ホテルの従業員は、「この時間ですと、本日分の宿泊料金はいただくことになりますが・・・」と申し訳なさそうに言ったが、耕介がそれで構わないというと、直ぐに手続きをしてくれた。


 計画が完了した以上、メンバーともこの場所とも早く離れて、耕介は次のステップに進むべきだと思った。


 目的に向かって進んでいる限り、耕介は自分の置かれた奇妙な状況のことを、深く考え込まずに済んだ。




 山根先輩が、ビールジョッキ片手に嬉しそうに笑う姿が目に浮かんだが、耕介は軽く頭を振って夜の駅に向かった。


 「みんな、ありがとう!ムチャはするなよ。」と心の中で呟いた。

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