村人A
僕は、右手で斧を持ち薪を割る。
これは、朝食の前に日課としてやっていて、
半年も経ってやっと、慣れてきたが、
不揃いな薪を見て
自分でも、不器用だなと笑ってしまう。
子供の頃は、
弟と一緒にやっていたのになんて
昔の風景を思い浮かべる。
けれど、そんなことをしている暇はない。
忙しくはないが、
今日は、勇者が帰ってくる日だ。
年に一回の祭りが村で開かれる。
僕は、いつもそれを遠巻きに見ている。
僕は、勇者が嫌いだ。
それは、勇者が眩しすぎるからだ
いつもキラキラと輝き、人を救って、
一人でも救えなかったら、自己嫌悪に陥って
果てには、敵さえも救ってしまう。
生きている間は、勇者として担がれ
死んだ後は、英雄として担がれる。
僕は、そんな勇者を見ていつも思う。
本当に同じ人なのだろうかと
だから、僕は、勇者という概念が嫌いだ。
けれど、勇者に頼らざるを得ない
自分の方が嫌いだ。
この村には、
魔物に対抗できる人はほとんどいない。
僕は、ここの村人よりも戦えはするが、
勇者に比べればお粗末なものだ。
はぁと僕はため息をつき、
朝食を食べるため、
右手でフライパンをふり、
右手で皿に盛り付ける。
そして、右手でフォークを使い、
朝食を済ませた。
そして、そのあといつも通り
水を汲みにいく。右手で。
けれど、
その道なりはいつも通りではなかった。
優しい村の人たちが声をかけてくれ、
食材をくれる。
これは、勇者が帰ってくる日の恒例行事だ。
その食材は、
村で3番目の
力持ちのライラックが持ってくれた。
僕は、ライラックにお礼の干し肉を、
あげようとするが、断られた。
僕なんかにだってさ
僕にとっては、
ここの村人もとても眩しかった。
そのあと、昼を軽く済ませ、
夜ご飯を作るために、
右手で包丁を持ち、食材を切り、
右手でフライパンを振る。
しばらくして、夜になり。
ギィーと、扉が開く。
「ただいま、村で1番の力持ちさん。」
「皮肉にしか聞こねぇな。
元2番の力持ちさん。」
扉から、風が入り込む。
バタバタバタと
左腕の方の裾が風に吹かれた。
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