第90話 ──人の苦痛に歪む顔が!
「まずいぞ、それは!」
ドラドスールは声を張り上げる。
「水など誰もがつかう! もしその推理が当たっていれば何千もの人が対象になる!!」
「確かにな、料理から洗濯、用途は様々だ、ところでアレン殿」
「なんじゃ?」
ロンに呼びかけられ、魔女アレンは猫らしい身振りで、首を傾げる。
「アレン殿ならば、どうする?」
「どうするとはなんじゃ?」
「このように水を使って多数の魔術的な接点を作る際、どう攻略する?」
ロンの問いは至極単純で簡単だった、少なくとも一流の魔女、アレンにとっては。考えることもなくアレンは言う。
「そうじゃの、まずは経口接種を目指すかの? ミストにして、鼻や口から、あとは単純に飲み水として振る舞うとか」
「飲み水屋」
ボソリ、レーデンスがつぶやきそして提言する。
「ならば、精神交換されたものたちの普段から使用する飲み水屋を調べれば犯人の手がかりになるのでは!」
飲み水屋、それはその名の通り王都に飲み水を提供する職業または、それに就職しているもののことを指す。
この王都ソールでは、安心安全な飲み水を確保することは難しい。
そこで充分にに濾過され、煮沸された水を配る者が必要となる。
そこで飲み水屋の出番というわけだ。多くの人々が金を払い安心安全な水を買う。そうして飲み水屋は生計を立てているというわけだ。
そして飲み水屋は、この王都に複数、点在しており競合しあっている。そしてそれぞれ民によって贔屓にしている飲み水屋も違うのだ。
「それだ! さすがだぜレーデンス!」
ドンキホーテの喜ぶ声と、と共にロンの指示が飛ぶ
「では早速、事情聴取といこう、幸い今回の関係者は全員ここにいる」
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「飲み水屋ですか? なんでそんな急に? というか早くここから……! わ、わかりました! 答えますよ!」
最初の事件の関係者、ダクタは渋々答える。
「普段の贔屓にしている飲み水屋? たしかにありますが……」
カールランドも訝しみながらも言った。
「わかりました、私にできることならなんでも答えます」
そしてジュリスも答えた。
それぞれ贔屓にしている飲み水屋の名前を。
「カルミラ浄水店」それが、3人が口にした飲み水屋の名前だった。
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その日の深夜、けたたましい複数の馬の足音が王都の空に響き渡ったその馬の足音は一つの場所へと向かっていく。
やがて特に怪しい雰囲気もない、生活に溶け込むカルミラ浄水店といつ飲み水屋の前で馬は止まる。
馬は全部で四頭、そしてそれぞれ馬の背から降り立つものが四人と一匹、ドンキホーテ、レーデンス、ロン、ドラドスール、そして猫の魔女アレンだ。
ランタンを待ちながらロンはカルミラ浄水店のドアをノックする。
「もしもし、いらっしゃるかな?」
ドアのノックのうるささに気だるそうな黒髪の若い女主人が扉を開ける。
「……なに?」
「レディ、夜分遅くにすまない」
騎士らしく、紳士なロンの対応にも女主人は特に意を解さないそれもそうだ、もう店は閉まっている。この後の業務などクレーマーの対応しかない。
「なんだい? 騎士様? こちとら昼ぐらいにあった火事のおかげで慌ただしかったんだけど?」
「なに少し中を調べさせてほしいのだが」
「はぁ?」
女主人はあからさまに機嫌が悪くなる。それもそうだろう、こんな夜中にそんな要望が通るわけがない。
「もちろんそれ相応のものは……用意してある」
金がある場合は話が違うが。
「……入んな」
恐らく1ヶ月分ほどの給料の金貨が入った袋をロンから受け取った女主人は、ドンキホーテ達を中に向かい入れる。
「ああ、それとレディ良かったらお茶でもいかがな?」
ロンの言葉に女主人は顔を顰める。
「こんな真夜中にナンパ?」
「そうだ、夜の月の煌めきは君をより美しく見せる」
「はぁ……いいから中に入って調べなよそしてささっと出てって」
「いや、君とお茶がしたい」
そのロンの執拗な食い下がりは女主人を犯人の仲間とひとまず仮定した故のものだ、お茶とはなばかりないつでも監視と拘束できる準備をロンはしていた。
やがてロンの口説きに「わかったわ」と女主人は折れた。
「いい! 壊さないでよ!」
女主人のその言葉と共に2階へとロンと共に上がり、ドンキホーテ達はカルミラ浄水店を探し始めた。探すのは水、水に細工がしてあると仮定しての行動だった。
「注意深く探せ! 魔法陣や、ルーン石があるかもしれんぞ」
アレンの指示の元、ドンキホーテ達は手がかりを探す。
「あったか! レーデンス!」
「いえこちらは、ドラドスール殿は!」
「こちらもない! くそ! ロンがあのミスから何かを聞き出せていればいいが!」
だが想像以上に何もなく、何の変哲もないものばかりだ。浄水するための設備である、水を煮る釜や濾過するための器具ばかりが見つかる。
これといって不可思議なものは見つからない。
やがて、何もないのではないかと諦めかけていた時。
「ん? 何だこれ?」
ドンキホーテが水を保管するための樽を調べているとおかしなことに気がつく。明らかに変な模様の人為的な傷があるのだ。
「アレン先生! これなんだ!」
「なんじゃ! 小僧」
「なんか変な傷がある!」
アレン先生は樽に近づくと、驚きの表情を浮かべた。
「これは! 傷ではない! ルーン文字じゃ、しかも相当高度な!」
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