第88話 馬鹿が気づいたところでもう遅い
ランタンの明かりまずそれが、レーデンスに認識できた最初の刺激だった。次に温もり、恐らく毛布か何かに包まれているのだろうその温もりを感じた後、ようやく音を感じる。
誰かのが廊下を歩く音、そこでレーデンスはベットの上で完全に目を覚ました。
「ここは……?」
「ソウルウォッチャーの医務室だ」
レーデンスの思わず発した言葉にドラドスールが答える。時間のことを思い出し急いで起き上がろうとするレーデンスに対してドラドスールは言った。
「まて、まだ寝ていろ」
「しかし!」と食い下がるレーデンスにドラドスールは諭す。
「貴様の怪我は思ったより深かった、鎧の上からの怪我とはいえ、気絶してしまうほどにな」
どこかドラドスールは申し訳なさそうに、しながらさらに聞く。
「……なぜ、私を助けた?」
「なぜと申しますと?」
「だから……その……なぜお前を侮辱した私を……!あそこまでして……危うく死ぬところだったのだぞ!」
「意味がわかりません」
その返答にドラドスールはポカンと口を開ける。
「い、意味が……お前は私のためになぜ──」
「仲間の為に命をかけるのは当然だからです」
ドラドスールはついに押し黙った。
「少なくとも、私はそう思っています。それに確かに私を侮辱したかもしれない、しかしその侮辱はとうの昔に友人が注いでくれました」
「私の歯と共にだがな」
ドラドスールとレーデンスは笑い合う。そしてひとしきり笑い合った後、おもむろにドラドスールは立ち上がり頭を下げた。
「あの時はすまなかった! 許せとは言わん! だが私にも信頼を回復するチャンスを……借りを返させてくれ」
レーデンスはその言葉に面を食らったまさかドラドスールが謝ってくるとは思いもしなかったのだ。
第二騎士団は誰も武家が騎士をやることに対し、誇りを抱いていた。
故に自分のような、外部の遍歴騎士見習いに、それもオークに頭を下げることなど、恐らくここが史上初なのではないだろうか。
そんな気さえレーデンスにはしていた。
「そんな……気にすることでは」
「いや! 貴様はもっと自分のやったことを誇りに思うべきだ! だいたい近頃の若者と違って貴様は──」
「レーデンス! 目が覚めたのか!」
すると、そのドラドスールにとって「近頃の若者」の代表者ドンキホーテが水を差してくる。
「病室だぞ!」
「いいじゃねぇかよオッサン!」
「誰がオッサンだ!」
言い争うドンキホーテとドラドスール。
「落ち着け2人とも」
そう言って仲裁しながら入室したロンは言う。
「ドラドスール、レイレイ今回の事件の真相がわかってきたぞ」
「おお! ではやはり!」
その言葉を待っていたと言わんばかりのドラドスールにロンは頷く。
「ああ、ドラドスール。ジュリスは無実だ、それどころか過去10件以上の事件で無実の者の首を落としている可能性がある」
「なに!」
驚くドラドスールにさらにロンは話を続ける。
「続きはアレン殿に、話してもらった方が早いな、アレン殿、よろしくお願いします」
そうすると、ロンのマントの影からひょっこりと、白猫が現れる。
「猫?」
レーデンスが疑問を呈す。
「ああ、レーデンスは知らなかったな! この人はアレン先生! この人が俺たちを助けてくれたんだ!」
ドンキホーテの説明に困惑するレーデンス。そのアレンと呼ばれる猫は得意げに鼻を鳴らし、そして咳払いをした後、
「咳を猫が?!」
再び衝撃を受けたレーデンスを放ってアレンは話し始める。
「まずはワシの魔女的な観点からこの事件を解説しようかの」
その流暢な喋りからアレンが魔人族だと気がついたレーデンスを尻目に魔女アレンは話を続ける。
「まず、今回の事件は禁術を用いた魔法によるものじゃ、魂の交換、正確には精神交換と言った方がいいかの、この精神交換の禁術を使用しておる」
「おお、魔法までわかっているのですね」
驚くレーデンスに対して、アレンは「実はな」と切り出す。
「オークのものよ、残念ながらこれは推測に過ぎん」
「そうなのですか……」
「じゃが、9割は当たっていると考えてくれ、根拠は変化した際の性格の一貫性と召喚した悪魔ヴァルファーレじゃ」
「あの獅子の悪魔が同化したのか?」
ドンキホーテの疑問にアレンは答える。
「あれはな盗賊の王、盗みを司る悪魔だからじゃよ、まあ色々司っているのじゃが、恐らく今回は盗みの力を犯人に貸しているのじゃろう」
ロンが頷いた。
「なるほど、精神を交換する際、つまり精神を取り上げる時の力を悪魔が盗みの力で効率よく魂を頂いていると言うことですね? アレン殿」
ロンの考察はどうやら当たっているようでアレンはその通りじゃと頷く。「じゃが」とアレンは続けた。
「ここで一つ問題点がある、なぜ犯人はそんな精神の交換が可能なのか? 今回何の接点もない、3人がほぼ同時期にに遡れば、さらに多くのものが精神を交換されておる、どこでそんな魔術的な接点を得たのかのう?」
ぽちゃん
「降ってきたな」
ロンがつぶやいた。
「あ……」
ドンキホーテは気がついてしまった、なんで気がついてしまったのだろう、そうだこの王都全域に魔術的な接点を持つ方法が一つだけある。
だがこんなことは最悪だ。ありえない。
「なぁアレン先生、生活用水に魔力を流し込むことで、その接点って奴を作ることは可能か?」
ドンキホーテはその最悪を言葉にする。
アレン先生は、コクリと静かに頷いた。
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