第46話

十三夜だった.

欠けた月を愛でるって.

風流だよな.


そんな趣味は全くない.

けど,

流行りにノルのは全然あり.


ワイヤレスの片方どっかにやってしまった…

ポケットに突っ込んだ時なんだろうと思う.

片方でも使えるんだけど…

何か言われるだろうな気が付かれたら…


はぁ.

だから,今スマホと耳は線で繋がってる.

音漏れしてるかも.

さみぃし,フードかぶって.

玄関の前の階段座って見上げる.


あったか下着は,

そうそう使わない.

ここぞっていう時に使う.

早くから使うと,

極寒に耐えられなくなる.


誰も,周り見た感じおらんね.

部屋から眺めてるんだろうか.


同じ月を見上げて繋がれる一人じゃないって

呟いてる人がおった.

カウントしたら,どの位なんだろう.


あっ

あのライト.

母さん帰って来た.

多分,あれ,うちの軽.


降りてきた母さんの第一声.

「こわいっ.」

だった.

こわくて,ごめんね.


「おかえりー.

あれっ.」

月を指さすと,

「ただいま.

うん…綺麗ね.」

返ってきた.


「ちょっと,詰めてよ.」

母さんも隣に座った.

あんまりぎゅうぎゅうに押すと,

俺が落ちる…

左のケツが,微妙に浮く.


母子1人.

月を無言で眺める.

そして,

母さんも眺めてみる.


父さんと,ルカと,

4人で眺めた事あったっけ.

月を.

何だか遠い昔で,

想い出せねぇや.

あまり,今の時間を過ごすには野暮な回想.


母さんの心の中は,

ルカの形にぽっかり空いてるのだろうか.

父さんは…

まぁ,

あの人生きてるし,

空く穴なんてある方がムカつくのか.

よく分かんないけど.

まだ,大人の関係は理解不.


俺の心には,

ルカの形にぽっかり空いてる.

ここに,

母さんはハマらないし,

友だち詰め込んでも,

やっぱり埋まらないし,

これから出来るかもしれない彼女を

はめ込んでもズレるだろうし.


ましてや,

月の情緒ぶっこんでも

お話にならねぇし.


何かをハメようとして,

ズレた部分を涙で埋めて,

ずぶずぶに沼って,

あぁ,

ズレてんねって上から眺める.


多分,下に降りたら,

溺れて,

一緒に沈んで,

また,

同じ事になる.

分かってるから,

しない.

出来ない.


綺麗な月が滲み始めたので,

もうやめる.


「寒いから,入ろう.」


手を差し出したら,

母さんが捕まった.


「今日は生姜焼き.」


「美味しそう♪

ユウ.有難う.」

母さんがルンってした.


玉ねぎ切って,豚肉炒めて,

売ってるタレかけただけだから.

玉ねぎ切っても泣かなかったし.


鍋にそろそろすっかな.

だって,

さっっっっむ.

あぁ,

言ってみたかっただけ.



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る