第78話 絶体絶命!
「タイムお願いします!」
タイムをかけてきたのは竹葉の監督だった。
高校野球は監督の伝令をマウンドに行かせられるのは3回までと決められている。
それは男子も女子も共通で、ここぞというタイミングで監督の指示をマウンド上で伝えられることが出来る。
俺は雰囲気を感じ取れる。
それが読心術だとしたらそれよりも自信があるのが読唇術の方だ。
伝令をしている選手がマウンド上に集まった選手たちに必死になにか説明している。
「かん、く、た、ばな、け、えん、しろて、いっ、る、ど、どする。ない、や、ぜん、ん、で、げつう、ねら、ていけ。」
「いい、ど、つぎ、てれ、も、し、んよ。」
敬遠の指示をしにいったみたいだ。
満塁策をとって、ゲッツー狙いをしにいくつもりなのか。
右田さんはグローブで口元を隠す事無く、普通に話している。
納得はしてるようだが、打たれても私のせいにするなという感じで受け答えしてるようだ。
「龍。私どうしたらいい?」
「敬遠されると思う。けど、アウトコース高めで打てそうだったら打ってもいいんじゃないかな?とりあえずアウトコース高めに張っておいて。」
「敬遠か…。わかった。」
少しだけ寂しそうというか残念そうな顔をしてバッターボックスへ戻って行った。
桔梗がこのまま敬遠されれば、ノーアウト満塁の大チャンスで四死球どちらでも同点。
長打なら一打逆転でぐっと勝利が近づく。
「コーチ。この後はどうしたらいいと思う?」
この試合何度目か分からないが、監督が俺に相談をしてきた。
「んー。難しいですよね。逢坂先輩は大きな外野フライと理想的な右打ちでヒット出てないですけど期待は出来そうですよね。」
「そこに代打はあんまり考えてなくて、次なんだけど6番の三本木の所で氷はどう思う?」
もし、5番の逢坂先輩がゲッツーにならないフライアウトか三振だとしたら次はワンアウト満塁で6番の三本木先輩だが、1打席目はサードゴロと球種指示の見逃しでの三振。
俺なら間違いなく氷を代打に出すけど、三本木先輩だってもちろん悪い選手ではないし、1発はあるから外野フライくらいは期待もできるし3年生は最後の大会ということで気合いの入り方も違う。
1年と3年じゃやっぱり経験も鍛え方も違うけど、1番は大会にかける思いが違う。
そういうものは結構成績として出てくると思うけど、桔梗みたいに実力が抜きんでてるとそういうのも関係ないと思ってしまう。
氷と三本木先輩なら打撃力能力を平均化すれば、そんなに変わらないと思うけど、それはパワーがかなり差があるだけで打者としては氷の方が上だろう。
「ボール!フォアボール!」
俺と監督が話しているうちに桔梗は案の定敬遠で一塁へゆっくりと歩き出していた。
ゆっくりと元4番の逢坂先輩がバッターボックス入った。
とてつもない気合いを感じるし、しっかりと俺の狙う球種のサインを確認してくれていた。
「低めのカットには気をつけてください。」
「分かった。出来るだけ打てるように頑張るね。」
優しい口調だったが、とても力強く信頼出来る背中だった。
監督との話はまだ終わっていなかった。
結局代打を出すかどうか。
「俺なら三本木先輩のところで氷を代打出しますね。あのタイプの投手なら50%はヒット打つと思いますし、犠牲フライを狙わせたら間違いなくそれくらいなら打ってくれると思ってます。」
隣でバットを持って準備している氷が自信満々に頷いていた。
「東奈ちょっと待て。私に代打だと?」
そこに現れたのはネクストバッターズサークルに向かおうとしていた三本木先輩だった。
「俺ならっていう話ですよ。俺が決定権を持っている訳じゃないんで、監督がどうするかは俺にも分かりません。」
「けど、半分はお前が決めてるんだろ?こんな場面に公式戦初打席の1年を6番の3年に代打を出すとか正気か?」
あんまり良くない傾向だが、俺に不信感を持っている。
さっきの打席もサイン見逃しを責めたし、今回は代打を出すとか俺の口から聞いたせいだ。
「三本木先輩には悪いですけど、右田さんの球を打てるんですか?今日の打撃を見た感じ打てそうには思えないんですけど。」
「監督!私は今日の借りは今日返します! これまで2年から指導してもらって一緒に練習してきたから分かるでしょ!?私に任せてください!!」
俺は必死に監督を説得する三本木先輩の気持ちも痛いほど分かっていた。
監督も俺も三本木先輩も共通点はみんなキャッチャーということだ。
海崎先輩が一点に抑え、その後も1年の梨花がパーフェクトリリーフをしているのに、キャッチャーの3年の自分が何も出来てないことに腹立たしくて、それを挽回をしたいのだろう。
俺にも試合にはどうにか勝ちたいという気持ちはもちろん強く持っているけど、それは1年生達に経験を積ませてあげたいという気持ちの方が大きい。
現実的に考えて、このメンバーで甲子園出場はきつい。
5回勝利すれば準優勝で甲子園出場出来るが、1回戦でこんな試合をしているようじゃ3回戦で当たるであろう福岡四強の1つ福岡国際高校には手も足も出ないだろう。
桔梗世代は必ず甲子園にという強い気持ちはあるが、3年は俺に冷たかったというのもあるけど、やっぱり甲子園まで連れていってあげたいという気持ちも少なくはなってしまう。
「んー。」
監督はかなり悩んだ表情をしている。
俺も監督なら感情もあるし、かなり悩むところではある。
「ストライクツー!」
逢坂先輩は2球目で追い込まれてしまった。
カットボール狙いの指示でそのカットボールを2球連続空振りしていたのだ。
逢坂先輩はかなり焦っているように見えた。
ピンチなのは相手で、こちらは今絶好のチャンスなのに投手の右田さんの方が余裕の表情を見せていた。
『逢坂先輩。ストレート気をつけてください。』
俺のサインをしっかりと確認して、ストレート警戒してもらえば最悪カットボールが来ても空振り三振で、ゲッツーは免れる。
3球目。
キャッチャーは中腰になり、高めの釣り球のストレートを要求していた。
低め低めと来て、自分の目線のストレートが来ると絶好球に見えることも多いのだが、高すぎるとまずヒットや長打にするのが難しい。
バットは基本的にレベルスイングで平行にバットを出すか、やや下からアッパー気味に出すかの2つである。
上から下へ振るダウンスイングというのは時代錯誤の代物だと俺は思っていた。
ダウンスイングは一般の打者がやっていいものでは無いと思っている。
超一流の打者がその能力を最大限に生かせてやっとダウンスイングからホームランを打つことが出来るのだ。
高めの球は適度な高さだと自分の構えた位置から垂直にバットを出せるので、ミートしやすく飛ばしやすいが、構えた位置よりも上に来た場合はいつも打たないようなスイングで高めの球を打ちにいかないといけないのでとても難しいのだ。
「やばい!」
逢坂先輩はかなり高めの狙っていたストレートが来たことで、いつもの上体の高さを維持せずに上体を起こしてしまい、無理やり高めの球をスイングしにいった。
「オーライ!オーライ!」
ショートがボールを取ると宣言していた。
高めの球を打ちに行ったが、上体が起きてしまい手で打ちにいったせいで簡単に打ち損じてしまった。
「インフィールドフライ!」
審判からもインフィールドフライを宣告され、ショートも落ちてくるボールをしっかりとキャッチ。
「よし、ワンアウトー!」
「「ワンアウトー!」」
相手からするとまずひとつアウトを取れたことで、安心しているだろう。
次に内野ゴロだとゲッツーの可能性も低くなく、ノーアウト満塁のチャンスを潰すことにもなる。
「監督!私行きますよ!」
代打を出すか迷っている監督を振り切って打席に向かう三本木先輩。
俺もここは代打じゃなくても問題は無いと思っていたし、あそこまで言うなら打たせてもいいかなという気持ちにもなった。
「打てないよ。がっくり。」
隣からか冷めたような声と怒ったような声混じりの氷の声が聞こえてきた。
氷は不思議ちゃんだが、いつもしょんぼりしたり、笑ったり、楽しそうにしてたり表情は分かりづらいが感情は豊かで、怒ったところは見た事ないが今隣にいる氷は明らかに怒っていた。
打席に向かう三本木先輩を鋭い目付きで睨みつけていた。
「氷は打つ自信あったんだな。」
「ふん。私を代打に出さなかったことを後悔するといい。ぷんすか。」
怒り方は可愛いが、目付きとその怒りの雰囲気は相当なものだと隣にいるととても感じられた。
「こんなこというのもあれだけど、三振でツーアウトになれば瀧上先輩のところで氷を代打に出すぞ。」
「本当!?ならさっさと三振してくれないかな!?にこにこ。」
チームメイトにかけるような言葉ではなかったし、そのセリフと同じくめちゃめちゃ満面の笑みだったのが印象的だった。
『ストレート狙ってください。』
俺は三本木先輩に球種のサインを出したが、さっきのせいなのか完全に無視されてる気がした。
俺は大きくため息をついて右田さんの方を見たら俺とたまたま目が合った。
『俺がなにかしらサインを出したのに気が付いたな。』
気がついた所で今更サインを見破るのはまず無理だろう。
そもそもなんのサインを出しているかも分からないのに、見破るも何も無いのだ。
サインと言ってもシンプルすぎて気づかないと思っていた。
いかにもサインを出しそうな場面では、帽子を触ったりペンを回してみたり、ユニホームに触れてみたりとわざとらしい事をやってはいるが、ストレートかカットボールを狙うか伝えるのはシンプルな方法を使っていた。
俺がバッターを見ていればカットボール。
俺がピッチャーを見ていればストレート。
低めか高めかは俺が机に右肘をつけていれば、低めで左肘をつけていれば高め。両方ついていたらノーサイン。
毎回サインを出す訳ではなく、1番最初に出してそれからは出さない。
もし変更する場合監督に伝えて、監督が俺の指示変更のサインを出すようになっている。
右田さんは一球目を投げようとしていた。
ここまで1球も投げられていないやや縦方向に曲がるカーブ。
彼女にはカーブを投げる時に癖があった。
多分、縦に大きく曲げようとしてややグローブをつけた左腕を少し高くあげてバッターから見たら、グローブでやや顔が隠れるのでその瞬間カーブと気づくようにずっと伝えてきていた。
ベンチから見てもカーブだと気づいた。
彼女のカーブはそんなに悪くは無いが、コントロールがかなりイマイチっぽく勝負球にはしずらいのだろう。
カーブは来ると分かっていれば打ちやすい変化球だ。
球も遅いし、鋭く曲がるという訳でもない。
三本木先輩もさすがに気付いただろう。
甘く入ってくるようならまず打てると思う。
パシッ
タイミングがやや合っていないのと、少し低かったから見逃したのだろう。
「ストライク!」
三本木先輩はやや驚いた表情をしていた。
彼女から見ればボール球と思ったが審判のジャッジはストライク。
やや不運な気もするが、明らかにボール球でもなかったし一球だけ見れば悪くないカーブだ。
ネクストバッターズサークルには7番の瀧上先輩ではなく、氷が自信満々にスタンバイしている。
だが、投げる前にカーブと分かるのは明確な弱点がある。
ピッチャーはサインを確認してセットポジションにはいり、3塁ランナーをじっと見て牽制している。
『もしかしてまたカーブか?』
ピッチャーからやや動揺した雰囲気を微かに感じ取れた。
この時に考えられることは、3塁ランナーの大湊先輩がなにか仕掛けようとしたのに気づいた。
けど、サインは何も出てないから大湊先輩が何かするとは考えずらい。
それによってバッターからスクイズの気配を感じ取るというのも考えられない。
なら何かといえば、ここまで投げていないカーブを連投させるんじゃないかという予感。
俺の予感は的中だった。
投げる時に変わらずに左腕がやや上に上がっていて、指から放たれたボールはさっきとほぼ同じ軌道で同じコース辺りに落ちていている。
同じボールを同じコースに続けるというのは相当リスキーな事で、向こうは気づいていなそうだが投げる前にカーブと分かっているプラスでさっきのカーブの残像が目に残っていればほぼ打てるだろう。
カキィン!
俺は打った瞬間目を閉じた。
周りからは声援が飛んでいるが、俺にはスイングした瞬間分かっていた。
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「「あー………。」」
打った瞬間、ワンバウンドした打球が投手のグラブの中に入ったのが見えた。
1-2-3の余裕のゲッツー。
その後に味方全体から大きな落胆の声。
この声が個人的に1番堪えるし、自分でもやってしまったのは分かってるので現実が2段階でのしかかってくる。
ファーストベースを駆け抜ける前にアウトになった三本木先輩は呆然と立ち尽くしていた。
「コーチ。ちゃんと生きてる?じとー。」
ネクストバッターズサークルから事の顛末を見ていないんじゃないかという早さでベンチまで戻ってきた。
「氷か。戻ってくるの早いな。」
「打った瞬間駄目って分かったから帰ってきただけ。」
そういうと大切そうに自分のバットをバットケースにしまっていた。
三本木先輩はやっぱりショックだったのか、集中力が切れてるし、キャッチャーとしてここで心が折れるような人ではないと思うが…。
7回表。
「キャッチャー落としてる!」
この試合重くのしかかっている一点を入れた3番バッターをスプリットで空振り三振に奪ったが、キャッチャーの前でショートバウンドした球をしっかりと止めにいかず、ボールを後ろに逸らして振り逃げ成功でノーアウトランナー1塁。
振り逃げというのは小学生ならよくある。
プロでもたまに振り逃げのプレーを見るが、まず成功することなんてない。
ワンバウンドする変化球を取らなくてもとりあえず前に落としさえすれば、そのボールを落ち着いて取ってファーストに送球すれば振り逃げが成功することはないと思う。
「監督。選手交代の口出ししたくないですけど、キャッチャー柳生に変えた方がいいと思います。」
「うーん。でも、チャンス潰して最終回のキャッチャーまで変えるのはあの子の為に…。」
「そうですか…。まぁ、監督がそういうなら。」
俺はスコアをつけている席には着かずに、柳生の元に話に行った。
「柳生、守備だけになるかもしれないけど準備しておいてくれるか?」
「わかってる。けど、変えるなら今なんじゃないの?手遅れになると思うけど?」
柳生はキャッチャーとしてとても優秀なのがよく分かる。
しっかりと試合の状況を見れているし、交代するなら今のタイミングじゃないと取り返しのつかない場面になって交代してもカバーできないと言いたいのだろう。
「交代は俺が決めることじゃない。出番があったら柳生がどうにかしてくれることを期待してる。」
「ふん。どうなっても知らないから。」
ぷいっという感じでグランドに目を向けて俺との会話をぶつ切りにした。
「ねぇ。東奈くん!もし、最終回チャンスが来て代打考えたらボクに任せてくれない?」
席に戻ろうとした時に話しかけてきたのは月成だった。
自ら使ってくれと俺に直訴してきたのだ。
「わかった。けど、まずは氷から代打を使ってその後に出す機会があれば監督に推薦する。」
「ほんと?ありがとう!」
月成はもし最終回の代打で出てくる場面となったら、かなり大事な場面だというのを分かっていて言ってるのだろうか?
ちょっと懐疑的になったが、そんな事もわからないで使ってくれなんて言ってくるような子じゃない。
何か彼女なりの勝算があるならそういうのに任せるのが1番いい結果が出そうな気がするのは、彼女の選手としての未知数な部分だろう。
試合は梨花が今3-1と少しだけコントロールが乱れている。
さっきから話しながらもちらちら見ていたが、スプリットを連投しているようだ。
ストレートの調子が良くて海崎先輩の後に投げた後だからかタイミングが合ってない。
ストレートで押せばいいのにストレート要求しない。
『ストレート投げさせてください。』
俺はキャッチャーにやや露骨にサインを出して、ストレートを投げさせようとした。
「ボール!フォアボール!」
俺のサインを見ていたのに、5球目はまたスプリット要求であっさりと見逃されて四球を出してしまった。
3-1からバッターは1球見る余裕があるのに、スプリット投げれてもそれを振ってくるわけが無い。
俺は三本木先輩が何を考えてリードしているか全然分からなかった。
「………。」
もう一度交代を提案しようと思ったが多分聞いて貰えないと思い、俺は半ば自暴自棄になりかけていた。
「走った!」
ノーアウト1.2塁の初球からいきなりダブルスチールを敢行してきた。
梨花がクイックをしない事があっさりとバレてしまい、2塁ランナーは相当いいスタートを切っていた。
走られたことを分かっていたがあまりにもスタートが良すぎた為、三本木先輩は捕って三塁に投げようとするだけだった。
「セーフ!」
いつの間にノーアウト2.3塁。
梨花も高校に入ってマウンドでイライラすることは無かったが、顔には出さなくてもイライラしているのが伝わってきた。
『これやばいぞ。』
内野も外野もそれまでは守備は落ち着いていたのに、さっきのチャンスを潰して完全に追い込まれて、精神的にも追い込まれてしまっている。
こういう時に声を出せる選手が絶対にいる。
精神的な柱になれる選手がいないとこういう時に流れを止められず、ズルズルと負けるのを弱いチームでよく見てきた。
「ボール!フォアボール!」
一点を恐れるあまりにスクイズ警戒して、ボール先行のピッチングで甘いコースのストライクを取りに行けずに結局四球を出す結果になり、前の回のうちと同じノーアウト満塁のピンチを背負うことになってしまった
「タイムお願いします!」
伝令に走ってマウンドに行ったのは海崎先輩だった。
監督からなにか伝えられている訳でもなくマウンドに走って行ったが、大丈夫なのだろうか?
「ねぇ2.3年は何してんの?かのんと橘が声出してるのに、もう少し意地見せてくんない?」
「先輩に向かってなんだその口のきき方は!」
「創さんにはこれまでたくさん受けてきてもらいましたけど、今の創さんははっきりいって論外。同じ投手として西に同情する。」
「おい。海崎。そこまで言わなくてもいいだろう?みんな動揺してるんだ。」
「それならキャプテンが声掛けしたらどう?諦めてるならどうぞベンチ戻ってきて。」
「「………。」」
「はぁ。何も言い返せないんですね。私がコーチと監督に言っておきます。」
何が起こったかわからないが、なにやら海崎先輩がキレているのだけはわかった。
「あー!うざっ!ふざけんな!」
ベンチに戻ったらすぐにベンチを蹴りあげて悪態つきまくっていて、そのあとの言葉はあんまり女の子が言うような言葉ではなかった。
「監督!タイムかけて!キャッチャーとサード早く変えて!やる気ないやつはさっさと変えて!」
監督を殴るんじゃないかというような剣幕で捲し立ていたので、とりあえず俺が事の顛末を聞くことにした。
「ボール!」
その間も梨花は気持ちのブレのせいかストライクを取ることが出来なくなっていた。
「このままじゃ押し出しとかで取り返しつかなくなる!」
カキイィーン!
ストライクを取りに行った甘いストレートを打たれた。
打球は芯を食っていたが、サード正面。
ゲッツーを取ってどうにか立て直せる。
「サード落としてるよー!」
「ラッキーラッキー!」
サードのキャプテンがボールを弾いて、慌てて拾い直してファーストに送球するがこれがまさかの桔梗でも届かない暴投になってしまった。
「ライト!カバー!」
前の回からライトのポジションについていた逢坂先輩がしっかりとカバーして、バックホームして3人目のランナーがホームインするのだけは阻止した。
3-0。
エラーで重すぎる2点の追加点が白星ナインを襲う。
しかもまだノーアウトランナー1.3塁のピンチ。
気休めを探すならこれから7.8.9の下位打順だということ。
「監督。海崎先輩の言う通りにしてみましょう。」
「はぁ…。わかった。 審判タイム!選手交代をお願いします!」
あんまり乗り気ではないみたいだが、審判にタイムと選手交代を告げていた。
「選手の交代をお知らせします。サードの末松さんに代わりましてサード月成さん。キャッチャーの三本木さんに代わりましてキャッチャー柳生さん。3番サード月成さん背番号20。6番キャッチャー柳生愛衣さん背番号19番。」
半ば懲罰みたいな変えられ方で3年生のふたりが死んだような顔をしてベンチに戻ってきた。
「みんなあとはどうにか踏ん張ってくれ。」
俺はショートの大湊先輩以外全員1年生になってしまった内野を見ながら天に祈ることしか出来ずにいた。
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