第3章 高校1年生夏
第73話 みんなの決意!
夏の大会前最後の練習試合を終えたところだ。
あの発表から変わったことというと、美咲と七瀬がかなり落ち込んでいたということ。
今はベンチ入りしている20人がほぼ中心となって練習をしていて、それをベンチ外の子達が必死に支えているという感じだ。
美咲たちはベンチ入りできなかったことをバネに、練習が終わった後にベンチ外の子達を集めて自主練習に励んでいた。
「最後に美咲!ちゃんと締めろよ!」
俺も自主練習には毎日付き合った。
ただ黙々と練習を個人でやるだけじゃ進歩がないと思ったのか、みんなの方から俺にお願いをしてきた。
「「ありがとうございました!」」
今日も練習試合が終わって解散した後も練習を出来てない1年生と少数の2年生も俺の元に集まってきた。
3年生でもベンチ入り出来ていないメンバーもいたが、流石にその人達は居残り練習に付き合うことは無かった。
居残り練習の後にも更に個人練習の居残りもやることになった。
これは2人1組を作ってもらい、その2人に対して付きっきりで指導するものだった。
流石に1時間とかは出来ないので、30分間だけ教えてもらいたいこととか練習法を丁寧に教える時間となっていた。
「雪山、花田は今日は内野の守備練習をするぞ。正面の難しくないゴロを打つからとりあえず自分なりにやってみてくれ。」
2人に少しだけノックを打って、おかしい所があればその都度教える。
「雪山!グラブを出す時に上から下に叩くように出すなって言ってるだろ!どんなバウンドで取るかは任せるけど、その出し方じゃイレギュラーしたときにボールは捕れないし、捕ってから投げるまでが遅いから流れるように捕るのを意識して。」
「はーい!やってみるッス!」
「花田さんは捕ってから投げるまでがもたついてるから、グラブの中にボールを1回キャッチして、それを1回外に軽く弾き出すイメージで、その弾き出したボールを右手で掴む。」
「んー。こんな感じでいいですかね!?」
「悪くないかな?まずはしっかりとボールをグラブに入れて、それを右手にトスしてしっかりと右手でボールを握る。その間に投げるためのステップをしないといけない。」
「うーん。難しいです。」
「最初は仕方ない。だから、ボールをしっかりとした体制で捕ることをまず覚えよう。捕れるようになったら捕ったボールを素早く右手に移す。それでボールをファーストに投げる。」
俺の話を真剣に頭を上下させながら聞いていた。
まずはひとつずつ変な癖がつく前に基本的な動きを教えて、そこから応用で自分のやりたいプレーをやる。
それが出来るまでは基本中の基本しかやらせることは出来ない。
「コーチ!ありがとうございました!ッス!」
2人から深々と頭を下げられて、すぐに3人で使ったところはしっかりとグランド整備をする。
「もう結構遅いから気をつけて帰るんだよ。」
「「はーい!」」
一周したらまたグループを決め直してやるのを繰り返すことにした。
お互いのプレーを見てそれでここが悪いとかいいとかもよく分かる。
そうやって見て覚えてやって覚えてる。
その繰り返しで少しずつ上手くなっていくしかない。
「後は大会だけか。どうなることやら。」
俺が1番申し訳ないことが一つだけあった。
猫田マネージャーがベンチ入りさせてあげられない事だった。
俺を記録員としてベンチ入りさせて、記録も取りながら選手に指示出しもする。
規定で俺はマネージャーとしてしかベンチには入れない。
時代が移り変わって、女子野球の甲子園までできて色々と制度は変わったが監督は男の人が多いし、顧問の先生も男性が多い。
マネージャーが男なのは見た事ないが、俺がその枠にはめられると思うとなんも言えない気分にはなる。
男子の方は記録員は制服とチームの帽子という規定があるが、女子はマネージャーが制服じゃなければならないという決まりはない。
かといって俺がハーフパンツタイプのユニホームを着るのは見栄えも良くないので、ストレートタイプのユニホームを着用してだらしなく見えないようにはしている。
監督も一応問い合わせてくれて、ノッカーは俺がやることになっている。
その後ろや内野や外野を自由に移動しながら全員に指示出ししたりするのだろう。
俺はノックの練習をかなりやってきた。
ボールを渡さずにトスバッティングで好きなところにゴロやフライを打つことくらいは元々余裕でできた。
「東奈くん。ちょっといい?」
俺の事を呼ぶ声が聞こえたと思ったら帰ったはずの夏実が俺のところに来た。
「ん?夏実か。どうかしたの?」
「なんかね、最近というか1年くらい筋トレを毎日してきたけど、凄く力がついた感じするんだけど新しい体づくりのメニューが欲しいなって。」
「日頃の練習の他にやってるってことよね?」
「うん。そうだよ!練習もしっかりと出来ないから体力も結構しっかりと残ってるからちゃんとやってるんだけど、筋肉痛とかにもなりづらくなって効果が少なくなったんかなって思って!」
あれから毎日とは言わないが、しっかりとこなして来たのか。
今度は筋力テストをしてみてもいいかもしれない。
「今度、筋力テストしてみるから学校の筋トレ出来るところに行ってどれくらい出来るかやってみようか。」
「本当ー?頼んでよかったー。」
俺の渡したトレーニングメニューがこんなにも重宝されているとは思ってもいなかった。
夏実も言われたことを俺がやっているか1年確認してなかったが、ちゃんとやっていることにとても感心した。
「夏実はこれからもっと上手くなれる。11月から2月の3ヶ月間死ぬ用意は出来てるか?」
「死ぬ用意…。はい!頑張って死にます!」
頑張って死にますはよく分からなかったが、夏実は俺の課したトレーニングをどれだけこなせるだろうか?
夏実に言っていないが、彼女のトレーニングメニューだけは他の人と別のものを渡してある。
みんなはバランスよく体を鍛えるメニューだったが、彼女のは厳しい練習を耐えるための持久力、ケガをしないような筋肉を鍛えさせた。
隣で笑顔を見せている夏実は俺への揺るぎない信頼があるが、この冬彼女に待っているのは地獄だろう。
俺はとりあえず目の前の夏の大会を勝つことに全力を注ぐことにした。
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