第60話 一般生!


一日目の山登りも終わり、帰ってきてお風呂に入ったりして、夜ご飯はみんなで立食バイキングで色んな人と交友出来るようなパーティー形式だった。



みんな楽しそうに話していた。

野球部のメンバーも一緒にいる子もいれば、一般生徒と一緒に仲良さそうにしてる子もいる。



俺はこの時間を使ってやらないといけない事があった。



先週、一般生徒で野球部に入ってきたメンバーが4人いた。

そして、マネージャー志望の女の子も入ってきてくれて色々と助かる。



みんな一気に紹介したいと思う。


まずは、野球未経験者で高校から頑張って野球をやってみたいという子達が3人。


みんなこれまでスポーツ経験はあるので、スポーツ未経験者は入部しては来なかった。



先週は一般生徒達に野球の基礎を教える時間が与えられたので、半分は雑用で半分はこの4人に付きっきりだった。


高校まで野球をやったことのない素人だから、野球をこれまでやってきた特待生と勝負してもほぼ勝てない。


だが、元々野球の才能があった選手は、三年間で相当な実力の伸びを見せればレギュラー争いには加われるだろう。





花田聖美(はなだきよみ)



中学校までは陸上部で、足はそこそこ期待できる。

素人にしてはボチボチ野球の適性がある気がした。


結構投げ方が綺麗で入学するまでに結構練習してきたらしく、やる気は1番感じられたし練習態度も物凄く真面目だった。


地味すぎる練習にも目を輝かせてやってる姿を見ると、野球を始めた頃を思い出した。





奈良原里奈(ならはらりいな)



小学校の時はドッチボール、中学校の時はハンドボール部でどうしても野球をやってみたくなって、あんまり強くない白星なら挑戦できるかと思って入部してきたらしい。


身体能力は高く、野球に生きるかはわからないが動きが軽くジャンプ力も投げる力も強い。


ハンドボールの投げ方をまず矯正させないといけない。




青島有香(あおしまゆうか)


元剣道部。


体格がよく、かなり身体も鍛えられていて厳しいトレーニングにも問題なくついてこれそうなのはかなり評価できるポイント。


剣道で培った握力と手首の強さも野球で必要なので、打撃センスがあるのを期待しよう。





もう1人がPrincessリーグ所属していた選手。



市ヶ谷咲(いちがやさき)



一応資料を見返すとこの選手はチェックしていたが、特に突出する能力がなかった。


そこまで悪い選手では無いと思ったが、どうよく見積っても月成と同じくらいのレベル。



ポジションのことを考えるとやっぱり足元にも及ばないと思う。


夏実と比べるとまぁいい勝負をするかもしれないが、選手としてどうなのかはこれから練習や試合で示していくしかない。




そしてマネージャーの猫田美耶(ねこたみや)。


この子は元々小学校から中学校までジュニアアイドルをやっていたらしく、地元福岡のニュースなんかに時々出演していたみたいで、福岡の人なら知っていてもおかしくないらしい。


もちろん俺は知らなかった。


小柄で公称148cm40kg。


営業スマイルなのか、素のスマイルなのか俺には判断できない。

とにかく愛想がよく、結構仕事もテキパキこなしていて俺は彼女関しては一切不満もない。

男子の部活のマネージャーになっていたら、奪い合いを通り越して殺し合いでも起こりそうな女の子だろうか?




特待生の子達とはよく話すが、この子達は先週からの付き合いなのだ。


少しはお互いのことを知っていないと、上手く指導も出来ないし向こうも指導されたくないだろう。




「みんな山登りお疲れ様。ちょっと俺も混ざってもいいかな?」




一般生は一般生でみんな絡んでいるみたいだ。

特待生たちは知り合い同士で仲良くしてるみたいだし、その中には入りずらいのだろう。



「あ、東奈コーチ。お疲れ様です。」



みんな俺が来た途端少しだけ硬い表情をした。

慣れていないのか、1年生達が俺に敬語で話してるの見て少しだけ怖がっているのか。




「グランドの外ではタメ口でいいって言ったよね?普通に気にせずにフランクに話しかけてくれていいから大丈夫だよ!」




「あの!東奈くんはなんでグランドの中では1年に敬語を使わせてるのかな?」




そう質問してきたの猫田さんだった。


俺はこれまでの経緯を説明した。

グランドの中では厳しくしたいからと。




「にゃるほどー。同級生なんだから私は気にしなくてもいいと思うけどねっ。」




こればっかりはまだ正解は分からないから、猫田さんの言ってることも全然分かる。




「コーチ!来週もまた指導してくれるの?」



そう言ってきたのは花田さんだった。

野球が楽しいのかいつも学校で会ったら練習教えて欲しいっていってくるのだ。



「私も野球したいなぁ。地味な練習ばっかりだからちゃんと野球したいけど…。」



少し愚痴っぽくなっているのは奈良原さん。

これまでどのスポーツでもレギュラーだったみたいで、地味な練習が少し苦痛なんだろう。




「私はコーチの言うことに従いますよ。素人がすぐに練習したって上手くいく訳ないんですし。」




現実的な事をいつも言うのは青島さん。

自分が素人だからっていうのを口癖にしているが、サボる様子もなく淡々と練習をしている感じだ。




「ねぇ。龍くん?咲は経験者だから早く他のメンバーみたいに練習させて欲しいんだけどなぁ。」




俺が1番扱いに困っているのが市ヶ谷さんだった。


女の子という利点を最大限活かした甘えたような声で詰め寄ってくるのが困っている。


女子相手だからこういうことはもしかしたらあるというのは覚悟しておいたが、こうも露骨にやられるとちょっと困っている。




俺はこの5人と色々と話していた。

みんなの共通点としてちゃんとした野球がやりたいという事だった。


中々そうしてあげられないのが申し訳ないが、1年生でしかも素人を経験者の中に混ざって練習させるっていうのはリスクもある。



まず周りとのレベルの違いに心が折られる可能性。

エラーをして先輩達に聞こえるように陰口を叩かれたりすること。

少しでもいいプレーをしようとして基礎が身につく前に変な癖がつくこと。




「わかった。グローブとか持ってきてくれって伝えておいたよね? 明日は3時間自由時間あるからグランド使わせてもらって練習しようか。」




そういうとみんな嬉しそうにしていたが、俺はあんまり乗り気にはなれなかった。


練習するとなると特待生も一緒にするということだ。




とりあえずレベルの違いに絶望しないことを祈るだけだ。


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