第11話 無理難題!



俺は今、女子高の校門の前に立っている。

普通に気まずい。


天見さんはこんな時に限って少し遅れるという俺にとっては地獄のメッセージが届いた。



俺はパッと見たら高校1年くらいには見えなくもない。

身長186cm、体重82kgの恵まれた体格だったため、顔の少し幼さを除けば中学生には見えないだろう。



だからこそ、彼女を校門まで迎えに来ている彼氏のようで気まずかった。

隣を通っていく女の人達に品定めされるような目線がとても居心地が悪かった。




「龍くん、ごめんごめん。ちょっと道が混んじゃってて遅れちゃった。」



「いや、全然大丈夫です…。」



結局天見さんがきたのは15分後だった。

あんまり生きた心地がしなかったが、近くにあった銅像と同化することでどうにか乗り切ることが出来た。




「条件とか、そういう話は学校からまず家族とかに話に行くことになってるの。その条件とかそういうのは龍くんの両親のかわりに光さんが聞いていったよ。」




「そうなんですね。それで姉は了承して改めて自分が話を聞きに行くという感じですか?」




「そういうことになるね。」




先に姉が話を聞いていた。

だから、俺が大変だということを知っていた。

それを知ってお金を渡してきた…。



考えてもよくわからなかった。

どうせ今から聞けばわかるだろうし、あんまり気にしていなかった。




「こんにちは、東奈くん。よく来てくれたね。」



この前テストを後ろでずっと見ていた理事長が俺の事を手厚く迎えてくれた。

とりあえず、嫌われてはないみたいだ。

この感じだとかなり期待されている感じを受けたが、俺は俺なりに期待に応えるしかなかった。




「まず、東奈くん。女子野球部のコーチとして特待生の条件を受けてくれてありがとうございます。東奈くんの特待生としての内容ですけど…。」




特待生には学校によるだろうが、基本的にはランク制度がある。

白星高校はS.A.B.Cと4つのランクがあり、俺は選手ではなかったのでA級特待生として入学させてもらうことになった。



条件は、

1つ目は入学試験の免除。


テスト自体は受けに行かないといけないが、極論全て白紙で出しても試験は合格する。

流石にそんなことしたら入学した後にかなり色々と言われるだろうが…。




2つ目は入学金の免除。


S.A.B特待は基本的に入学金全額免除となる。

C特待は半額免除だったり、免除がなかったりする。

C特待はどちらかというと学校に入学出来ますよっていう推薦みたいなものに近い。

白星高校はC特待でも入学金半額免除されるみたいだ。



3つ目は学費の免除。


ここはS.A特待が全額免除。

B特待が半額免除。

C特待は学費の免除はない。

これは多分どこの高校もこの形態だと思うが、白星高校はこの形態になっている。



ここまでS特待とA特待の違いがないが、S特待はスポーツが盛んな有名校でも学年に1人、多くても2人くらいしかいないと思う。


S級は、お小遣いが貰える。

というと変な風に思われるだろうが学校で必要な物。制服、体操着、教科書など全て学校が用意する。

寮がある学校などでは寮費などもすべて学校が面倒を見てくれるらしい。



俺が野球をやっていた時、早い学校は俺が中学生になってレギュラーで大会に出た段階で早く決めて貰えるならS特待で迎えたいですとスカウトが来ていたらしい。



2年生になるとその話があまりにも増えて、監督からそういう話を俺にしても興味無さそうにしていた為、よっぽどの高校から特待の話が来ない限り俺に話が来ることは無かった。




「A特待ですか。」




「やっぱりS特待じゃないと不満ですか?」



「いや、そんなことはないです。プレーしない自分にA特待はかなり評価されていると思っています、ありがとうございます。」




珍しく本心でそう思ったので、深々と頭を下げて誠意を伝えることにした。




「龍くん。次は私からお願いというかやってもらわないといけないことがあるの。」




俺はそう言った天見さんからとても嫌な雰囲気を感じとった。


人が本当に申し訳なく思う気持ちの時に発するモヤモヤとした雰囲気の時にこのなんともしれない雰囲気。



経験上、この雰囲気を感じた時に言われる言葉は…。








「龍くん。来年の1年生のスカウトをよろしくお願いします。」




……………。







「もう一度言ってもらってもいいですか?」





「龍くんと同じ歳の選手をスカウトして来て欲しいんです。」





俺の聞き間違いの可能性があったので聞き直したが、間違いではなかった。


あの雰囲気のときは本当にろくな事がない。



選手を教えるのはまだ出来るだろうと思っていたが、同級生をスカウト?

俺はある程度覚悟していたが、スカウトは無理だ。




「あの…。断ってもいいんですか?」




「そう言いたい気持ちも分かるけど、龍くんにやってもらうしかないの。」




明らかに申し訳なさそうな雰囲気を出している天見さんだが、口調はかなり強めになっている。

新任の監督として1年目はスカウトに行く暇がないのだろう。

チームを把握してチームをまとめるのがまず難しいと思う。

だからこそ、俺に頼むようなことではないスカウトを俺にお願いしてきているのだ。




「うーん…。」



俺も簡単に縦に頭を振ることは出来ない。

同級生の女子野球選手をスカウトをするというのは難易度が高いとかそういうレベルではない。

最悪、会う人全てにスカウトしてもどうなる事やら…。




「どうせ伝えないといけないから今全部話しておくね。」




俺はこのスカウト以外に話すことなんてあるのかと思いながら意識をどうにか保って聞いていた。





「出来れば14人スカウトしてきて欲しい。」






「14人!?」




「はは。そんなに驚かなくても大丈夫だよ。」




天見さんは俺が喜んでると勘違いしてるんじゃないだろうか?

あまりの多さに衝撃を受けたのに、驚かなくていいと言われても…。





「話を続けるけど、学校としても女子野球部を強くしたいという方針で、特待生も14人枠を貰ったんだ。内訳はSが1人、Aが4人、Bが6人、Cが3人。ランク付けは龍くん君に任せる。」




「そうですか…。」




辛うじて話は頭に入って来ているが、俺の心はここにあらずという感じだった。




「後、これ。役に立つとは思うからそれを参考にしてスカウトしてみてね。」




そういうと女子クラブチームや部活動の3年生の名簿と大会成績などがまとめられたクリアファイルを受け取った。





「そうそう。14人といっても私ももちろん空いてる時にはスカウトに行くからそこらへんは安心して。」




俺は少しホッとした。

というよりも早くそれを言ってくれと心の中で悪態をついた。



「私がスカウトする子達も、その子たちのプレーを見て龍くんがランク付けして。14人スカウト出来ればその中でもある程度優劣が出てくると思うから。」




「分かりました。それでは今日は失礼します。」




思考停止した俺は、とりあえず目の前にあるファイルを手に取り帰ることにした。




「龍くん。家まで送っていくよ。」




俺は返事もせずにゆっくりと頷いた。



車の中でなにか話したが、あんまりなにを話していたか覚えていない。



「それじゃ、おやすみなさい。」




「はい、おやすみなさい。」




俺は家に帰るとすぐにベットの上に横たわった。

学ランも脱がずにただただ天井を見ていた。




………。





「無理に決まっとるやないかーい!!!」





近所迷惑になるくらいの大声が悲しく響き渡ったのであった。

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