第25話 帝国の巫女・スイ

~グランデ城~


・スイ

「帝国からやってきました巫女スイです。

『魔王城』出現の報告に参りました。

急ぎ話し合いをお願いしたい。」


グランデ王に直接交渉するスイ。

グランデ王は快く迎え入れる。


・グランデ王

「遠路はるばるご苦労だった。

長旅で疲れただろう。

一度ゆるりと休まれよ。」


王は優しく労う。


・スイ

「いえ、それには及びません。

直ちに迎撃の準備をしたいと思います。

至急、勇者と話し合いをしたい。」


・グランデ王

「そうか、流石は帝国の巫女だ。

とても『優しい人』だな。」


スイはピクッと反応する。

帝国兵はニヤニヤしていた。


・グランデ王

「では奥の部屋で待って居てくれ。

すぐに呼んでまいる。」


王は自ら立ち上がり勇者を呼びに行く。

スイたちは言われた通り奥の部屋で待つ。


・帝国兵

「お前ら聞いたか?

こいつが『優しい人』だってよ。」


ゲラゲラ笑う護衛兵。


・スイ

「気を付けて、ここは既に敵の懐。

変な言動は謹んで。」


スイは兵士達を注意する。


・帝国兵

「へいへい、解りましたよ。

『優しい人』に従いますぅ。」


嫌な空気が流れる。

しかしスイは考え事をしている。

この流れは一体なんだ?


考えていると勇者がやって来た。


・エリシャ

「待たせたにゃ。」


・リーム

「お久しぶりね。」


そっけない言葉を掛けて部屋に入る。

スイは『魔王城』の事を伝える。


・エリシャ

「そうか、解った。

出来るだけ早くそちらに向かう。」


帝国への対応やはりそっけない。

あの違和感は何だったのだろうか?

たまたまだったのか?

ならば次に向かおう。


次で最後だ。

スイは立ち上がる。


・リーム

「そうだ、言い忘れてた。

前線基地の設置、並びに費用の負担。

この国を代表して礼を言うわ。

噂通り『優しい人』なのね。」


スイに衝撃が走る。

間違いじゃなかったかもしれない。


・スイ

「と、トイレに行っても良い?」


スイはリームに尋ねる。


・リーム

「良いわよ、じゃあ案内するわ。

エリシャ、帝国の方にお茶を出して。

帝国の兵士様、護衛ご苦労様です。

少しゆっくりして居てください。」


リームの提案に兵士達は気を緩めた。

エリシャは急いで茶菓子を用意する。


・エリシャ

「凄いにゃ、リームの行った通りだ。」


リームは最初からお茶菓子を用意していた。

こうなるかもしれないと考えていたのだ。

それはサリウスが繋いだ事。

『優しい人』と言う合言葉を聞いてから。

リームは意図的にこの流れを生み出した。

スイと二人きりになるために。


リームとスイは一緒に歩いて行く。

そしてトイレに一緒に入っていった。


・リーム

「これで良いかしら?」


リームは意味深に話しかけた。


・スイ

「『優しい人』あれは合言葉ね。

何故貴方が知ってるの?」


・リーム

「サリウスから聞いたのよ。」


ありえない。

スイはここまで飛んできた。

この国は帝国を挟んで逆にある国だ。

簡単に帝国を横断など出来ない。

自分達より早く着くなど考えられないのだ。


・スイ

「フーバの勇者は何を企んでるの?」


・リーム

「さぁね、解らないわ。でも貴方が苦しんでるんじゃないかって言ってたわ。」


スイは考える。

あまり時間はない。

最善の手を考える。


・スイ

「次が最後よ。

出来るのならエルデンの勇者に伝えて。

合言葉は『ケダモノ』。」


帝国の巫女として選ばれたスイ。

彼女は今までずっと苦しんでいた。

今まで死んだような眼をしていた。

しかし、彼女の目に力が宿る。

今がその時かもしれない。


彼女はリームに作戦を伝える。

作戦と言うよりも願いに近い。

もう時間はない。

迷っている暇もない。

エルデンの勇者が出来るのなら。

希望を持っていいのなら。

今、全てを掛けようと思った。


全てはエルデンの勇者次第。


スイはグランデを後にした。

リームに託した願いを信じて。



~エルデン王国~


・「マジか?マジでやるの?」


俺はエリシャと話している。

リームがスイに言われた事を聞いた。

正直ヤル気にはなれない。


・エミリア

「どうしたの?」


不審に思ったエミリアは浩二に質問する。


・「う~、話したくない。

でも時間もない、やるしかないかな?」


困ったなぁ。

でもチャンスでもあるなぁ。

でもなぁ~、、、


・エミリア

「ねぇ、何があったか教えてよ。」


仕方がない、やるか。

全部サリウスの提案って事にしよう。

言い出しっぺはあいつだし。

俺は渋々エミリアに作戦を話した。

そしてやるべきだと主張する。


エミリアにビンタされた。


痛む頬を抑えながら王に話す。

そう言う作戦だからと伝えてみた。


王にビンタされた。


一緒に話を聞いていたコーン。

流れ的に私も?って顔で近づいて来た。


俺がビンタしてやった。


コーンの「何で?」という顔は無視してすぐに行動に移る、ビンタされた分は取り返さなきゃ。


次の日、帝国の巫女がやって来た。

既に準備は万端です。

ビンタされた恨み。

全てをぶつけてやろう。


スイは帝国兵と共に王の間にやって来る。

そこで見た光景は凄かった。


玉座に座る勇者。

国王は何処だ?

護衛の兵士もいない。

ここに来るまでも無人だった。

一体どうなっている?


勇者の足元には乱れた服の女性。

よく見れば首に鎖が巻かれている。

あれはこの国の姫?

瞼は腫れ、赤く充血している。

涙を流していたのだろうか?


・スイ

「こ、、、これは、、、」


スイも帝国兵も戸惑っている。

あまりに凄惨な現状だ。


・「おう、久しぶりだな。

召喚の時以来か?」


戸惑ってるスイに俺が話しかける。


・スイ

「そ、そうね、久しぶりね。」


リームから聞いていた人物と違う?

想像できない程に腐っている。


・スイ

「えっと、貴方は勇者よね?」


思わず確認してしまった。


・「おいおい違うぞ?勇者は辞めた。

厄災如きに負ける様な弱い王などいらん。

だから殺してやったわ。

魔物にやられるような兵隊も同じだ。

駒はこれから俺が増やせばいい。

今は俺がこの国の王。

しかしお前、一国の王である俺様にタメ口とは良い度胸だな?まあ良い、んで何か用か?」


浩二がスイに尋ねる。


・スイ

「『魔王城が』出現します。

それで協力を、、、」


・「ん?よく見りゃお前、、、

なかなかいい女じゃねえか。」


スイの報告を遮る。

驚くスイを無視して続ける。


・「気に入ったぞ、お前も俺の物になれ。

毎晩『ケダモノ』の様に貪ってやる。

俺の国は俺とこいつしかいない。

特別に貴様も我が嫁にしてやる。」


スイは一瞬凍り付く。

帝国勇者以上に異常だ。


・帝国兵

「こいつはイカれてるな。」


思わずこぼれる帝国兵の言葉。

その言葉にニヤける浩二。


・「おい貴様、言葉を慎め。

世界の王である俺に敬意を示せ。」


浩二は立ち上がる。


・帝国兵

「ああ?何だ?人間風情が生意気な。」


どうやら当たりだな。

こいつら全員魔族だ。

サリウス、お前の言った通りだったよ。


・「言っても解らんようだな。

じゃあ、死ね。」


俺は一気に攻撃に移る。

スイを外して敵の数は6。

ドラグーンランスで一匹ずつ仕留める。


5発で5匹を仕留めた。

残りは逃がしてやるつもりだ。


・帝国兵

「あわわわわわ、、、」


腰が抜けて動けない様子だ。

ざまぁねぁな。

さて、ビンタのお返しをしなきゃな。


・「おい、貴様。」


・帝国兵

「はぃぃ!」


・「貴様には伝言を頼もう。」


帝国兵の前でしゃがむ。

髪をつかんでこっちを向かせる。


・「いいか?この女は俺が貰った。

『魔王城』攻略は不参加だ。

俺は子作りに忙しいのでな。

参加してほしけりゃ女を連れてこい。

質によっては考えてやらんでもないぞ?」


我ながら嫌なキャラ造りだ。

俺の言葉に放心状態の帝国兵。

やれやれ、、


・「おい、聞いてるのか?」


俺は大声で怒鳴る。


・帝国兵

「はいぃぃぃ!」


・「解ったなら早く行け。

じゃなきゃお前も殺すぞ!」


・帝国兵

「すいませんでしたぁぁぁぁぁ」


もの凄い速度で走って逃げる。

俺の目の前なのに羽を出して飛んでいく。

脅しすぎたかな?


・「さて、次はお前だ。

解っているな?」


俺はスイに近ずく。

スイはジリジリと後退する。


・「どうした?逃げるのか?

お前が蒔いた種だろう?」


俺はなおも近づく。

そして、、、


スパーン


頭を叩かれた。


・エミリア

「はい、そこまで!」


エミリアの一撃で演技は終了となった。

それを合図に兵士さんたちが出て来る。

エルデン王も出てきた。


・ロドルフ

「なかなか迫真の演技だったな。

知りながら見ていてもハラハラしたぞ。」


・コーン

「初めて浩二殿の戦いを目の当たりにしたが。

凄まじい一撃でしたな。」


ドッと疲れましたよ。


・エミリア

「しかし本当に凄い演技だったわね。

近くで見てて怖いと感じたわ。」


・コーン

「案外、浩二殿にはアレが似合うのかもしれませんな、はっはっは」


コーンが変な事を言う。

お陰で空気がおかしくなったじゃないか。

地味に兵士達が俺から距離を取る。

傷つくから辞めて。


・スイ

「えっと、作戦通りで良いのかしら?」


・「元々君の作戦だろう?」


・スイ

「魔族を確実に倒せるのなら合言葉の『ケダモノ』を言う、そして魔族を打倒して私を助け出して欲しい。

私が言ったのはそれだけよ。」


エミリアやロドルフがこっちを見る。

あ、、、やべえかな?


・コーン

「やはり浩二殿は魔王が似合いますな!」


笑いながらとんでもない事を言う。

ぶっ飛ばすぞテメェ!


しかしぶっ飛ばされたのは俺だった。

エミリアとロドルフに再びビンタされた。

貧乏くじ引いたよなぁ~。


その後、説明するのに一苦労だった。


そして数時間後。


・ロドルフ

「なるほど、魔族を騙したのだな?」


・エミリア

「浩二の趣味かと思っちゃった。」


どんな趣味だよ!


今回の作戦はこうだ。

まずはスイと会う。

そこでゲームモードにチェンジする。


前にも言ったがマップには情報が表示される。

敵は赤、味方は青、無害の人は白。

サリウスから聞いて話では白だった。

帝国兵の中、彼女だけが敵対心が無い。

だから彼は聞いた。

「君は浮いていないか?」と。


グランデでエリシャが見た時も白だった。

だが、俺が見たスイは青になっていた。

理屈は解らないが彼女は味方らしい。

だから助ける事にしたんだ。


・「で、合言葉を言う為に色々やった。

『ケダモノ』って合言葉はかなり困ったぞ。」


俺はスイに文句を言った。


・「どうせなら次の作戦に繋げてやろうと考えてね、今回の様な芝居をうったわけだ。」


・エミリア

「へぇ~、どんな作戦かしら?」


エミリアの視線が痛い。

解ってますってちゃんと説明しますから。

だからそんな目で見ないでください。

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