第五十話 価値の供与。

 僕たちの後に演奏していたバンドが終わったのを外で確かめてから会場に戻った。

さっきまでの緊張しながら聞いていた状態とは変わって、ステージで演奏しているバンドの表情や手の動き、細かい音の要素なんかがわかるようになっていた。

緊張ってなかなか厄介なもんだな、視野は狭くなるわ耳は遠くなるは心拍は上がるはもう大変。

 「おい紬つむぎ、あのバンドのギターのリードめちゃめちゃ上手くない。あのくらいウチのリードギターもできるようになって欲しいものですな。」

 「やかましわい、オイラだってあのくらいできらあ。」

 さっきまでの自分を振り返って自己分析してたのに急に皮肉られた、何様のつもりか。たかがバンドリーダー様ではないか。

 そもそもなぜできないことを前提に話しているんだか。みんなこの大会の為にずっと練習してきたんだから上手いのは、言ってしまえば当たり前だ。

僕だって時間をもらえれば難しいフレーズもスイスイ弾ける。と思う。多分。

 まあ冴月も本気で言ってるわけでもないし、俺も本気になる事もない。漫才みたいなことをしている間に時間の糸はスルスルと流れていった。

大会が始まる前から分かってはいたけど、やっぱりどのバンドも上手い。技術的なことだけを言ってるわけじゃない。もちろん全体的にリズム感とか歌唱力とか音作りとか曲の構成とか、そういうことは上手い。

 けどそれだけじゃない、僕が言いたいのはそういうことではなくて、心がある。

ただただ上手いだけじゃなくて、本当に感情が乗った歌い方をする人が多い。心を動かされる歌って、こういうものなのかもしれない。

 『全てのバンドさんの演奏が終了しましたので、協議の時間となります。終了しましたら放送しますので、放送の聞こえる館内でお待ちください。お疲れ様でした。』

 司会のお姉さんの連絡を聞いて、ホールの外でどこのバンドが好きだっただのこういう曲もやってみたいだの何気ない会話をして審査が終わるのを待った。

 『お待たせいたしました。それでは、結果の方を発表したいと思います。』

 なんか協会の偉い人らしいおじさんがステージの上で話してる。

傍に置かれた机の上には賞状やトロフィーが並べてある。ここにいる人間全員が欲しいもの。

ちなみに一位なら全国大会に行ける。

 『第六位、朝日高校!おめでとうございます。』

 呼ばれたバンドはステージに上がって賞状を受取り、全員で写真を撮る。

この大会に出場しているバンド数は十八組。入賞できるのは六位以上、つまり三分の二は経験以外の何も得られずに帰る。

順番に呼ばれたバンドが表彰され、笑顔で写真を撮っていく。

 入賞しているバンドは僕も記憶に残っているところばかりで、なんとなく自分達は呼ばれないかな。なんて思っていた。

 『第三位、東高校!おめでとうございます。』

 思い違いだったみたいだけど。

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