第十五話 か弱き城塞。

 「ただいま、はー疲れたぁ。」


 三年生として始まった学校生活も最初の一週間が終わった。

明日、土曜日からは軽音部の新入生歓迎ライブのための練習をバンドで再開する。

これは二年生のうちにほとんど完璧になっているので確認程度だ。


 れんの入院中の病院にも放課後に少しだけ顔を出すようにしている。

術後の経過は順調らしく、状況を見てリハビリを始めるみたいだ。

今日も着替えを届けに行くついでに蓮の様子をみにいくつもり。


 -ピンポーン。


 「早いな、もう来たのか。」


 荷物だけ部屋に置いて、早足で玄関に向かう。


 -ガチャ。


 「いらっしゃい、早かったね。まだ大学始まらないんだっけ?」

 「ううん、始まってるんだけど、今日は朝に一つ講義があるだけだったから。」

 「いいなそれ。大学生って感じ。」


 淡藤あわふじは僕の通うあずま高校の卒業生で、進学校の中でもトップクラスに優秀だった。

受験でもなんの危なげもなく第一志望の有名国立大学に進学できたらしい。


 「じゃあ行こっか紬君、病院。」

 「あ、ちょっと待ってて、蓮の着替え持ってくる。」

 「手伝うよ。」


 最近はこんな感じで淡藤と二人でお見舞いに行くことも多い。

行き帰りの何気ない会話ですら楽しくて、病院までの道のりも少しも苦じゃない。







 病院に着くと、蓮はまたスマートフォンで何かを真剣に見ていた。


 「蓮ちゃん、来たよ!」


 初め、イヤホンもしていて僕たちに気がついていないようだったので、淡藤が近づいて声を掛けた。


 「うわ!あわちゃん、来てくれたの?ありがとう!」

 「蓮ちゃん何見てたの?」


 確かに、あれだけ没頭していると何を見ていたのか気になる。


 「えー、ちょっと恥ずかしい。」

 「なんでよー、気になるから教えて?」

 「えー。」

 「蓮ちゃん!お願い!」


 こんなやりとりがしばらくの間続いていたが、とうとう蓮の方が先に折れた。


 「わかった、わかったって。アニメだよ、もう。」


 アニメか、意外だな。

以前まで僕がリビングでアニメを見てるとわざとらしくため息をついていた。

その蓮がアニメとは、どういう風の吹き回しなんだか。


 「あー、いいじゃんアニメ、私も小さい頃プリチュアよく観てたよ。」


 どうやら淡藤のアニメ歴は幼少期の小さな女児と大きなお友達向けのもので終わっているらしい。

ちなみにこの前チラッと観てみたら普通に面白かった。


 「無理にフォローしなくていいよ恥ずかしい。私が観てたのもっとヲタクっぽいヤツだし。」

 「恥ずかしくなんてないよ!私の知り合いも沢山観てるし、ね!紬君!」

 「え、うん。全然大丈夫、今アニメ結構一般化して来てるし、恥ずかしくないって。」

 「もーいいってー!」


 蓮はそう言って布団の中に籠城してしまった。そんなに恥ずかしい事じゃないのに。

僕の知る限りで1番アニメに詳しいのはかけるだ。

今度連絡先教えてやろ、この二人が仲良くなったらなんか面白そうだし。


 「ちょっとー?蓮ちゃん?出ておいで〜。おしゃべりしようよー。」


 攻城戦を仕掛けている淡藤を横目に持ってきた着替えをしまう。


 その後は三人でしばらく話をした。

淡藤と一緒だからかもしれないけど、蓮がこれまでより普通に話してくれるようになって嬉しい。

お兄ちゃんしてるって感じがする。

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