30話 世界は愛で溢れている②
聞いた感想は良く言えばとてもいいメロディライン、そして綺麗なピアノ、という感じだ。
そしてボーカルは今流行りのボーカロイドを使用していた。
だがそのボカロの所為ではなく、純粋にメロディラインがいい事は、素人の僕でさえなんとなくわかった。
逆に悪く言えば、それはチープな曲だった。
ベースもドラムも安い打ち込み。音がとても軽く貧相。ギターに関しては打ち込み全開、というかそれは生ギターには程遠いサウンドだ。
ただ、一人で作るには限界がある。
レコーディング前のデモ音源なら大したもんだ。
「いいじゃん。デモ音源ならこのクオリティで十分でしょ。この曲どこから手に入れたの?」
僕はヘッドホンを外し、大井に無言で渡しながらキヨに尋ねた。
大井も黙ってヘッドホンを付けて聴き始める。
「その曲さ、今一緒にゲーム作ってる
「上村って、確かその子グラフィッカーの子だよね?」
「そうそう。オレが誰か曲作れる人いないかなーってボヤいたらさ、私作ってるよって言ってきてくれてさ」
上村ゆめ――僕も以前ゲーム制作で同じチームになった事がある子だ。その時大井も一緒だった。
彼女がこの曲を作ったのなら、それは少し意外だった。
というのも、上村はいつも1人の大変大人しい子だからだ。
これは僕の勝手なイメージの問題なのだが、音楽をやる人はド派手なイメージがある。
だから意外といえば意外だ。
上村といえば、それこそ大井みたな文芸のイメージが良く似合う、そんな子だ。
「へぇー。これ一人で作れるんだ。普通にスゴイと思う」
聴き終えた大井の感想だ。
「だろー? でも上村は動画サイトとかにアップとかしないんだって。勿体無いよな」
まぁ、上村はグラフィッカーなのだから絵なんて自前でどうにかなる。
やろうと思えば出来なくもない。
「まぁ、本人が乗る気じゃないなら仕方ないんじゃない」
僕は気休め程度の言葉をキヨに言ってあげた。
「そうだけどさー」
なにか腑に落ちてない様子。
余程上村の曲がお気に召したらしい。
だが大井にweb小説を始める事を強制出来ないのと同様、本人がやりたくないなら強制は出来ないだろう。
ただ、馬鹿な頭をフル回転してるキヨを見て、お願いだから余計な事に頭突っ込むなよと思っていた。
だって僕の経験上、キヨは無駄な事しかやらない、そういう馬鹿な奴なのだから。
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