16話 スマホはアイスノンで冷やせ
夏休みなのに僕は専門学校にいる。どうしてかと言われれば、臨時の授業というやつだ。
参加は自由だったが、周りは皆参加に挙手をしていたので、僕もなんとなく参加する事になった。
「よう、ぬまおはよ」
夏の暑さの中ようやく学校に到着し、僕は机で寝そべっていた。すると隣にキヨが座ってきた。専門での友達と言えばこのキヨくらいのもんだ。そして同じ東北出身というのもあってか割と気が合う。
「おう、おはよ」
「随分疲れてんな。なんかあったん?」
僕は先日のデートの件をありのまま話す気にもなれず
「まぁ色々な」
そう言って誤魔化した。
隣に座るなりキヨはリュックを下ろし、鞄からアイスノンを取り出した。学校でアイスノンを出す奴なんて見たことはない。ハッキリいって異常な光景だ。
「お前なにやってんの。熱でもあんのかよ?」
「ちげーよ。こう使うんだよ」
キヨは当たり前の様にアイスノンの上にスマホを置いた。その光景に僕は唖然とした。
「なにやってんの?」
「いや、最近スマホ寿命でさ。バッテリー熱くなってヤバいんだわ」
いや、気持ちはわかるぞ。ただスマホをアイスノンの上に置く奴は初めて見た。多分コイツはバカなのだろう。
「でも止めた方がいいよ。普通に」
「いや、お前バカかよ」
お前には言われたくない。
「これ凍らせてないから。常温でもこのゲル状で冷却効果あるんだよ」
凍らせているかどうかという問題なのではない。問題は学校に当たり前の様にアイスノンを持ってくることだ。
「なんだよその目は。お前のも置いてやろうか?」
そう聞いてきた。キヨは根は優しい友達想いのやつなのだ。
「いや、いい」
だけどそう丁重に断ったのだった。
「よし昼飯いくべ」
午前の課題授業がやっと終わりキヨがそう声を掛けた。僕達はいつものカフェテリアで昼食を取る事にした。
「最近ライブ配信初めてさ」
そんな話しをキヨがしてきた。ライブ配信とは詳しくはわからないが、適当にトークしたりするやつの事だろう。
「そんな事やってんだ。なんか以外」
「なかなか面白いぞ。なんかフィリピン人から投げ銭貰ってさ」
コイツは一体どんな配信しているのだろうか。
「なんかタイ人の人にもフォローされたわ」
だからどんな配信してんだコイツは。割とぶっ飛んでいるそんな様な奴だが割と普通な所もある。まぁ側に居てネタとして面白い、そんなキャラがキヨだ。
「あっ、それとオレこないだ原付で転けてさ」
「おい、それ大丈夫なんかよ?」
そう心配すると
「オレのジッポどっかにふっとんでなくしたわ。最悪だよ。あれ、レアの魔法少女のやつなのに」
全然普通ではなかった。そもそも20歳の男性が魔法少女のジッポを使ってる時点で普通ではなかった。さっきの発言は撤回し謝罪しよう。
「なぁ、今日ヒマか?秋葉で同じの買いに行こうぜ」
別に予定などないので行くことは全然構わないのだが、また魔法少女のジッポを買うことはやめて欲しいと思った。
「いいけど、買うなら魔法少女じゃないジッポにしない?」
「そうだな。じゃあ、これにしようかな。これも前から欲しかったのよ」
そう言ってスマホで写真を見せてきた。
「どう?可愛いだろ」
キヨが自慢げに見せてきたスマホの画像は、いかにも小学生みたいな幼女のアニメキャラが映っていた。
「お前完全無欠のロリコンだろ」
「ちげーよ。このキャラこう見えて300歳なんだよ」
僕はそれを聞いてなにも答えることができなかった。ただ心の中では「そういうことじゃねーよ」と思った。
「久々じゃね秋葉来んの?」
学校が終わり僕達は秋葉に来た。キヨからそう聞かれたがたしかに秋葉に来るのは随分久しぶりなきがした。特に用がないし来る必要もないので来なかったのだが。
「おし、なら早速買いに行くか」
僕はキヨの後ろを歩いていた。すると目の前には複数のメイドがキャッチをしている。
「どうぞー。はい、お兄さんもこれどうぞ!」
メイドさんはチラシを配っていた。僕はそれをなんとなく受け取り目の前に目をやると衝撃的な人物がいた。
「おい、どうした急に立ち止まって。っておい」
僕達の目の前に居るメイド。コイツは紛れもない祐希だった。
「あはは。お久しぶりだねキヨ君」
そういえば昼はメイドしていると聞いたことがあった。まさかこんな形で祐希のメイド姿を見ることになるとは夢にも思わなかった。
「お久しぶりっす」
そうキヨは返していたが、僕は呆然としていた。いや、本当にコイツもなにやってるんだよという心境だ。
「沼倉君。なんで無言なのよ。なんかいいなさいよ」
そう圧をかけられたので
「可愛いですね」
と棒読みで答えた。
そしてキヨはなにかを察したように
「じゃ、オレはお邪魔だよな。買い物行くからぬまはメイド喫茶にでも遊んで来いよ」
そんな無駄な気を遣ってキヨは足早に去って行った。ただ申し訳ないのだがメイド喫茶には微塵も興味がなかったので僕も立ち去ろうとした。
「じゃ祐希。お仕事頑張って」
そう言って立ち去ろうとすると
「おい」
とまた圧をかけられた。これは先輩の地位を使った立派なパワハラである。
「遊びに来るよね、ウチの店」
殺意に満ちた祐希の笑顔に僕は引きつりながら
「あっ、はい」
そう答えたのだった。
そして半ば強引に祐希の働いている店まで向かった。
「ほらここ。入って」
「あのさ。オレそんなにお金ないよ」
「大丈夫。ここはキャバクラじゃないんだから」
言われてみればそうである。メイド喫茶という位なんだから飲み物代に少し毛が生えた程度だろう。少し僕はホッとしていると祐希がメニューを持ってきた。
「どのコースにすんの?」
「コースとはなんだ?」そんな疑問が浮かんだ。もしかしてここは高級レストランみたいなコース料理を提供するのだろうか、そんな事も頭に過ぎった。
だがそれも違うことがすぐに判明した。
そのメニューを見ると15分コース30分コースと時間のコースが書いてあった。
「なにこのメイド喫茶。時間制なの?」
「メイド喫茶じゃないよ、ここはメイドリフレね」
僕はとんでもない場所に連れて来られたもんだ。コイツはどんな場所で働いているんだと思った。ただ、祐希からは「昼はメイドしている」と聞いていた。「メイド喫茶」とは言っていなかった。実に上手な言い回しである。
「ほら、どうすんの。この最長の1時間でいいよね?」
「いや、いいよ。そういうのはちょっと」
「大丈夫。友達の彼氏にはなにもしないよ」
「ならなんで最長の1時間コースなんだよ」
「それは1時間私サボれるじゃん。だから1時間にしたの」
流石祐希の発想だ。随分ゲスな発想するやつだ。
「それにここは普通のマッサージと耳かき専門店だから、下の世話はしないとこだよ」
マッサージなら受けてみたいと思った。この数日で身体はバキバキになっていた。大体は莉奈のせいなのだが。
「マッサージならいいかもしれない。なら1時間コースで」
「はーい。1時間コースね。毎度あり」
レシートを取り出し僕に渡した。
「じゃあ個室に案内するね。あっちなみに耳かきは私の生の太ももに頭を乗っけることになるし、マッサージは身体をいろいろ触ることになるけど大丈夫?」
そう小悪魔的笑みを浮かべ祐希は言った。
確かにマッサージは受けたい所なのだが、太ももに頭を乗っけるのは少し抵抗があった。
だって僕は彼女持ちの身である。
そんな事簡単には許される筈もない。
「いや、耳かきはいいよ。マッサージだけでいいや」
「あっそうなんだ。オッケー」
祐希と怪しげな個室に入り、最初の15分くらいマッサージを受けた。
それは案外気持ちよく、割と快適だった。
ほどよい疲れが取れたと思ったら、祐希が変な事を言い始めた。
「じゃあ、交代ね」
「交代?」
「そう、私疲れたから、沼倉君マッサージね」
そんな意味不明な提案をされ、もちろん断った。
が、祐希の鋭い目線に僕は圧倒され、無駄に金を取られた挙げ句、客がメイドにマッサージをするというなんとも奇妙な出来事が起こっていた。
そんな理不尽を晴らす様に、僕は強めのマッサージをお見舞いしてやったのだ。
「い、いたい!」
と暴れていたが、この怒りを背中のツボに全身全霊で押していた僕だったのだ。
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