13話 初めてのデート②
僕達は朝食も食べずに家を出たのは10時頃だった。
電車に乗り込み空いてる席に座る。みなとみらい到着までの間に、今日行くデートスポットを調べたかったので僕はスマホを取り出して検索を始めた。
気になった莉奈も顔を覗き込んでいた。
バッチリ化粧を決めた莉奈の可愛い顔が接近し、いつも見ているその顔に不意にドキドキしていた。
そしてそのドキドキは莉奈の過激な服も原因の一つだ。ショートパンツで太ももが見え、スマホを覗く度にTシャツから胸元が見える。見ないようにしていても見えてしまう、そんな状況に僕の心拍数は自ずと上がっていった。
それを知らない莉奈は脳天気に
「ねぇ。朝食ここで食べたい」
とスマホ画面に指を差してきた。
「パンケーキか。いいよ、僕甘い物好きだし」
僕は動揺を抑えつつ平常心を装う。
その後も莉奈が行きたい場所を指さしていき、ある程度どこに回るかは決めれることが出来た。
僕達はみなとみらい到着後すぐにパンケーキ屋に向かった。
今日が土曜日という事もあってか少し並んでいた。ただ15分程度の待ち時間で店に入ることが出来た。
お洒落な雰囲気の店内に入り、僕達はこの店の定番のパンケーキとオムレツを頼んだ。ふと周りを見ればカップルも多かった。
そんな中、僕は莉奈に目を戻すと彼女の可愛さがより目立ったようにも思えた。デートという雰囲気の魔法のせいなのか、それとも自分の愛すべき彼女だからなのか、よくわからいが今日の莉奈はいつも以上に可愛く見え、なぜか照れて恥ずかしい気持ちにもなった。
その中じーっと莉奈は僕を見つめていた。その行為に気付いてはいたが、あえて知らんぷりをしてスマホを弄って視線を合わせないようにする。
莉奈は足で僕の靴をツンツンして
「ねぇ。なんか照れてない?」
「い、いや、そんな事ないよ。お洒落な店とかあまり行かないから、慣れてないだけだよ」
「なら、目を合わせてよ」
莉奈は真顔でじーっと見ていた。
だが、なぜか今日は莉奈と目を合わせる事がどうしても出来きなかった。
「顔真っ赤だよ。可愛い」
チラッと見ると、莉奈は小悪魔的な笑みを浮かべていた。そして僕はこのままでは遊ばれてしまうのではないか? という事が脳裏を過ぎった。
「おまたせしました」
とても良いタイミングで来た店員に僕は心から感謝した。
ふわふわのパンケーキにたっぷりの生クリーム。僕はフォークとナイフで切り分け、口に運ぶ。その上品な甘さは口の中に広がり、最高の一品だった。
「おいしい」
僕は呟くと
「うん。おいしい」
と莉奈もご満悦の表情だった。
「ねぇ。ほら、あーんは?」
「えっ?」
「だから、あーんだよ。ほら、あーんして」
莉奈は口を開けて待っていた。
やはり照れている僕をからかうらしい。僕は全力で照れてる気持ちを押し殺し、莉奈の口にパンケーキを運ぶ。
パクッと食べると
「じゃあ、私もしてあげる」
自分でも顔を真っ赤にしていると分るくらい、顔に熱を持っていた。
そして、莉奈からあーんをしてもらう。
「どうしよう。可愛すぎて食べちゃいたい」
完全にスイッチが入った莉奈が言った。
「なら食べなよ。パンケーキ」
僕はあくまでもクールに答えた。
その後も度々あーんをしたりして、僕の心臓が破裂してしまいそうになったが、なんとか破裂する前にパンケーキを食べ終え次の目的地へと向かった。
そして向かった先は美術館。
莉奈は意外にも芸術にも興味がるみたいで、飾られている絵を見て回った。正直凄いのかどうなのか、そんな事すらわからない僕であったが横で莉奈も
「多分これスゴイよね。多分」
そう言ってる辺り、もしかして僕と莉奈の芸術レベルは同じかもしれないと思った。
莉奈は「美術館とか行ったことなかったから、行ってみたかった」と言っていたので、もしかしたら芸術はそこまで詳しくないのだろう。ただ僕も美術館は行ったことはなく、行ってみたい気持ちでもあったので、初めての美術館は有意義な時間となった。
一通り周り終え僕達は美術館を後にした。
見晴らしがいい低い橋、たくさんのカップルがいる中僕達も歩いていた。すると突然聞える、鐘の音。
「ねぇ。あそこ、あれ結婚式じゃない?」
莉奈はそう言って、橋の向こうにある人混みを指さした。
その中には純白のドレスを着た新婦とタキシード姿の新郎が大勢の人に祝福されていた。
こんな真夏で暑くないのだろうか? という疑問を抱きながら僕は新郎を見ていた。
「結婚式かぁ……」
莉奈は少し寂しげな目でその様子を見ていた。
それを見て僕も複雑な気持ちになった。あと1年半、それが僕達の残された時間だ。その後僕達は死ぬことになる。結婚式なんて出来る筈も無い。
僕達は死ぬことが夢だった、死にたいと思っていたからこうして付き合った。
でも莉奈と毎日過ごすにつれ、もっと一緒に居たいと思える気持ちが沸き上がってきた。死ぬことは幸せな事なのだろうか、僕はそれが一番したいことなのだろうか? そんな疑問が浮かんでいた。本当はこうして、あの新郎新婦のように、結婚したいのではないか? そんな風に僕は考えていた。
「はい。チューは?」
莉奈は少し笑って言ってきた。
「なにそれ?」
「誓いのキス。ほら、チューは?」
「なにを誓えばいいの?」
「そんなの決まってるじゃん。永遠の愛だよ」
永遠、そんなもの僕達にはない筈なのに、わるわけないのに。
莉奈は冗談のつもりだけど、僕は少し本気でその永遠の愛を誓いたい気持ちになった。
「信は人多いから照れてるでしょ? 当然だよね」
莉奈はからかってそう言っているのだが、僕は莉奈の両肩をグイッと掴んで誓いのキスをしてやった。
「……なに、男前の事も出来るんじゃん」
少し嬉しそうに、でも恥ずかしそうにしている莉奈。僕はフイッと視線を外して
「今日だけだからね」
そう言った。
そして僕は次に向かうショップが建ち並ぶ商業施設へと向かう。
「ほら、莉奈行くよ」
「うん」
莉奈は僕の手を握ってきた。
真夏で手を握ることはそこまで好きじゃないが、この日はなぜか心地良いなと僕は思った。
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