11話 真実の愛とはなんですか?
『真実の愛』
これはとてもロマンチックな言葉だ。
今までの僕はそういう認識でいた言葉だった。
だがこのロマンチックな言葉が、雨宮莉奈によってとんでもない下品な言葉に一瞬で変わってしまったのだ。多分一生僕の心に残るだろう、そんな言葉に変わった。
もし、この言葉をロマンチックなままでありたい人は、ぜひそっとこの話数を飛ばして欲しいと心から僕は願う。
なぜこんな事になったかというと、それは莉奈の家で二人で食事をしていた時の事だ。
「莉奈大丈夫? 少し飲み過ぎじゃ無い?」
莉奈は少し頬を赤らめてワインを飲んでいた。そして、つまみのブルーチーズを少しつまみながら
「大丈夫、ぜぇんぜん酔ってないし」
少し呂律が回っていいない莉奈を僕は初めてみた。どう考えても今日は飲み過ぎている。
美味しいワインを貰ったという事で、僕と莉奈は最初はビールを数本、そしてワインを二本も空けていた。そしてこのワインの大半は莉奈が飲んだ事を考えれば、少々飲み過ぎである。
なぜそんなに飲んでしまったかというと、僕はこの日有名パン屋で買ったバケット、お手製のアヒージョとインサラータ・カプレーゼ、そして少し高めの店で買ったゴルゴンゾーラチーズとブルーチーズを用意した。莉奈は美味しい! と凄く喜んでおり、それが原因でハイペースで飲んで潰れてしまったのだ。
「ねぇ、信はいつになったら、同棲するの?」
莉奈はテーブルにうつ伏せながら聞いてきた。
今僕は学校の近くで一人暮らししていた。正直莉奈とここで住むことは全然よかった。学校は遠くなるが、部屋も2LDKと一人で住むには少し大きめなマンションなので全然問題もなかった。
「莉奈がいいなら、僕は別にいいよ。でも、学生だからここの家賃の半分も負担できないかもよ?」
「お金はいいよぉ。今まで一人で住んでるんだし。食費だけ少し払ってくれればいいよ」
「なら。引越ししちゃおうかな」
ここのマンションの家賃がどれくらいかは知らないが、お金に問題がないのなら一緒に住みたい気持ちは僕にもあった。
正直一人暮らしは僕にとっては楽しくはなかった。一人でご飯を食べることも好きでもなかったし、こうして誰かと食べれるならそっちの方がよかったのだ。
「ならけってぃー。準備終わったら同棲しよぉ!」
莉奈は完全に
そんなこんなで、あっさりと僕と莉奈の同棲生活が決まってしまった。こういう話はもっと話し合って決めるもんだと思っていたが、こういう決め方も有りなのかもしれない。
まぁ、成り行きで決めるのは僕達らしいと言えば、僕達らしい決め方だ。
「それより信。真実の愛ってなにか知ってる?」
急に莉奈はテーブルから顔を上げ、少し真面目な顔で問いかけてきた。これは同棲を前に僕は試されているのかと、少し身構えた。
そして、僕は真剣に、紳士に、いや真摯に、真実の愛とはを深く長考した。
1分位だろうか、考えた後真剣な顔でこう答えた。
「誰よりも大事にする覚悟、とかかな」
「半分正解、でも半分不正解」
莉奈も真面目な顔で答えた。その目は真っ直ぐ僕を見ていた。
「半分不正解なんだ」
「そう、覚悟って気持ちの問題でしょ? もっと、行動であるでしょ?」
「行動かぁ……」
恋愛なんてロクにしてない僕が、それでも正解を導こうと必死になって考えていた。誰よりも大事に思える、そんな行動とはなんだろうか。
考えて結果、僕は少し照れながらこう言った
「こう、寝るときとかに、ぎゅーとするとか?」
「おしい。でも、違うな」
大分正解に近づいているらしいが、少し違うらしい。
僕はここで恋愛の先輩として、莉奈の正解を聞くことにした。
「じゃあ、正解を教えてよ」
「正解。それはね……」
その少しの間に僕は息を飲んだ。それと同時にこれがきっと彼女がしてほしいと思っている願いなのだと思い、聞いたら必ず実行し叶えてあげようと誓っていた。
「中○し!」
莉奈はキメ顔でそう言った。
そして、リビングには静寂に包まれた。
まさか『真実の愛』がこんな下ネタだったとは、僕もどうリアクションしていいか分らず困惑していた。いや、というか、なんかちがくね? という疑問と突っ込みたい気持ちもあった。
「中○し!」
「いや、わかったよ。何回言うんだよ」
僕は真顔でそう言った。
そして、僕が真剣に、紳士に、そして真摯に考えた無駄な時間を返して欲しいと心から思った。
「なに不満げね」
いや、当たり前である。
『真実の愛』というロマンチックな言葉がたった三文字の言葉でここまで汚されたのだから、当然の反応だ。
「よく考えて欲しいの。そんな事出来るなんて、中途半端な気持ちで出来ないでしょ? 男性って。だからそれが出来るなら、それこそ真実の愛だと思うのよ」
「いや、でも世の中にはそういう責任も取らない駄目な男性だっているでしょ?」
「そうね。でも、信はしないでしょ? 君がそんな責任放棄する人間とも思えない」
そう言われると純粋に嬉しかった。
確かに、僕が莉奈にそんな事したらキチンと責任は取るであろう。無責任でそんな事するような男になるつもりもないし、なにより莉奈が悲しむような、失望されるような人間にもなりたくもなかった。
「でもさ、そんな事して、本当に妊娠したらどうすんの? 僕達あと数年後に死のうとしてんのに。そんな事になったら、ちゃんと生きていかないと子供が可哀想だ」
「そうね。その通りよ。でも、大丈夫なの」
莉奈はグラスに残ったワインをクイッと一気で飲み干し
「私ピル飲み始めたから!」
莉奈はキメ顔でそう言った。
多分相当酔っているのだろう。
そもそも泥酔している人となぜ真面目に愛について語り合おうと思ったのだろうか。正直無駄な努力だった気がする。
「私ピル飲み始めたから!」
「いや、わかったよ。何回言うんだよ」
僕は真顔でそう言った。
僕は食べ終わった食器やら、グラスやらをシンクまで運び洗うことにした。この泥酔女は別に放っておいて構わないだろう。
後ろからなにやらブツブツ言っていたが、とりあえず洗う物は全て洗って片付けた。
そして、振り返ると莉奈はテーブルにうつ伏せで寝ていた。
「おい、莉奈。寝るからベッド行くぞ」
そう呼びかけてもスー、スーと気持ちよさそうな寝息と共に起きる気配などなかった。
そして僕はこのモヤモヤとムラムラをどうすればいいんだと思いつつも、なにやら幸せそうに寝る莉奈の寝顔を見て
「まぁいいか」
と思うのであった。
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