第6話  俺より強い奴に会いに行く

「本当に無様ね」


 そう莉奈は僕を冷たい目で言った。僕は右手を握り悔しさを滲み出していた。なぜこんな状況になっているかというとそれは少し時間を遡ることになる。


 僕達は買い物を済ませリビングでくつろいでいた。そして大きなテレビが置いてる台にはゲーム機が置いてあった。それが珍しい事ではないが、そこには格闘ゲームの専用スティックがあったのだ。女の子の家にこんなのが有るなんて珍しい光景だ。


「格闘ゲームすんの?スティックあるけど」


「うん。祐希もよく遊びにくるし」


 だから2つのスティックがあるのかと納得した。祐希もゲームは好きで格闘ゲームもやるのだ。よく祐希の家で遊んでいたが、僕はその手のゲームには強かった。僕の数少ない友人に琢実たくみがいる。コイツが本当にくせ者でいつも格闘ゲームで負けていたのだ。そのせいで僕も自然と上手くなっていった。特に格闘ゲームは2Dも3Dも相当強くなった。だから祐希相手にはまず負けることなく圧倒してストレス発散していた。


「そういえば、信もやるんでしょ?やる?」


 莉奈は僕が格闘ゲームすることは知っているのだろうが、きっと強いとは知らないのだろう。


「いいけど、僕強いよ?」


 挑発的な発言をした。そんな事を普段は言わないのだがそれを言えるくらい自信があるのだ。


「へー、ならストシリーズやる?」


 そういって大人気シリーズの最新作を起動したのだ。だが、本当に莉奈は運が悪い。オレはこのシリーズ、特に最新作に関しては琢実とたくさんやり込んだのだ。莉奈には悪いが負ける気は全く無い。まぁあまり使わないキャラでも使って軽く遊んでやるか、そんな気持ちで僕はスティックを膝に置いた。


「キャラはランダムでいいよ。大体使えるから」


 僕は余裕を見せ莉奈に言った。


「なら負けたら罰ゲーム用意しないとね」


 無表情で莉奈は言った。だが、無表情の中になにか燃えている物があると格闘ゲーマーの僕は察した。

 随分とやる気じゃないか。なら少し本気出してやるか。

 そんな事を思いつつ、「ラウンドファイト!」というゲームの合図と共に莉奈のキャラに飛びかかったのだ。


 そして終わった結果それが冒頭に繋がる。

 そう、僕は完敗を喫したのだ。手も足も出なかった。確かに僕はランダムで苦手なキャラを使っていた。でも格闘ゲーマーの僕にはすぐにわかっていた。


 コイツ、本物だ。


 直感と動きで直ぐにわからった。この莉奈という女はこのゲームをとことんやり込んでいた。その動きは我がライバル琢実を超える物だ。間違いなかった。


「ねぇ、これ相当やり込んでるよね。今のコンボとか普通出来ないでしょ」


「そうね。普通あそこの繋ぎはコパンにするからね」


 そうあっさり専門用語を駆使してマニアックなことを言ってきた。これは大きな誤算だ。この女やはりただもんじゃない。


「中パン繋ぎ初めて食らったわ。あんなん出来るんだね」


「猶予1フレだけど出来るよ」


 僕は唖然と驚愕した。1フレを繋ぐ女性なんてそうそういない。しかもミスしてないのだから相当だ。


「今のはアップだから。ほら本キャラ使いなよ。モチロン本キャラなんだから負けたら罰ゲームだから」


 冷たく言う莉奈に背筋が凍った。オレが本キャラ使ったとこで間違いなく負ける。オレのキャラは立ち回り勝負だ。彼女のキャラはコンボ火力が強いキャラだ。このキャラは難易度が高いのがネックだが、それさえ克服すれば最強キャラの呼び声も高いのだ。どう考えてもこれはマズイ状況だ。


「い、いいだろう」


 そう動揺して僕は答えた。流石に分は悪いがここで怖じ気づくわけにはいかない。僕は精一杯考えた、そう彼女に勝つ方法をだ。そして唯一の希望は差し合いを制することだ。僕のキャラの方が差し合いは強い。だからそれで勝つしか方法はないと思った。だがこの考えは試合が始まりすぐに潰されてしまう。


「ちゅ、中足に中足差し替えした」


 圧倒的反射神経。それとも読みなのかわからない。ただ、僕の攻撃をギリギリでかわしカウンターを入れる莉奈に恐怖を感じだ。格闘ゲームとは恐怖を感じ瞬間負けなのだ。そして案の定あっさり僕は負けたのだ。

 僕は呆然としていた。それもそのはず。莉奈は僕が出会った中で一番強い奴だったのだ。


「さてもういいかな」


 そう笑みを浮かびながら言ってきた。


「な、なにがだ」


「いや、ほら罰ゲーム。完敗したじゃない」


 確かにそんな話しもしていたな。あまりに強すぎてそんなこと忘れていた。


「なにやる気が。スゴイ嫌な予感するんだけど」


「そうね。でも案外良いことかも」


 そういう莉奈の顔を見る限り僕には決して良いことだとは思わなかった。


「祐希から聞いたの。男性が究極に追い詰められた時の顔がゾクゾクするって」


 アイツは実にとんでもない事を吹き込みやがった。とんだドS野郎である。


「一応確認なんだけど、僕はどう追い詰められるのかな」


「それは内緒。でも考え方によっては幸せな行為。とりあえずベッドに行こうか」


 そして僕はこの後、罪悪感と理性の狭間で苦しむ様な事を行なった。それがどのような行為かはご想像にお任せしよう。ただ言えるのはこの女は相当変態で割とSなことは分った。

 そして、僕は次は莉奈に格闘ゲームで打ち勝つと強く決心したのだった。

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