第2話 運命の出会い

 専門学校に入って2年が過ぎた。専門学校なのだが僕がいるのは4年制の科なのであと2年もこの退屈な授業に受けないと思うと気が滅入っていた。授業が終わりスマホを見ると仲の良い女の子から連絡が届いていた。


「今日新宿で飲まない??」


 別に飲みたい気分でもないが今日は金曜だ。古い言い方をすれば花金だ。なので断る理由も特にないし、僕は素直に待ち合わせの新宿に向かった。


「よっ、沼倉君。お待たせ」


 そう僕の名前を言って颯爽と新宿東口に現れたのが祐希であった。彼女は僕よりも年齢が2個上で現在はキャバ嬢をやっている。その風貌からそんな感じを漂わせる女性だ。高校からの先輩でいつもよくしてもらっている、僕の数少ない友人なのだ。ただ友人だけではない、俗にいう肉体関係の友人でもある。祐希は自由奔放な性格であり「縛られたくない」という理由で恋人を作らない様にしているそうだ。それは僕からしても都合がよかった。僕は短命の人生を目標としているので、彼女を作りたいという願望は全くなかった。だから祐希とは非常にいい関係を築いている。


「じゃあ、居酒屋行くか。いつものとこ?」


 そう僕は尋ねた。いつもの居酒屋とは格安のチェーン店の居酒屋だ。いつも僕達はそこで飲むのが日課だった。


「いや、ちょい待ち。今日はね私の友達呼んでんのよ。もうすぐ来るはずだけど」


 今まで2人では飲んだ事はあったが、友人を連れてくるなんて初めての事だった。実に珍しかった。


「友達いたんだ。祐希にも」


 素直に呟いてしまった。


「失礼でしょ。割といるから。こう見えても」


 どう見てもいないようにしか見えないのが祐希だ。

 その派では風貌からは漂うビッチ感。実に同性から嫌われそうな雰囲気しかないのだが、男ウケはいいのが彼女の特徴だ。用はただのビッチなのだ。


「お待たせ」


 そういって突然現れた。ショートカット、そして冷たい目線。僕がなにか惹かれるような、そんな雰囲気の女性だった。


「おっ、きたきた。紹介するね。この子が雨宮莉奈あまみやりな。同じ店で働いててさ、同い年だからか仲良いのよ」


「どうも初めまして、沼倉と言います」


 僕は緊張していた。なぜかはわからない。別に初対面の人にはそこまで緊張をするタイプの人間ではないのだがなぜか緊張していたのだ。それは彼女の漂う独特な雰囲気のせいなのかもしれない。


「初めまして。下の名前は?」


「えっ」


 僕は少し驚いた。だって下の名前を尋ねられたのは初めてだったのだから。


「信です」


「そう、いい名前ね」


 彼女は言った。僕のどこにでもあるありきたりな名前を褒められた事は人生で初めてだった。


「よし、なら早く行こうか。いつものとこだとアレだし、折角だから少し高めな所に行こ」


 そう祐希が提案した。これは非常にマズイ。オレは祐希と毎回お酒を飲みに行った結果いつも金欠なのだ。どう考えても高めだと支払いがキツイ。その事を考えて僕は無意識に表情を曇らせた。

 そして、それを察して


「大丈夫よ。今日は私が払うから」


 雨宮さんは無表情で僕に言った。流石に初対面の人に奢られるのはと思ったのだが


「あぁ、沼倉君知らないよね。彼女ウチの店でスゴイ人気でさ。だからすっっっごい稼いでいるの。だから心配しなくていいよ」


 少し笑いながら祐希が説明してくれた。

 確かに雨宮さんは可愛いというか、とても綺麗な女性だ。祐希も可愛いと思うが、なにか惹きつけるそんな要素をこの雨宮莉奈という女性に僕も感じていた。そう考えるとキャバクラで指名が多いのも納得である。


「ほら、だから早く行こ。着いてきて案内するから」


 僕達は祐希の案内で少しオシャレなダイニング系の店に向かった。着くと僕達はビールを注文し乾杯した。一口ビールを飲んでポケットからタバコを取り出しジッポで火を付けた。


「ふーん。パーラメントなんだ。珍しいね」


 そう雨宮さんが言いながら、自分もタバコに火を付けた。彼女が吸っていたのはキャスターだった。火を付けてすぐにその独特の甘い香りが漂ってきた。


「キャスターを吸う女性も珍しいと思うけど」


「確かにね。普通はメンソール系だよね。私もメンソールだし」


 祐希もタバコに火を付けながら答えた。


「そう?でもキャスターは好きだよ。この甘い感じが本当に好きなの」


 とタバコを吸っている姿はとても様になっていた。そして、そのタバコも彼女にふさわしいとなぜかそんな風に思ったりもした。


「でも、みんな喫煙者だといいよね。気を遣わなくて済むし」


 祐希の気持ちはよく分る。雨宮さんがタバコを吸うから気兼ね無しに吸うことも出来る。これは喫煙者には朗報だ。

 なぜ僕がタバコを吸うようになったからというと、それは単なる憧れからだ。小さい頃からロックミュージシャンに憧れがあった僕にとってタバコとお酒は憧れからきているものだった。ロックといえば酒とタバコ。このセットは王道なのだ。浴びるように酒を飲んでタバコを吸う。そして身体を痛めつけ早死にする。実にロックな生き方だ。


「よし、今日はガンガン飲もう!」


 そう言って祐希はビールを飲み干し張り切っていた。

 ムードメーカーの祐希が場を盛り上げてくれ実に楽しい飲み会になった。そして、終わりも近くなり始めた頃祐希からこんな話しをしてきた。


「そうそう、私が沼倉君に莉奈のこと紹介したいと思ったのは理由があってさ。スゴイ似ているの2人とも」


 そう言ってきた。

 確かに口数も少ないし、表情も豊かではない。酒も好きだしタバコも好きだ。似ているといえば似ているがなんか違う気もした。

 そして、薄ら笑みを浮かべ雨宮さんがこんな事を言ってきた。


「祐希から君の話を聞いて凄く驚いたの。もしかして運命の人かなと感じた」


 僕は呆気に取られた。こんな美少女に好かれる理由があるのだろうか。もしかしたらこの人もロックな事が好きなのだろうか。そんなことを考えていた。だが、次の言葉でそれが理由では無いことをハッキリと確信した。


「ねぇ、君早死にしたいんでしょ? だったら私と一緒に死なない?」


 そんな衝撃的な発言を受けて最初は驚いた。だがそう笑みを浮かべ言った雨宮さんに僕はなぜか見蕩れたのだった。

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