第160話 もどかしい西園寺刹那

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 夜、西園寺家のあるタワーマンションの前


 御影駅近くにある巨大タワーマンションにやってきた。あの件以来、今まで授業はひがしむら珈琲店でやってきたのだが、今回はゆきなちゃんの家でやることにした。なぜかというと、ほら、昨日あんなことがあったし、今日も多分あいつら働いているはずだから、鉢合わせると色々気まずいし。


 と、いうわけで、昨日ゆきなちゃんに連絡を入れ、俺は今この巨大なタワーマンションの前にいる。

 

 毎度思うことなのだが、この大きな建物を見ると、西園寺家の人たちと俺でどれだけ住む次元が違うかが如実に伝わってくる。

 

 俺がボーッとしていると、誰かさんが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「お兄ちゃん!」


 馴染みのある声。そう。ゆきなちゃんである。そして隣にはもう一人が立っていた。刹那である。


 寒暖の差が激しい季節ゆえに、あの二人の服装はいつもとは若干違った。簡単にいうと、二人とも秋服を着ている。


 ゆきなちゃんは秋仕様の黒と白を基調としたキッズワンピースを身に纏っていて、刹那はチェック柄の長いスカートを履き、白いニットを着ている。


 これは個人的見解に過ぎないんだが、ニットって妙に胸を強調させてくれるんだよね?まあ、刹那の胸が大きいからそう見えてるだけかもしれないけどね。これを本人に直接伝えると、ボロクソ言われそうだからやめておこう。


 俺はあの二人に手を振って挨拶してから、足を運んだ。


「お兄ちゃん!こんばんは」


「お、お兄さん、お仕事お疲れ様です」


「お、おう」


 やっぱりお兄さんっていう呼び方は恥ずかしい。


 この前の別荘で、俺と刹那は関係の再定義を行なった。その結果、俺たちは血は繋がってないけど、兄妹に近い関係になり、刹那は俺のことを「お兄さん」とか「悠太お兄さん」って呼ぶようになって、俺の彼女への呼び方は「西園寺」から「刹那」に変わった。


 ちょっと気恥ずかしいけど、あんな女優クラスの子からお兄さんって呼ばれるのは悪い気はしない。


 あれ、そういえば、ゆきなちゃんも俺のこと「お兄ちゃん」って呼んでいるから実質妹が二人いるようなもんじゃないか?


 みたいなことを考えていると、ゆきなちゃんは、にっこりと笑いながら口を開く。


「私、また成績上がった」


「おお、そうか。えらいね」


 俺はゆきなちゃんの頭をなでなでしてあげた。この柔らかい黒髪の触り心地はあまりにも良過ぎて、一日中ずっと触っていたいくらいだ。ゆきなちゃんは俺から頭を撫でられると、目を閉じて体の力を抜く傾向がある。そこが可愛いっちゃ可愛んだけど。


 刹那は俺とゆきなちゃんを意味深な顔で眺めているけど、やりすぎるとよくないよね?別にすり減ったりしないが、誰かが自分の妹を触る光景を見たら心穏やかではいられないはず。


 俺は手の動きを止めて、刹那を恐る恐る見てみる。すると、刹那はどこかもどかしそうに唇を噛みしめてから、突然笑顔を作る。そして口を開いた。


「今お母さんが晩御飯作っているので、家で一緒に食べましょう!」


「う、うん」


 五十嵐京子さんも家にいるのか。


 俺はこの間、西園寺夫婦の前で取り乱してしまった。おじさんがいきなり俺の過去のことを言い出すものだから、戸惑ってしまい、大声で叫んでしまった。


 だから、今のタイミングで、西園寺京子さんに会うのはいささか恥ずかしいものがある。だけど、ご飯を作ってくれているわけだし、好意を無碍むげにするわけにはいくまい。


 誰かが作ってくれたご飯。俺のお母さんは料理なんかしたこともなく、ずっとスーパーのタイムセールで買った弁当しかくれなかったのに。


 まあ、人間誰しも個人差というものがあるわけで、別に暗い俺の家庭環境のことを思い浮かべてもしょうがない。


 俺は気を取り直すための咳払いをしてから、二人に言う。


「行こうか」


「うん!」


「はい!」


 俺はたちは、この巨大なタワーマンションへと入って行った。






追記


 この小説を読んで疑問点や感想などがございましたら、気軽に書いてください。できる限り早く返信します。


 コミュニケーションを取りながら物語を紡いで行くのもいいと思います。

 

 コメントがないと一人で書きますが、ははは

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