仲直りの兆し?
第126話 時の流れは時として優しい
X X X
13日後の水曜日。西園寺家のあるタワーマンション
時間というのは極めて
だが、俺はこの冷酷さは優しさの裏返しだと思う。
人々は口をそろって、過ぎ去った過去を思い返しては、「ああ、あの時はよかったな」とか「ああ、あの頃にまた戻りたい」とか抜かして、
詰まるところ、彼ら彼女らは自分の過ぎ去りし日々を美化し、一つの美談や格好いいストーリーに仕立て上げるのだ。
だが、彼ら彼女らが実際にタイムマシンに乗って、幼い自分らの姿を見たら、どう反応するのだろう。
懐かしむか、それとも思ったのとは違う
後者の方が圧倒的に多いと思う。
かくいう俺も黒歴史満載のはぐれもの。過去は思い返すだけ無駄で、永遠に
ただただ自分に言い聞かせて、理屈をこねくり回して、
つまり、時間は俺にとっては実に優しい。俺がいじめられて、殴られても時は流れ、今こうやって虐められない
背伸びせずに、この日常を噛み締めよう。
いつ奪われるかわからないから。
そんなことを思いながら、俺は西園寺家のあるでかいタワーマンションに来ている。
時刻は17時30分。
本当にあっという間に、時間が過ぎたと思う。依然として青山夏帆は俺にちょっかい出しまくりだし、五十嵐麗奈もたまに電話をかけては、俺にボロクソ言いまくりだ。だが、一つ変わった点がある。
「ゆきなちゃん」
俺は無意識のうちにあの子の名前を口走ってしまった。
『お兄ちゃん!そのうちわからせてやるかなね!』
二週間前にゆきなちゃんがこの言葉を発してから、態度が180度変わった。きっと駄々こねて俺をもっと困らせるのではと考えたが、真逆の行動をする。つまり、めっちゃ大人しい。
あの日から今日まで、五十嵐麗奈が働くひがしむら珈琲店で、ずっと授業をしてきたのだが、物音立てずに上品なお嬢様のように振る舞っていた。
そしてもう一つ気になる点がある。
ゆきなちゃんの小テストの点数。
昨日ゆきなちゃんはラインで、連絡してきた。
『お兄ちゃん、小テストの結果出たから明日うちきて。お父さんとお母さんがお兄ちゃんと話がしたいって』
テストの点数はラインで教えてくれればいいものを。わざと俺に教えないことで自分の家に誘き寄せようというのか。
まあ、あまり深入りはしない方が良かろう。
現に、俺はゆきなちゃんの家庭教師をしてから一ヶ月が過ぎている。中間報告がてら、ゆきなちゃんの両親には顔を出しておいた方が真っ当な対応だ。
それにして、ゆきなちゃんの両親は俺になにを話すつもりだろう。ちょっと不安になってくるんだが、行って直接確かめるしかない。
今日も授業はあるが、西園寺夫婦との面談もあるから、結構忙しくなりそうだ。
「お兄ちゃん!」
俺が色々考えていると、聴き慣れた声が耳をくすぐる。
「こんばんは」
「こんばんはお兄ちゃん!」
今日のゆきなちゃんは珍しくハイテンションだ。今まで過ごした二週間と比べたら大違いだ。
「今日はなんか嬉しいことでもあったのか?」
「ええ?そう見える?」
「うん。めっちゃ嬉しそうだぞ」
ゆきなちゅんは俺に言われて、顔の筋肉を使って笑顔を消そうとするが、うまくいかないらしく、また笑出した。
おお。可愛い。
それから照れ臭そうに後ろ髪を引っ掻きながら言う。
「へへ。もうすぐわかるよ」
「そっか」
ゆきなちゃんの反応を見て俺は不覚にも安堵のため息が漏れ出た。
いい成績、出たみたいだな。よかった。
だが、今は成績のことは口に出さないでおこう。そんな無粋な真似はしたくない。
この感情はサンタがこの世にいないということを子供に内緒にする大人の気持ちに似ているように思える。
しかし、成績だけなのか?もっと違う何かがあるように感じられるのだが。
俺の思い過ごしだったらいいけど。
俺とゆきなちゃんは並んで
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