回答編 ちょい長版/みんなの人気者


「キミの欲しいはコレだろ?」

ぼくはそう言って、ポケットから右手を出した。

ぼくの右手をひと目見るなり、とりちゃんは「うっ」と言葉を詰まらせ、頬を染める。


「悪い子だね、キミは。

おねだりもたいがいにしないと」




その言葉を合図に、ぼくの右手指が一本一本、妖しく踊り出す。

見ればもう、とりちゃんはその場にへたり込んでいた。

まったく……、

ぼくのフィンガーテクニックにイカされちゃう子たちがこんなに多いだなんて、さすがにぼくにも想定外だった。

でも、その中でもキミは、やっぱり特別に可愛いよ。

よく見ておいで。今だけはキミのためだけに、特別にこの右手を動かそう。






















アンパンマン、バイキンマン、ドキンちゃん、メロンパンナ、ジャムおじさん。

親指から順に並ぶ指人形を、ぼくは滑らかに操る。


「今日はどの子で遊びたいのかな?」


「き、ききき今日は……、♡!」



いくら初めてのひとり暮らし、しかもコロナ下でひととの接触が限りなく制限されているからと言って、若い子たち、特に女の子たちがこんなに情緒不安定になるとは人事部の連中も思っていなかったらしい。

おかげで新人メンターを務めるこのぼくのところに思いっきりしわ寄せがきてるって寸法だ。指人形を操っての人形劇で、赤ちゃん返りする彼女たちの相手を毎日毎日、務めるのもラクじゃない。なんならEテレにでも連載番組を作ってもらって、ぼくの休みを確保できるようにしてもらいたいくらいだ。

それにいいかげん、ネタも尽きかけている。

それでもとりちゃんは特別だ。新人ちゃんたちはやれポケモンだ、妖怪ウォッチだと浮気したがるけれど、アンパンマン一筋なのはとりちゃんだけだから。ぼくにとっては妖怪ウォッチもポケモンも、ビミョーに下の世代の番組なんだよなあ。


とにかくこれ以上ぼくに新人ちゃんたちのお相手をさせるつもりなら、せめて「アンパンマンミュージアム」への取材を認めて、経費で落としてもらいたいものだ。できればとりちゃんとの二人分。

もちろん休日出勤として、特別手当も忘れないでほしい。

経理課の皆さん、どうかよろしく。






「あんぱんまん」ANPANMAN オープニング

https://www.youtube.com/watch?v=Ha8OJDBWk7Q

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