第28話 侵入する文字たち
その位置は本人が目視で確認することはできない。
画面の様子から
slow……、down……、heavy……、cut。
ここから、ぱっと見で分かるのはこんなところだけど、何か長い単語もあった。
要するに女都羅さんを弱体化させるためのものが表れているんだと思う。
これは
カードなんかで魔法を使うときに用いる、魔力を含んだ特殊なインクだから、薄まることなく女都羅さんの身体に付着したんだ。
わざわざ熱湯にしたのは、水分を素早く蒸発させるためじゃないかな。
あの時、下にほむらちゃんがいたし、文字を
行動だけ見れば、嫌がらせみたいなかんじだったけど。
──そして、ひと通り表れた文字は効果を発揮していく。
「ぐううっ……」
「ううぅっ……」
ほむらちゃんのの炎、聖名夜ちゃんの魔力が、徐々に女都羅さんの結界を押し返していく。
「!?」
出力を上げているはずなのに、結界が二人を
あらためて力を込めるけど、変化は求めるものとは逆だった。
「はあっ!」
かけ声とともに、ほむらちゃんは炎の力を瞬間的に強めて、女都羅さんの結界を破った。
前後に吹くような炎で開けられた大穴から、ほむらちゃん、聖名夜ちゃんは跳び出して脱出。
前回りで受け身を取ると、二人は攻勢にでた。
ブオオォ──! ブオオォ──! ブオオォ──!
女都羅さんの前に次々と張られていく炎の幕。
それは二メートル四方くらいの大きさをして、右から左から不規則に展開。
二人は姿を隠しながら近づいていく。
「ぬう」
合掌ポーズを解き、女都羅さんは右手に魔力を込めて爪を立てるようにすると、それを横へ振った。
巨大な爪撃は炎の幕を全て引き裂いたけど、炎自体を消し去ったわけじゃないし、幕の進行は止まらない。
「むん」
二枚の幕へ左肩から体当たりするように大きく跳んで避ける女都羅さん。
ズザーッと両足を滑らせながら体勢を整える。
「女都羅! 背中に文字がある。呪いだ!」
「!」
移動したことで見えた英単語を指摘する鉄摩さん。
それを受けて、女都羅さんは納得の顔をした。
ここでネタバレね。
私の中では呪いというより、、コンピューターウィルスのイメージだったけど。
すると、女都羅さん。
左腕を形作っている漢字を体内へ吸うように引っ込めた。
物理的に左手を使うことはできなくなったけど、そのかわり、漢字を変換して打ち消すつもりなんだわ。
でも、それを待っている理由がない。
炎の幕は同じようにして女都羅さんに迫っていく。
「むう……?」
再び狼羅ちゃんの技を繰り出そうとするけど、その右手には思ったよりも魔力が集まらない。
不十分な大狼の爪を放ちつつ、右へ跳んで回避する女都羅さん。
そしてまた、ズザーッと滑りながら体勢を整えようとしたけど、今度はそのまま両膝をついた。
「な、に……」
魔力だけでなく、身体も満足に動かせなくなっているんだ。
女都羅さんのなかでは聖名夜ちゃんの魔法を撃ち消そうとしているんだろうけど、すでに深いところまで進行しているから間に合ってない。
しかも英単語は増殖して女都羅さんの身体を覆っていき、海外仕様の耳なし芳一みたいになった。
「ぬ、ぬぬ……」
ものすごく身体が重い感じで立ち上がろうとする女都羅さん。
だけど──。
「は……」
胸元にある
それは床に落ちて転がると、一瞬、パッと光って雷羅ちゃん本人が現れた。
目を閉じて倒れたままだから、気を失っているんだと思う。
そして、女都羅さんのショートポニーから伸びている
といことは、雷羅ちゃんのパワーと技が使えなくなったってことね。
一段と有利に、と思ったら、これをきっかけにして、水晶たちは続いて女都羅さんから離れていった。
「くっ……」
それを押さえようとするけど、水晶は右手からこぼれた。
それぞれ、床を転がっていった先で身体を現わしていく。
雷羅ちゃん同様、利羅ちゃん、狼羅ちゃんも倒れたままだけど、負傷していたことが関係しているのかな。
布面積が少なめの、薄い緑色をした医療用パジャマってかんじのを着ている。
伶羅ちゃんはマーチング衣装で、瑠羅ちゃんがセーラー服なのは変わってない。
この二人は気がついて、頭を押さえながら起き上がった。
「えっと、何事ですの、これは?」
びっくりして言う伶羅ちゃん。
ああ、状況が分かってないもんね。
女都羅さんだって初見だろうし。
で、その女都羅さんなんだけど、左膝を床につけ右手で胸元を押さえたままの姿で止まってる。
光髪も無くなって元の黒髪だけだし、その目は力強く開いているけど、視線が定まっていない。
五人全員が抜け出たことで、エネルギー源がなくなって、停止したんだ。
予備のエネルギーはないようで、再起動する気配もないから、女都羅さんがこれ以上戦うことはない。
つまり、ほむらちゃん、聖名夜ちゃんの勝利だ!
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