第19話 量産の子たち

 必殺技を決めたとかではなく、伶羅レイラちゃんが聖名夜みなよちゃんに勝ちを言ったから、それでいちおうの決着はついた。


 まあ、私の考えではパフォーマンスを批判するように言って、伶羅ちゃんを怒らせるなり動揺させて、魔法が乱れた隙をつくことができればいいかなぐらいだった。


 でも、一気に勝利したから結果オーライ。


 伶羅ちゃんの金髪から伸びていた光の髪も消えたから、もう終わりで間違いないと思う。


 相変わらず、それがどんな効果になっているのか分からないけど。


「それじゃあ、通してもらうわよ」


 少し素っ気なく言う聖名夜ちゃん。


「はい。どうぞお通りください」


 頭を下げたまま答える伶羅ちゃん。


 なんかクレームをつけた客と店員みたい。


 いちおう、そういうていで魔法を打ち破ったから、雰囲気的にそれが続いているのかも。


「……」


 聖名夜ちゃんは警戒しながらも、あの子が通ったドアへ向かった。


 引っ掛かりましたね、なんて罠がある展開もあり得るからね。


 球体の反応から、その方向で間違いない。


 距離は百メートルくらいあって、一直線に逃げてるかんじ。


 立ち止まる様子がないわね。


 あらためて考えると、この研究所って、どのくらい広いのかしら。


 土地を必要としないで、空間を拡張させればいいから、どんどん大きくなっていったのかな。


 いずれにしろ、あの子を追わなければならない。


 むむ。


 ほむらちゃんは、少しずつ前進している。


 あのマネキンみたいな子たちを相手にしていたときよりも遅い。


 何かあったのかな。


 静かにドアを開ける聖名夜ちゃん。


 そこはいままで通ってきた通路とほぼ同じものがあった。


 おそらく、進んでいくうちに何かしらの妨害があるんだろうけど、聖名夜ちゃんなら大丈夫。


 ちょっと様子を見てくるね。




 ──私は意識をほむらちゃんの球体へ移動した。




 と、ここは……、通路。


 聖名夜ちゃんのところと広さは変わりないわね。


 ……!


 あ、あれ、ほむらちゃんの前に利羅リラちゃんと狼羅ロウラちゃんがいる!


 それだけじゃない。


 利羅ちゃんは二人だ。


 その真ん中に狼羅ちゃんがいるけど、何、その二人は利羅ちゃんの分身?


 いや、ちょっと待って。


 容姿や服装は一緒だけど、いろいろ違う。


 まず服の色。


 戦った時は黒の和装だった利羅ちゃんだったけど、二人は水色になっている。


 狼羅ちゃんもそうだ。


 革製のジャケットやデニムパンツ、スニーカーなんかが水色になっている。


 そのせいかな、なんか新人っていう感じがする。


 そして、利羅ちゃんのポニーテールや、狼羅ちゃんの襟足から、光の髪が伸びていない。


「こいよ、こいつらみたいにブッ飛ばしてやるぜ」


 挑発するように言うほむらちゃん。


 こいつら?


 ……。


 !?


 ほむらちゃんの後ろに、水色の利羅ちゃん狼羅ちゃんがたくさん倒れてる!


 折り重なったりもしているけど、だいたい八人ぐらい。


 全員、ほむらちゃんがやっつけたのよね。


 どういうこと?


 分身ではなさそう。


 一人一人に個体としての存在感を感じる。


 ……。


 もしかして……、量産型?


 ニニちゃんのことがあったし、利羅ちゃんとかにも、そういったものがあっておかしくない。


「おらーっ!」


 かけ声とともに、正面の狼羅ちゃんが飛び出してきた。


 五メートルはあった距離を一気に縮め、魔力を伴った右拳を放つ──。


 グルン。


 ドターン。


 ズム。


 ボッ。


「ぐっ……」


 ほむらちゃんは向かってくる右拳の勢いを利用して投げ、仰向けになった狼羅ちゃんのお腹を踏みつけると、そこから不動明王の炎をとおして、意識を奪った。


「てえええい!」


「うおおおー!」


 すると、二人の利羅ちゃんが刀を構えたまま、走り込んできた。


 刀身が短く水色がかった半透明の刀。


 向かって右側の利羅ちゃんは上段から、左側の利羅ちゃんは横から斬りつけようと迫る。


 ほむらちゃんは右手を振って、直径五十センチくらいの火球を放つと、それは上段の利羅ちゃんに直撃。


「うっ……」


 バレーボールの強烈なスパイクを受けたかんじで、上段構えの利羅ちゃんは吹っ飛ばされ背中から床に落ちた。


「むん!」


 左側の利羅ちゃんは、そのまま、ほむらちゃんの左側から斬りかかった。


 ぶん、と両手で刀を振った瞬間、ほむらちゃんはしゃがみ込んでその足を払い、宙に浮かせると、利羅ちゃんを持ち上げる柱みたいな炎を出した。


「!」


 天井に背中を激しく打ちつけられ、不動明王の炎も身体を徹って、利羅ちゃんは力なく落下。


 うつ伏せになって意識を失った。


「う、うおおおー!」


 火球を受けた利羅ちゃんは起き上がり、跳びこむのと同時に右手に持った刀を突き出した。


 ほむらちゃんは体移動たいいどうさせながら炎をまとった右手でそれをさばくと、無防備になった右わき腹をキック。


 そのキックから炎が徹って、利羅ちゃんは身体をくの字に曲げながら倒れた。


 無言のまま動かない利羅ちゃん。


 これで全員、やっつけたみたいね。


「……」


 増援が現れるかもしれないと、警戒しながら進むほむらちゃん。


 結構あっさりと戦いを終えたわね。


 コツをつかんだってことなのかな。


 それに、黒の服を着た利羅ちゃんや狼羅ちゃんとだったら、こうはいかなかったと思う。


 だって一つ一つの威力や速さが全然違うからね。


 そして、ほむらちゃんは通路の突き当りにある扉の前に着いた。


 ドアじゃなくて扉ね。


 金庫を連想させるようなかんじの物だから、重々おもおもしく言いたくなっちゃう。


 普通だったら、指紋やパスワードなんかを入力して開けるものなんだろけど──。


「……!」


 ほむらちゃんは右手をグッと握って力を溜めてから、扉に向けてその手を広げると、扉から丸い光が浮かび上がった。


 その光は赤く、炎を噴き上げ、扉を焼き切っていく。


 奥へ奥へと真っ直ぐに侵蝕していくこれは、龍の炎。


 対魔法処理されていてもこれなら関係ない。


 それにほんの少しで、手に触れているわけじゃないから、ほむらちゃんも大丈夫。


 貫通し、焼き切られた扉は、炎に引っ張られ滑るようにしてこっちに倒れた。


 それを見越してほむらちゃんは壁際に寄って避けたから、横から見るかたちなんだけど、かなり厚いわね。


 一メートルはあるんじゃないかな。


 金属製なのは分かるけど、何という金属かまでは分からない。


 そして、直径一・五メートルほどの穴が空いた扉を通るほむらちゃん。


「──来たか」


 中には鉄摩テツマさんがいた。

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