本当の姿
オレは毎日毎日そこに通った。雨の日も風の日も雪の日も。
何一つ飽きる事は無かった。プチ達と暮らしながら学んだ自然の事は沢山ある。ここにいる時、オレは人間である事は忘れていた。自然界は自由なようで沢山の
一番注意されたのは、人間を怖がらせてはいけないという事だった。それをしてしまうと自分達は絶滅する事になると厳しく注意された。この場所に人間がやってくる事は滅多に無いけれど、自分達が遠くに出掛ける時は人間に出くわす事がある。人間に危害を加える事は勿論、人間には見つからないように、気配を感じたらまず隠れる事を教わった。オレは自分の家族以外には誰にも会わないように注意した。
森には沢山の生き物がいる。色んな動物、色んな植物、川とか石とか土とか命が無さそうに見える物も、皆んな一緒に生きている。
そんな生き物達と一緒に仲良く暮らしているという感じではない。だけどそれぞれの生き物は領域みたいな物を持っていて、互いにそこに踏み入る事は許されない。
自分達が生きる為に、生命を奪い合う。けれど、奪い方にも決まりはあって、その種を絶滅させるような事はしない。
美味しい木の実があって、それを全部食べようとしたらプチに怒られた。山菜を取る時にも先っぽだけをかじるように習った。
植物と動物はみんな自然と助け合って生きている。強く結ばれているのはスミレとアリ。シロツメクサとミツバチ。クルミとリスなどなど。ミミズは土を耕し、ホシガラスはマツボックリをセッセと運んで森を作る。オレ達も木の実を食べてフンをして種を運んだりしている。ネズミやウサギやシカを食べる事でそいつらが増えすぎる事もない。考えなくったって本当に上手く出来ている。
ここに生きる物達みんなが合わさって、地球という一つの生命体を作っているという感じだ。
家に帰ってから毎日そんな絵を一枚だけ描いて家族に見せ、言葉を教えてもらう事も楽しかった。言葉は話せるようにならなかったけれど、絵は少しずつ上達していった。そして十歳頃には、人から聞こえる音から何かを感じるだけじゃなくて、言ってる事がほんの少し理解出来るようになっていた。
その頃には、家に帰らずに何日か森の中で過ごす事も容認されるようになっていた。
初めてここで朝の誕生を迎えた時の事は忘れられない。ここに生きる物達みんなが朝の誕生を喜び、感謝の気持ちを
真っ暗な夜も素晴らしかった。夜の主役は輝く沢山の星達。手を伸ばせば届きそうな、それでいていくら手を伸ばしても届かなそうな。見ている間に、音も無くいくつかの星が流れていった。どこかでフクロウが鳴いていた。
満月に向かって皆んなで遠吠えをした時、オレは生きてるんだと強く感じた。心の底からこれまで出した事のない声が出た。何を思う事も無く、ただただ空に向かって歌った。仲間達の歌声が反響する。そしてこの時悟った。オレ達は犬ではなくてオオカミだったんだと。
数年のうちにプチは何回か子供を産み、その中にプチと同じ青い目を持つ子がいつも一頭だけいたけれど、そのどれもが幼いうちに命を落としていた。たいていは身体が弱く、強い子も大きな獣に狙われやすかったようだ。
その頃から島の人間達に、ある噂話が広まり始めていた。絶滅したはずのオオカミがこの島にいるかもしれない、白いオオカミのような物を目撃した、獣の青い目と目が合った、というような物だった。それでもこの島の人達は、何も被害が起こらなければそっとしておこうじゃないかと、捕獲する事などは考えなかった。オレ達は一日一日が生きる為の戦いである事に変わりなかったが、人間が侵入しなかったおかげで、平穏な日々を送る事が出来ていた。
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