#19 龍と蘇生

※途中で少しグロい表現があります。苦手な方はご注意ください。


 時は少し戻って、葵と別れたラーシャが馬車へと駆け寄る。気持ちをしっかりと切り替えられているのは冒険者としての矜持だろうか。


「大丈夫ですか?」


「近寄るな!」


 馬車を守っていた騎士の一人がそう声を荒らげた。声に反応してラーシャの肩がびくっと振るえる。


「この馬車にはやんごとなきお方が乗っておられる。よって、君たちを馬車に近づけることはできない。心配してくれたのはありがたいがそれ以上近づかないでくれ」


「では、怪我をされた方はいませんか?私は回復魔法が使えるので重症の方から診せてください」


「それは助かる。ポーションは使い切ってしまったし、回復できる者もいなくて困っていたんだ。まあ、もう手遅れな者もいるがそれについては運がなかったとあきらめるしかないな。―――皆、聞いていたな。怪我をした者は彼女のところに行って治してもらうように」


 騎士は他の騎士に指示を出してから周囲の警戒へと戻る。だがその表情は最初とは違い悲哀をはらんでいた。


「治療を受けるのはあなたもだよ、隊長さん」


 そんな彼にレナが話しかける。レナは先ほどの騒動の裏で人化している。騎士は怪訝そうに返事を返す。


「私はどこもけがをしていないが?」


「そうなの?じゃあ、右足に体重をかけていないのはなんで?多分だけどあなたは右の足首をひねってしまったんじゃない?だけど、上に立つ自分がけがをした姿を下に見せるのはまずいと考えて必死に隠してるってとこかな。でもね、そうして我慢してこの先に進むっていうのは護衛の任務を放棄しているってことに他ならないんじゃないかな」


「なんだと。そもそも君に何が分かるんだ」


 騎士は一段と低い声でレナを睨む。


「あなたが何を考えているのかはわからない。だけど何かあったとき、そんな状態でまともに動けるとは思えないんだよね。有事にまともに動けないんじゃあ、職務放棄って言われても仕方ないんじゃない?」


 負けじと騎士を見ながらレナが反論する。少しの間、お互いに冷たい空気が流れてたがそれほど長くは続かなかった。


「ふっ、君の言う通りだな。私も治療を受けることにしよう」


 騎士が折れ、レナもその雰囲気を緩める。


「レナさん、亡くなってしまった方を蘇生することはできないんですか」


 そんな時、ラーシャが微妙な空気を変えるために話を逸らす。


「できないことはないんだけど、聖魔法における蘇生魔法って既死者アンデット化みたいなものなんだよね。それに膨大な量の魔力を消費するから使いたくないね」


「まあ、場合によっては回復魔法だけで蘇生することも可能だけどね」


「えっ」


 急に現れた声の主に思わず一同がそちらを向く。そこには純白の羽を羽ばたかさせ着陸する葵の姿があった。


―――*―――*―――


 黒竜と別れてからすぐ。僕は馬車が襲われていた場所の上空まで戻ってきた。下を見るとレナと騎士がにらみ合っているところだった。心配になった僕はすぐに降下しはじめる。


「―――いんですか?」


みんなの話声が聞こえる。何について話しているのだろうか。というか一応鑑定をかけたら馬車の中、三人とも気絶しているんですけど・・・ほっておいていいんですかね?


「できないことはないんだけど、聖魔法における蘇生魔法って既死者アンデット化みたいなものなんだよね。それに膨大な量の魔力を消費するから使いたくないね」


 ああ、死者が出てしまったのか。それで蘇生できるのか聞いた、と。

―――うーん。レナの言っていることはあってはいるんだけど、それだけじゃ正しいとは言えないな。


《再度鑑定、心肺停止状態の継続時間を表示》

0:1:52


―――っ。やばい!時間がない。急いで回復魔法の準備を。こういう時にWOS経由で高速思考ができるのは助かる。ああ、レナの間違いも訂正しておかないとか。


「まあ、場合によっては回復魔法だけで蘇生することも可能だけどね」


「えっ」


「ほら、ね」


 そう言いながら倒れていた人たちを指さす。その先では不思議な光景が広がっていた。黒竜の爪で引っ掻かれ裂けてしまっていた腹の血管がうねうねと動いて自らつながっていく。それが終わると心臓が動き出し、今度は内臓が逆再生でも見ているかのように元に戻っていく。最後にむき出しだった所が皮膚に覆われれば蘇生、治療は完了である。

 僕は近づき脈をとる。


「脈拍、正常。呼吸・・・も正常。疲労で寝ているだけだね。しばらくは寝かせておいてあげようか」


「お兄ちゃーん!」


「うおっ」


 僕が立ち上がったところにレナがすごい勢いで突っ込んでくる。よく見るとその体は震えていた。いくら無事に帰ってくると信じていても残される方は心配で、自分だけ残されてしまうかもしれないという不安に駆られたのだろう。なら僕のすることはたった一つである。


「ただいま、レナ」


そう言ってレナの体を抱き上げる。抱き上げられて僕の方を見たレナは満面の笑みでこういった。


「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

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