第365話 2015年8月 10
そうなんだ……
これが俺なんだ。
目の前の、俺を拒む様に、小走りで、人混みをかき分けて、俺から少しでも遠くに離れようとしている彼女の本当の気もちに、彼女のここに来た本心に、俺はどれほど寄り添っていたのだろうか?
彼女は、俺に、俺との約束を果たすため……
だけに……
ここまで来たのか?
……来たのか?
本当に……
そうなのか?
知っている土地とはいえ、たかだか2年生活しただけの、他に知り合いも、親戚もいないこの日本の東北の南の小さな港町に、ここにわざわざ、俺との、小学生だった、自分が言った“約束”を果たすだけの為に、彼女はここまで来たって言うのか?
そんなはずは……
ない……
子供だ。
小学生の子供だ。
そんな子がした約束を果たす為だけに、交換留学生として、わざわざ、来た……って言うのなら、それは……そうだというのであれば……あまりにも……俺は……間が抜けていた。
あまりにも……
彼女を見てなさ過ぎた……
その為だけだというのなら、あまりにも手間暇がかかりすぎている。
その為だけというのなら、あまりにも、生真面目すぎる。
その為だけというには……
動機が……
弱すぎる……
あまりにも俺は、彼女を、周囲の花火客の女性とそん色のないお嬢さんを俺は……
5年前と変わらない。子供と同じ扱いをしてしまっていた。
あまりにも……
自分に自信が無くて……
道行く、まったくの他人の視線を気にしすぎて、自分の中の、勝手に作り上げた、子供のリリィさんとの関係を壊して……
一人の女性としてのリリィさんとの関係に一歩踏み出すことが怖くて……
また、失う事が怖すぎて……
俺は、勝手に彼女を理想の子供として……
勝手に恋愛の対象から……
外していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます