第354話 2015年5月 35

そうなんだ、俺はずっと誰かを待っていた。


子供の時は母さんを待っていた。

でも、母さんは帰ってくることは無かった。


大人になった俺は、リリィさんをこの防波堤の先端で待っていた。


もう、来ないだろう、母さんの様に、待ち焦がれても、それは、儚い夢で終わるのだろうと……待つことで、むしろ、来ないんじゃないかと、俺の経験から、待ってはいけないんじゃないかと、あきらめかけていた時にリリィさんは現れた。


約束通り、俺の前に……

帰ってきてくれた。


それは、あの地震の、原発の騒動から、まる4年が過ぎた後の、春が過ぎ去り、夏の気配が少し感じられるようになった、5月の半ばのもうじき陽が沈みそうな、穏やかな凪いだ海が広がる、いつもの防波堤の先端だった。

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