第338話 2015年5月 19

気を取り直して、


「こっちに帰ってきたの?」


「……はい」


「そう……」


え~っと、どうしよう……

呼び止めては見たものの、会話が膨らむ様子も、一向に相手が話す気配もなく、むしろ、どちらかと言えば、分かりやすく迷惑顔をこちらに向けている。


……そんなに嫌いか……

嫌われたもんだぜ……

身に覚えがないかと言えば、嘘になるけれど、それにしても、もう少し、愛想笑いぐらい……するわけないか……


「ごめんね……ちょっと……懐かしくて、話しかけちゃった……てへっ……」


マズイ、ここはおどけてフェードアウトだ。


おっと!

私は困ると髪を触る癖がある。

またやっていたか……


「陽葵……」


呼び捨てかよ……


「なに?」


「それ……」


え?

篠塚さんが、私の頭の上にある手を指している。


「え? 何?」


「その指輪……」


ああ……

私の左手薬指に光るそれを、婚約指輪を見て、驚いた表情をしている。


そんな?

そんな驚く?

そんなに結婚しそうも無かった?


「そう……今度ね、結婚する事になったの!」


「え?……」


どうした?

俯いたまま、動かなくなった篠塚さんに、


「相手誰だと思う?

篠塚さんもよく知ってる人よ!!」


あれ?

もの凄い驚いた顔を私に見せ、くるっと反対方向に背を向けてダッシュして、次の句を継ぎ暇なく消えていった……


いや、ちょっと待て、ああ、篠塚さんは知らないか。

その次の学校で知り合ったんだもんな。


てへっ!

私のおっちょこちょい!!

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