第296話 奪われた日常16

「けんたろー!! そこに神社があるの! そこならすぐだって!!」


神社……


………………


ああ!


波留なみどめ神社か!!


右手に折れて100mの行き止まり……


そこか……

確か……

春に美琴さんを迎えに来た時に、俺も見ていた神社だ。急峻な崖に着いた階段があって…………


何より、既に、神社の名前が……

先人の残した、メッセージ……


そこには…………


そこでは…………


波が止まる……


その上は安全……


俺は、早速、もう一度、アパートの二階へと駆けあがり、波の様子を見た。


変わらない…………

遠く、港の方も、波が、引き波が起きている様子も無い……


行けるのか?

行っていいのか?


黒く淀む水面が見える。

今は全く動きのない湖水の様な水面……


でも……


引き潮にのまれたら……

絶対に……

あんな、ゴムボートじゃ……


ひとたまりも無い……


勢いよく、ゴムボートを探した俺だったけど、あっという間に、俺の背後に忍び寄った津波の力の現実を思い知れば……


そこに、漕ぎ出すなんて……

怖くて出来ないし、悪手中の悪手なんじゃないのか?

そんな思いが思考を支配する。


遠く響くサイレンの音、デカイ余震で建物が発するドデカい打楽器の様な音、時折、遠くの、西に見える阿武隈の山並みから強い風にあおられて飛んでくる雪……


強い北風は、俺の心の中で、人生を掛けてサイコロを振る恐怖で固まって、身動きが取れなくなって、追い打ちをかけていた。

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