第106話 リリィさんの不登校4

俺は彼女の前に座り直し、膝の前に強く握りしめている手を上から握って、


「リリィさん……リリィさんが学校に行かない、いや、行けない理由は……お母さん……なんだね」


蹲って泣いていたリリィさんは上体を起こし、泣き顔を俺に見せたまま、


「何? 何言ってるの?


けんたろー! 


私は!


自分の意志で!!


行かないって!!


言ったでしょう!!」


怒声……

リリィさんの声が強風の砂浜に響いている---


リリィさんが見た事も無い鬼気迫る表情で俺に詰め寄って、大きな声を上げている。


強い風が、海から吹き付ける砂浜の風の音だけが響く、そんな二人の間でさえ、一時、風の音を忘れるくらいにそれは……


リリィさんの強烈な音圧と鳴きながら訴える表情に俺は一瞬、たじろいだ。


でも、俺も、今日は本気だ。


「リリィさん!! 聞いて!! …………」


俺は、そのリリィさんのいつもとあまりにも違う俺への接し方、色を無くした瞳、とめどなくあふれる大粒の涙……俺に向ける彼女の裸の感情……


俺も彼女の拒絶の意思を砕くくらいの、強い気持ちを、強い思いをぶつける必要があった。


だから、俺も気持ちをぶつけるつもり……だ。


そんなに苦しかったのか……

君はそんなにも大人に絶望していたのか……


俺にはリリィさんの泣き叫ぶ声は聞こえていなかった。波の音も風の音も届かなくなった。


只々、静かに俺の周りの風景が鮮やかに見えて、目の前のリリィさんの絶望を取り除いてあげたくて、これからの希望を大切な小さな友にあげたくて、そのタイミングを計る事に集中して、強い海風の音も、リリィさんの鳴き声も……


余計な雑音など無いものの様に思えていた。

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