第30話 追憶4

 街は、煌びやかだった。俺の家のあった大通りは全くの暗闇だったが、隣のブロックの奥へと進むと派手なネオンに彩られた店が軒を並べ、時折、人が往来して、明らかに家の周りとは違う空間を見せていた。


その店には、おじさんやおばさんが店の入口に立っていた。

そこの通りの客層から、明らかに浮いた、小学生の男の子が22時過ぎに、パジャマで、雨模様の中、傘もささずに歩いている事に違和感を持っていたのだろう。俺はその通りを歩いているだけで、声を大分かけられたがおれはその度に走って逃げて行った。


この街に住んでいれば、その店がどんな店なのかは小学生でも知っていた。俺はそこから走り逃げ、港の方へと歩いて行った。そこは、明かりがついた大型の漁船が朝の出航準備をしていたのかとても明るかったのを覚えている。


どんなに探しても、母さんは見つからなかった。港で途方に暮れていた俺は、周囲を見渡し、可能性を子供なりに推理した。


よく家族で行った防波堤。

港の南側にある防波堤に向かって走った。


あそこで、一緒に魚釣りした、一緒に笑い合った。母さんと父さんと笑い合ったあの防波堤の先端を俺は目指した。恐らく1kmほどあるだろう。

随分とパジャマが濡れていた。

出来る限り走っているが、それでも、その防波堤には、なかなかたどり着けなかった。子供の脚だ限界がある。

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