第26話 朝起きて
カーテンを突き抜けて差す光に、私はゆっくりと目を覚ます。
どうやら、朝が来たようだ。眠ってからは、特に目覚めることもなかった。ぐっすりと安眠できたようである。
「あら……」
目を覚まして一番に見えたのは、イルディンの顔だった。
眠る前は、これ程近くに弟はいなかった。恐らく、眠っている内に、二人の距離が詰まったのだろう。眠っている間にあったことなのでよくわからないが、寝相によってこうなることは別に不思議ではない。
「大丈夫そうね……」
目と鼻の先で眠る弟は、穏やかな顔をしている。恐らく、イルディンも安眠できたのだろう。
そのことに、私は安心する。眠る直前に変なことを言ってしまったため、眠れなくなっていないか心配だったからだ。
「ふう……」
とりあえず、私は一度落ち着くことにした。
今私が動いたら、イルディンを起こしてしまうだろう。朝が来たとはいえ、疲れている彼には満足するまで眠ってもらいたい。そのため、布団から出るのは得策ではないだろう。
それでは、どうするべきか。その答えはただ一つである。私も、もう一度眠るのだ。
正直、眠るのが遅かったため、まだまだ眠たい。幸いにも、今日は特に予定もないので、まだ眠っていても特に問題はないはずである。
そう思い、私はゆっくりと目を瞑った。恐らく、程なくして眠れるだろう。
「うっ……」
眠ろうとしていた私の耳に、小さな呻き声が聞こえてきた。
それは、間違いなく弟の声である。もしかしたら、イルディンも起きたのかもしれない。
二度寝しようと思っていたが、イルディンが起きたならその必要はなくなってしまう。それは、非常に残念である。
だが、仕方ないことだとも思う。二度寝はあまり良くないことだ。諦めて、私も起きるべきだろう。
「え? あがっ……」
そんなことを考えている私に、イルディンのよくわからない声が聞こえてきた。
恐らく、目の前に私の顔があることに驚いたのだろう。もしかしたら、叫ぼうとしていたのかもしれない。大きく声をあげようとして抑えたことが、その声色から推測できる。
確かに、起きて姉の顔がいきなり正面にあったら、驚くかもしれない。だが、大声をあげようとしていたという事実は、普通に傷つく。いくらなんでも、顔を見て声をあげられたくはない。
「驚いた……姉さんの顔が近くに……」
私がまだ眠っていると思ったのか、イルディンはそのようなことを言ってきた。
やはり、私の顔が近くにあったことで、相当驚いているらしい。
「まずい……どうしよう」
イルディンは、かなり焦っているようだ。
もしかして、優しい弟は私に怒られると思っているのかもしれない。
よく考えてみれば、イルディンは寝る前から距離をとってきていた。姉弟であっても、女性には安易に近づかない。そういう気遣いの心があったのではないだろうか。
それで、私に近づいてしまったため、かなり焦っている。そのように解釈できるのではないだろうか。
そう考えれば、大声をあげてしまったことも納得できる。あれは、私に近づいてしまった申し訳なさから出た声なのだ。
根拠はないが、そう思うことにしよう。その方が、私の精神衛生上、絶対にいい。
本当に、イルディンは気遣いができる優しい弟である。私は、勝手にそのように結論付けるのだった。
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