ツバサ杯に向けて

 写真サークルの前期の目標は夏休みに行われるツバサ杯。とにかく副賞にハワイでオフィス加納のプロの指導を受けられるってことで、夢のコンクールにされてるぐらいかな。この辺はオフィスのプロの指導がどれほどトンデモないものか知らないだろうから、しょうがない部分があると思ってる。


 ただレベルは去年から飛躍的に高くなってる。そう学外へもオープン化されちゃったんだよね。今年はその二年目だから、関東からの応募も飛躍的に増えるんじゃないかの噂も出てるみたい。ミサトはどうしようかと思ってたけど麻吹先生に、


『尾崎は出るな。新しい芽を見たい』


 まあ、ツバサ杯でグランプリを取っても、ハワイで無給アシスタントやらされるだけだから納得した。ついでだけど、


『加納賞も麻吹賞も遠慮してくれ。あそこはオフィスの弟子も参加は出来ない決まりになっている』


 だからミサトは弟子じゃないと言いたかったけど、弟子同然の教え子だから弟子に準じるで押さえ込まれちゃった。世間ではそう思われてるってさ。



 学内で顔色が去年からずっと悪いのがメディア創造学科の青田教授。麻吹先生の熱狂的なファンの山川学長からの、


『ツバサ杯学外流出絶対阻止』


 これの厳命は去年から続いているんだってさ。去年はミサトが守ったけど、今度は、


『メディア創造学科が未公認の写真サークルに負けた』


 この評判で頭が痛いらしい。それでもミサトがいればツバサ杯の学外流出阻止だけは出来る計算もあったみたいだけど、出ないと知ってさらに蒼い顔に。だから今年はさらに時間をかけて選抜チームの特訓をしているらしいけど、青田教授は胃潰瘍を起して倒れるんじゃないかと噂されてる。


 サークル北斗星の方だけど、こちらもスローガンだけはデッカくて、


『ツバサ杯死守』


 でも現実は厳しい。というのも今年は予選審査会が行われるらしい。去年も予備予選が宗像の陰謀の下に行われたけど、今年のは目的が違って、


『審査負担の軽減』


 学外からのエントリーだけで去年の数倍になりそうだから、論外的な応募作品をまずふるい落とす目的らしい。ごく簡単には予選審査会で百作品ぐらいに絞りこむとなってるって。だからサークル北斗星の本音の目的は、


『予選審査会突破』


 これは北斗星だけでなく他の写真サークルにもかなりハードルが高いものになっていて、最大手のフラッシュでさえ難しいのじゃないかとさえ言われてるぐらい。去年だってメディア創造学科でも入選がやっとだったものね。ここで平田先輩が、


「予選審査会とサークル公認昇格問題をリンクさせる動きがあるそうや」


 これもどこまでホントかわからない部分があるのだけど、まずグランプリでも取ろうものなら、所属するサークルは即昇格なんて話はあるそう。でもこれは無理に近いから、メディア創造学科を上回っても、ほぼ当確なんて話もあるとかないとか。


 ただ現実の写真サークルのレベルからして、予選審査会突破数が参考にされるんじゃないかの噂が出回ってる感じかな。


「ただな、公認サークル維持条件も予選審査会突破になるって話もあって・・・」


 フラッシュも必死だし、カシオペアやオリオンあたりもレベルの底上げに懸命だって。あのあたりは公認を真剣に狙ってるものね。


「尾崎さんはサークル北斗星の可能性をどう見る?」


 まず加茂先輩、ケイコ先輩、ヒサヨ先輩は無理だろうな。


「はっきり言うなぁ」


 チサト先輩はまだ可能性があるけど平田先輩は苦しいな。


「やっぱり、あかんか」


 ナオミはまだまだだし、


「ちょっとは良くなってるよ」


 寺田さんはどうだろう。今年の新入会員の仲野さんと家本さんも同じで小綺麗だけど写真が硬すぎる。これもまだ決定じゃないそうだけど、予選審査会もオフィス加納の有力なお弟子さんが審査するって話もあるから、ああいう写真は嫌われるはず。


「やっぱり伊吹か!」


 伊吹君なら予選審査会どころか入賞も狙える可能性があるけど、足りないところが多いのよね。それを補えば・・・


「では尾崎さんにお願いする」


 ちょっと、ちょっと。ミサトは指導が苦手なんだよ。高校の時もそうだったし、去年先輩たちにやった時もそうだった。


「そやけど、他に伊吹を指導できる奴なんて、このサークルにはおらん」


 うっ、それはそうだけど、苦手なものは苦手だよ。そしたら加茂先輩は、


「伊吹君が予選審査会を突破して入賞でもしてくれたら、この北斗星が公認昇格出来るかもしれないんだよ。公認昇格後の実績の維持だって、伊吹君はまだ一年だから四年までは保証付みたいなものじゃないか」


 部室というか活動拠点に使っている喫茶北斗星もケイコ先輩が卒業してしまうと、今までのように使えないかもしれないって。ケイコ先輩が喫茶北斗星の娘だから、相当無理聞いてもらってる部分があるんだろうな。


「これからのサークル北斗星は尾崎君や伊吹君の時代になる。ボクやケイコがやっていた時代とは変わらないといけない。そのために公認昇格を勝ち取って、新しい校内拠点を残したいのが、今年で卒業するボクたちの願いだ」


 伊吹君まで、


「尾崎先輩、よろしくお願いします」

「先輩はやめてよ」

「では尾崎先生」

「先生はもっとやめて」

「では師匠」


 誰が師匠なんだよ。寄ってたかって三時間。結局ウンと言わされちゃった。でも、どうしよう。

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