第58話 初デート

 十二月二十三日、午前十時に真菜と地元の駅で待ち合わせた。


 いつも咲が居るので、真菜と二人きりで会うのは初めてだ。お化粧をして可愛らしいコートを着た真菜が現れた。改めて見ると小柄で目力の強い所が良い。

 

「明日の朝九時までわたしだけのノンさんで良いんですよね。手、繋ぎましょう。」

 

「うん、良いよ。」


 映画を見る約束だ。券を買う時、俺の障害者手帳を使い一人千円で映画を見れるのを真菜は初めて知ったらしい。ディズニーの映画をチョイスして見た。映画を見ながら泣いている真菜が印象的だった。


 映画を見終わり、水晶細工のお店に行き指輪を買う事にした。咲のしている指輪は俺の一番好きな色の紫だ。真菜が二番目に好きな色は何かと聞くので緑だと答えた。「どうせ二番目の女なんで。」と言う真菜が愛おしく感じた。


「紫も緑も同じくらい好きだよ。」と言う俺に笑顔が戻る真菜。


 買った指輪をポケットに入れステーキ屋で昼食をとった。話題は咲との出会いについてだ。拾ったとは言えないので、咲がなんて言っているのか探りながらの会話になった。


 真菜は咲と出逢い、人生が変わったと言った。大学に行きながら、心理学を勉強して心理カウンセラーになりたいと話した。


 何故俺に大切なモノを捧げるのか聞くと、

「愛しているからです。ノンさんとだと安心するのと、もし子供が出来てもわたしが育てる自信があるからです。わたしはとても焼きもちやきですが咲さんなら許せると言うか。後悔はしません。よろしくお願いします。」


 時間は午後二時過ぎだ。帰り際スーパーに寄り、夕食の買い出しをした。鍋に決めて、野菜と魚、肉などを買い、ハイボールを四本買った。


 家に着くとまずは風呂だ。


 真菜はリュックを持っていて、着替えを入れてあるそうだ。先に真菜に風呂へ入る様に言った。風呂から出た真菜はTシャツを着ている。俺が風呂に入っている間に自叙伝を真菜に見せた。風呂から出ると真菜が泣きながら自叙伝を読んでいる。


「ノンさん凄いです。わたしなら耐えられません。失礼ですがお父さん随分と酷い人ですね。小学生を働かせるなんて。」


「親父は戦争体験者だからね。途中だけど読んでくれるならプリントアウトしようか。」


 読みたいと言うのでプリンターを起動してプリントアウトした。待っている間にカード麻雀を出した。麻雀牌はかさばるのと後かたづけが大変なので止めた。お互いに手牌を見せながら対局を進めた。


 こうして二人でカード麻雀をすると咲と初めて対局をした事を思い出す。真菜は麻雀が初めてらしい。俺の持っている麻雀入門の本を手にしながら対局した。


 真菜は驚異的に麻雀を覚えた。


 お互いにカードを伏せ対局すると真菜は心の声を聞かずに俺に挑んで来た。心を聞かないのか尋ねると面白くないからと答えた。真菜の計算力と記憶力はずば抜けていた。勝てない。確かに俺は麻雀が下手だ。でも今日初めて麻雀をする真菜に勝てないのだ。これにあの日本一の美代子と咲が入ったらどうなるのだろう。恐ろしくて鳥肌がたった。


 夕食の時間になり真菜が料理を作ってくれた。冬はやはり鍋が一番だ。ご飯はいつものレンジでチンするやつだ。ハイボールを飲むと、俺のモノが役にたたなくなるのを真菜は咲から聞いていておあずけとなった。


 オレンジジュースでの乾杯だ。


 咲は今頃一人、高級ホテルでリッチにディナーを堪能しているのだろうか。夕食を食べ終わると午後六時を過ぎたところだ。


 麻雀牌でやりたいと言う真菜の要望に応え、食事の後片付けの間に準備した。麻雀牌の積み方を教えドラ表示をめくり対局した。


 真菜は本当に俺の心の声を聴いていないのか?真菜のリーチに合わせ俺はオープンリーチを仕掛けた。一瞬「えっ?」という顔をする真菜。一発で俺に振り込んだ。俺の今日、初アガリだ。やっぱり聴いていたんだね。


「アハハ!ハンディですよ、ハンディ。これが噂のオープンリーチですね。」


 あっさりと霊力を使っていた事を白状する真菜。可愛いいので許すとしよう。


 午後八時になり俺は精神薬を飲んだ。

 麻雀牌を片づけ寝る準備になった。

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