魔剣“エッキ”
「割と終わってるよね、これ……」
蒼いポニーテールが特徴的な女神であるアリシアから見てもこの世界の終焉は明らかだった。
彼女の目の前には人類にとっての“最後の街”がそこにあった。
その街に名前はない。
ただ、生き残った難民が寄せ合い、自然と街が出来ただけの言わば、難民キャンプだ。
明日の食料にも事欠き、虚ろな目をし痩せこけた人間達が散見される。
すでに人間としての活力はなく活気もなく寂れていた。
何せ、とにかく食料や水がないのだ。
あの黒いスライム……通称、グラットンスライムはとにかく、よく食べるのだ。
本来無いはずの機能を補完する為に通常のスライム以上の食欲を有している事からとにかく、たくさん食べるのだ。
それこそ、川の水が干上がり、地下水もなくなり、肥沃だった大地も捕食し、食料となる魔物すら捕食してグラットンスライムが通った跡は更地しか残らない事から人間がスライムを「黒い悪魔」として恐れるようになった。
このまま何も対策しなければ、近い内に地上の全てはグラットンスライムに捕食され、グラットンスライムの惑星に変わる日もそう近くはない。
しかも、中々厄介な事にグラットンスライムには脳はなく疲労もしない。
彼らの行動は全て頂点に君臨する女王からの指示だけで動いている。
それ故に非常に厄介であり仮に女王を倒したとしても統率を失ったグラットンスライムが暴走するリスクも孕んでいた。
蟻と同じ生態ならその可能性が極めて高い。
なので、戦争のように国のトップを討ち取れば勝ちとはいかない。
そうなるとグラットンスライムを全滅させるしか方法がないのだが、生き残った人類にそんな余裕はない。
そして、女神と言われたアリシアでもそれは難しい。
アリシアと敵対する存在がアリシアの力を制限しているのでお手軽に殲滅で出来ない。
惑星の損害を考慮しなくて良いならいますぐ、地殻を割り、マントル内にある岩石蒸気で地上のグラットンスライム諸共業火に包む事ができるがそんな事をすればアリシア以外の人類は全滅するのでその選択肢はない。
「さて、どうしようかな……」
取り合えず、現状現地民の助力は得られない。
皆、今日の事で手一杯で“最後の街”では残った資源の奪い合いが始まっていたからだ。
ざっと見ると犯罪率90%と言った感じだ。
アリシアの目の前だけで平然と9件くらいの殺人が行われている有様だ。
「1人でなんとかするしかないか……」
ここでアリシアは考え直す事にした。
敵が蟻の遺伝子を使って生態系を造っているのは既に把握している。
そして、その為にグラットンスライムは蟻と同じ行動を取る。
そして、彼らは女王のフェロモンを定期的に摂取しないと動けない性質を受け継いでおりフェロモンを多く持つ個体が少ない個体にフェロモンを分け与えている。
そして、蟻と同じなら女王からのフェロモンを定期的に供給されていると考えられた。
ならば、取れる手はこれしかなかった。
「毒殺するしかないか……」
それしかなかった。
精確には女王のフェロモンに似た分子を持った毒性のあるフェロモンを合成しそれを群れ全体に撃ち込むと言うモノだ。
そうようにすれば、スライム達は体内のフェロモンを無意識に分け与え、一気に感染爆発を引き起こす事ができる。
分子構造が似ていれば、フェロモンとして仲間に無抵抗に分け与えるはずだ。
ただ、その為にはただ毒を合成するだけではダメなのだ。
それでは毒を経由する度に代謝で薄れてしまうからだ。
なので、勝手に任意の物質を相手の遺伝子を使って製造する「ウイルス」のような兵器を使わないと勝ちようがない。
「ウイルス造るの得意じゃないんだけどな……」
アリシアはそう言って、空間収納から1本の剣を取り出す。
毒々しい色合いと紋様を持った緑色の魔剣を取り出した。
「まさか、こんなところで役立つなんて……」
これは魔剣“エッキ”。
かつて、製造したウイルス製造に特化した魔剣だ。
斬った対象を接触感染と言う形で感染させ、それを宿主にウイルスを拡散させる戦略兵器だ。
元々は“英雄”と呼ばれるテロリストのような存在が世界で一定以上の人口を占めた際のセイフティとして“英雄”をピンポイントで殺すつもりで製造したモノだ。
言わば、対人兵器と言って良い魔剣だが、調整すれば蟻とかスライムにも使えるはずなのだ。
だが、確実に使用するには条件があった。
「さて、ちょっと一狩して来ますか……」
アリシアはそう言って、グラットンスライムの生息域に単身で足を踏み入れた。
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