だれか僕に生き方を教えてくれ。

@amagattpa

第1話 やり残し

 いらっしゃいませ。


 何度この言葉を口に出せばいいのだろうか、一切の感情を消し切った俺のいらっしゃいませが店内にこだまする。


 まるでそうプログラムされたロボットのごとくひたすらにマニュアル通りの挨拶を赤の他人に連呼しまくる、ロボットの方がもうちょういましな挨拶ができるのではないかと思ってしまう。


「……た!」


「……あんた!」


 突然の怒声に思わず顔を上げる、目の前には40代後半くらいであろうか、生え際が後退し始めている白髪交じりのおっさんサラリーマンが顔を真っ赤にしてレジの前に立っていた。


「なにぼーっとしてんだよ、レジ!」

 

「そんなんもできねーのかよ」

 

 そうぶっきらぼうに言葉を吐き捨てると、おっさんは右手に持っていた缶チューハイとカップ麺をレジの台の上にこれ見よがしに大きな音をたてて置いた。


 静かな店内とは反比例するように俺の怒りはふつふつと湧き上がってきていた。

誰か俺を止めてくれ、じゃないとこのおっさんの残り少ない髪の毛を全部むしり取ってしまいそうだ。


 だが一度入った怒りのスイッチはもう自分では制御できない、感情の蓋から溢れだした怒りは理性を崩壊させ、己の本能のままに動き出す、とどまることの知らない俺の右ストレートは……


「クレーム入れてやろうか?」


 おっさんの一言が数秒の沈黙を生む。


 一気に俺を現実に引き戻す。


 また自分の世界に入ってしまった、丁寧な謝罪の後、満面の作り笑いをおっさんにかますと俺の手からお釣りを勢いよく奪って、早足に店を出ていった。


 ふふっ


 反論の一つもできないだけでなくあの作り笑い、自分のあまりの情けなさに思わず笑い声が洩れる。


 現実の出来事は実に陳腐だ、華がない、おもしろみに欠ける世界など生きていてなんの価値があるのだろう。


 同級生はやれ結婚だの、やれ出世だの、俺からしてみればどちらもしょうもないことだ、所詮は赤の他人である女性をなぜ自分の金で養わなければならない?上司の機嫌を取るためだけに限りある貴重な時間を費やすなどごめんだ。


 ……違うそうじゃない、


 自分でも分かっている、30歳を目前にして、彼女もできたこともない、何の職にもつかず、ひたすらにオンラインゲームをやりこみ、近所のコンビニでフリーターをしている糞ニート子供部屋おじさんだってのは。

 

 どこで道を逸れてしまったのか、いやそもそも道を通っていたかも怪しい、思い返せば後悔だらけの人生だ。


 やり直せるならどこからだろう。


 だがもうやり残しを清算するにはあまりに時間が経ちすぎた。


 



 


 


 

 

 


 

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