シンデレラ視点~舞踏会・後編~

ネズッチさんかもしれない東洋人の側近の方に話しかけようと考えていると、事件が起きました。

大きい物音がした後で、列に並んでいたはずの1人のご令嬢が手錠をかけられて連行されて行く姿が見えました。目立たないように隅の方で人の壁を作って連行されてますが、私の位置からはバッチリ見えました。ご令嬢は恐怖に青ざめた顔をしています。

もしや、自己アピールが王子様の気に食わなかったから連行されてるのでしょうか?

いや、まさかそんな事くらいで捕まらないですよね。

でも、あの優しいネズッチさんが『いけ好かない王子』と言うからには、人格に問題がある王子様なのかも知れません。

私が国家権力に不安を覚えていると、私の番が来てしまいました。


「シンデレラ嬢をお連れしました」


私は無礼があって、首をはねられてはいけないと思い、慌ててカーテシーをしました。


「何か王子に伝えたい事はあるか?」


そう側近の青年に問われたので、私は首を横にふり「特にございません」と答えました。


「顔をあげよ」


そう言われ顔をあげると、金の刺繍が施された白いタキシード服を着た王子様が立っていました。

イケメン王子と平民に呼ばれることが納得の、金髪碧眼の美形で非常に整った顔の配置です。

その王子様が顔を赤らめて、俯いてしまいました。


私が自己アピールしなかったことに対し、怒りで顔を真っ赤にされているのではと考え、私は焦りました。今からでも何か、鶏の声真似でも披露すべきか私が迷っていると、奥で立派な椅子にゆったりと腰をかけている王様が、口を開きました。


「王子よ、一目で気に入ったようだな。ならば、この娘とファーストダンスを踊るが良い」


何を勘違いをなさったのか、王様が困った提案をして下さりました。断る訳にもいかず困っていると、王子様が私の前にやってきて、掠れた美声で言いました。


「手を」


怒髪天をついた王子様が私に手錠をかけるのではとビクビクしながら、両手首を差し出しました。

すると王子様は私の片手をとり、ダンスホールへとエスコートして下さりました。

手錠をかけられなかったことに安心しつつお顔を見ると真っ赤のままで、眉間には深いシワ·····お怒りは相変わらずのようです。

ダンスなんて、10年ぶりでまともに踊れる気がしません。

こんな怒りに爆発しそうな王子様の足を踏んでしまっては、今度こそ不敬罪で抹殺されるかもしれません。


恐怖で震える私をよそに無情にも、オーケストラによる音楽が奏でられはじめ、恐怖のダンスタイムが始まりました。


私は曲に合わせて、何とか踊り始めることができました。そういえば、魔法使いさんが『ダンスが上手になる魔法』を付与してくださると言っていました。

きっと魔法使いさんは『失敗してはいけない舞踏会24時』になることが予知できていたに違いありません。

王子様は時折、私の知らない謎のステップを踏むので、魔法使いさんの力がなければ私は100%王子様の足を踏んでいた事でしょう。


ようやく曲が終盤に近づきダンスが終わる頃になって、ホッとしながら王子様を見ると、まだ彼は赤い顔をしています。

私はダンスが終わると共に、お辞儀をするやいなや、王子様から離れようと人気のなさそうな部屋へ逃げ出しました。

すると、何とお怒りの王子様が追いかけてくるのです。

部屋に入ると王子様にバンッと壁に両手をつかれ、追い込まれて逃げられなくなってしまいました。

たかだか、自己アピールしなかったくらいで、ここまで怒ってつけ回してくることないのではなかろうかと思います。

私は、王子様の急所に攻撃して逃げるか、許しを乞うか一瞬迷った挙句、「申し訳ございません。お許しください」と伝えることにしました。


すると王子様は、無言のままに一段と顔を真っ赤にして、片手で顔を覆ってしまいました。

正直怖いです。

私は片手だけになった王子様の手の包囲網を突破し、駆け出しました。


「待ってくれ」


待てと言われて待つ、犯罪者はおりません。いや、私は何も罪を犯してはいませんが、気分は逃走する犯罪者です。


私の自慢の脚力で、ぐんぐんと王子様から遠ざかります。そして例の大理石の階段にたどり着くと、1段飛ばしで駆け下りました。

すると案の定、階段の途中で、派手にすっ転びました。

転んだ拍子に片方のガラスの靴が、盛大に吹っ飛んでいきました。

私はすぐにもう片方のガラスの靴も脱いで、靴を片手につかみ立ち上がると、身軽になったので今度は三段飛ばしで階段を駆け下りました。


おりしも24時の鐘が鳴り始め、ファーストチッキンの頭の赤い帽子が、鶏冠に変わり始めていました。

私は最後の階段10段を飛び降りると、馬車に乗り込みました。

すぐにバッファローゴローとメーちゃんの白馬が走り出してくれて、あっという間に王城は遠ざかって行ったのでした。

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