第42話「強く——」
「ブリトニー、ブリトニー?」
俺は、ブリトニーの待つ医療棟の一室を訪れていた。
時はおよそ正午くらい。
ブリトニーはうなされていたようで、苦しそうにもがいていた。
「大丈夫か、ブリトニー。遅くなっちゃってごめんね」
そんな彼女に声をかけると、彼女は途端に目を覚まし、どこか安心したかのような表情を見せた。
そんな姿を横目に、隣で見ていた修道女が、
「容態は安定しておりますので、すぐにでも退院可能ですよ」
「そうですか……わかりました。お世話掛けました」
そして俺はブリトニーを引き取り、修道女たちに礼を言ってその場を後にした。
★ ☆ ☆
街の途中——
さて、そう言えばベクトールからメッセージが——
ぐうぅぅぅぅうううう————…………
ん? ブリトニー?
——そう言えば飯を食っていなかったな。
彼女がどことなく赤面しながらじっとこらえていたので、俺はそのまま飯屋へと足を運んだ。
この前と同じレストラン。あの時は適当に入った場所だったが、ライとの一件もあり今となっては安心感のある場所の一つとなっていた。
この世界の住人である俺がそうなので、ブリトニーからしたらもっとだろう。
俺たちはそのまま店の扉を開けた。
夜に訪れた時と昼間とじゃ雰囲気が結構違い、客層も若者が多く見受けられるな。
俺たちが入口付近で立ち止まっていると、ウェイターが席へ案内した。そして、角の一席に座った俺たちは、そのままメニューを広げた。
さて、今日は何を頼もうかな。
「何か食べたいものある? 肉とか、野菜とか、魚とか……」
「オム……」
「ん?」
「オム……ライス……」
今日もオムライスか。相当気に入ったらしいと見た。
俺はそのままオムライスを二つ注文した。
オムライスが二つ届けられ、俺はそのまま口に運ぶ。
だが、ブリトニーの手はどこか進んでいないように見える。表情も固い。何かあったのだろうか。
「どうした? おなかすいてたんじゃないのか?」
「…………」
以前だんまり。まるで初日のような雰囲気だ。
「私……」
「ん?」
「……私、このパーティーを抜けます」
★ ★ ☆
「————は?」
俺は強く机を叩いて立ち上がっていた。
話が急展開過ぎて付いていけない。
「ど、ど、ど、どうして?」
俺は明らかに動揺した素振りを見せていた。
彼女は「だって……」と続ける。
「私が足手まといだから、おにいさん目的地に向かえなかったんでしょ? この街に張り付いて
「いや、そんなことは——」
「それにっ! ——それに私、自分が怖いの。全く記憶にないけど——私、変身して暴走していたんでしょ? そうなったらまたまた迷惑かけちゃうし——お医者様が言ってたの。あれは突発的に発動して、魔力を大量に消費するって。それに今度も理性が保たれるかもわからないって」
「それは……」
「今回だって運が良かっただけかもしれない。次はどうなるかわからない。それに今回は、私が慢心して助けようだなんて言い出したのが原因だし——こんな私なんかのために、おにいさんが縛られ続けるのを見るのはもう嫌なの。私のせいで、おにいさんが傷付く姿を見たくないの。だから、ごめんなさい」
「…………」
そうか、さっきまでほとんど無口だったのはこのためか。
と言うより、やはりこの子は、幼いながらに賢いな。
いや、賢すぎる。
賢すぎるから、10歳ながら自分を
いや、正しいんだが、この子にはまだ早い。
自分の存在に負い目を感じ、足手まといだと豪語する。そして、自分はこの場所にいない方が良いのだと勝手に思い込んでいる。
——だが、そりゃ違うだろうが。
「はあ……」
「————?」
「なあブリトニー、おまえ、このパーティーを抜けた後どうするつもりだ?」
「どうって、それは——」
「行く当てなんてあるのか? 知らない世界の知らない街、文字も読めなければ知り合いもいない、だからこそコミュニケーションをとることも難しい——」
「…………」
「そして、この際だからはっきり言うけど、おまえは弱い。——いや、弱かった、だな。年齢や性別、世界の違いもあるけど、それら全てをひっくるめても、今のおまえは誰かに守ってもらわないといけない存在だ。そんなやつがこの先一人でどうしようって?」
「…………」
ブリトニーは、むすっとした顔で俯いていた。その瞳には、どことなく涙が固まっているようにも見えた。
はあ、少しきつく言い過ぎたかな。だが、これははっきり言わないといけないことのようにも思えたんだ。
「自分の目的のためにこのパーティーを抜けるってんなら話は別——俺は快く送り出したさ。具体的かつ現実的な未来設計があるのならね。けど、『自分が足を引っ張ってる』だとか、『自分のせいで俺が目的を遂行できない』だとかの理由でこのパーティーを抜けようって考えたんなら、俺はそれを絶対認めない。……勝手に俺の考えを決めつけんなよ」
少し傲慢かな。
彼女の権利を俺が支配しているような言い方になってしまったが、でも、こう言うしかない。
この子にははっきりと伝えてあげる必要がある。
「キミは今、守られる存在でもいいんだよ」って。
「ねえブリトニー、もう少し子供っぽくてもいいんだよ?」
「————え?」
「だから、もう少し子供っぽく甘えたり、わがまま言ったりしてもいいんだよ?」
「でも……」
「もっと俺を頼ってもいいんだよ? ……って言うか頼れよッ!」
「…………」
ブリトニーは身分の高かった子供だ。
その分きっと、周りからの重圧も重たかったのだろう。それが原因で、年齢に似合わず賢く、皮肉なことにその賢さが災いして自らを犠牲にする考えに走っているんだ。
だが、それを理由に一切頼られずじまいと言うのは、俺の実力不足をブリトニーに間接的に示されているようでどことなく悔しかった。
「ねえ、ブリトニー。俺がなんで装備を変えたかわかる?」
「…………?」
「おしゃれのためだとか、かっこつけるためだと思う?」
「うーん……」
今のこの子にはきっとわからないだろうな。
だって、自分を必要のない存在としているから。
ブリトニーは深く考え込んでいた。
桃色の髪が少し顔にかかって、それをうっとうしがるような素振りを見せながら、少し俯いて沈黙する。
そんな彼女に対して、俺は「そう言えば」と口を開く。
「ブリトニーには俺のこと話してなかったよね」
ブリトニーはこちらをじっと見た。
俺は腕を組み、机に肘を付けて語り始める。
「俺は、この世界じゃ弱い人間なんだ。ブリトニーと一緒で——いや、ブリトニーよりも弱い」
「そんなこと——」
「あるね」
「…………」
★★で生まれた俺。今も昔も変わらず、ずっとそのまま。
召喚の対象にもならず、ましてや農家と言う職業を背負い、冒険者になるなんて夢のような話。
かつてから、冒険者になると豪語していた俺を周りは白い目で見て嘲笑った。
「前にも言ったけど、俺には妹がいた。妹は俺よりも強くて、ブリトニーみたいに賢い子だった。でもそれが原因でどこかに連れていかれちまったんだ」
俺の心のトラウマ。
そして、冒険者を目指したきっかけだ。
正直、今この瞬間もどこにいるのか気になるし心配ではある。
「絶望したさ。目の前で妹が消えちまって」
——今も絶望している。そしてこれからもずっと、マナを見つけて村に連れ帰るまでずっと引きずることになるだろう。
「村の人たちの話じゃそれが召喚による影響だって言うじゃないか。そう、ブリトニーと同じように、俺の妹は誰かに召喚されていなくなっちまったんだ」
そして、召喚を嫌う理由でもある。
俺みたいに、そしてブリトニーみたいに、それぞれ生活があるにもかかわらず、召喚と言う強制的な力によってそれをぶち壊される。そこに人権なんてものはなく、抵抗する術もない。
——そして、召喚をしたやつらの中には、とんでもなくゴミみたいなやつもいる。
「この世界は、海の向こうの魔物が強力とされていて、そこへ行くには冒険者になる、もしくは冒険者のパーティーに属する必要がある」
俺たちの住むこの大陸が最後の砦と言われているほど、外の世界は恐ろしいと言われている。強い人間しか生きていけないのだ。
「そして、召喚したのが冒険者なら、妹が外の世界にいるかもしれないって考えた」
外の世界に魔王がいるって言われているから、冒険者のほとんどは外の世界を目指す。妹がそんな奴らに召喚されたってんなら外の世界にいる可能性が高いってことだ。
そしてそれと同時に、外の世界は凶暴な魔物が多いから、妹が無事なのかどうかも——
「初め俺は、海の向こうへ行くために手あたり次第冒険者たちに
幼くても、★が多かったり特別な職業についていたり、特別なスキルを持っていればパーティーに混ぜてもらえる可能性はあった。だが、さっきも言ったが俺には何もなかった。
「だから俺は、この世界のどこかにいるであろう妹を探すために、自分自身が冒険者になろうって考えたんだ。そうすれば、外の世界へ行くための船にも乗れるからね」
いるかもしれないし「いないかもしれない」マナ。外の世界に必ずいる保証はない。——生きている保証もない。
けど、可能性があるのなら、俺は諦めたくなかった。
パーティーに混ぜてもらえないなら、俺が冒険者になればいい。合理的な考え方だろ? でも——
「冒険者を目指した俺を、皆はバカにした。まるでパーティーに混ぜてくれなかった冒険者のような白い目で俺を嘲笑って。でも俺は今、冒険者になっている。それは一人の力ではなく、仲間と協力して成しえた結果なんだ」
俺は、自分の弱さをことごとく実感してきたんだ。
それはブリトニーの比じゃない。
周りから言われたこと。言い続けられてきたこと。
言われなくても、態度で示されたこと。
弱いことなんて、自分が良く分かっている。
でも、ブリトニーの発言を認めるということは、今までの自分を否定することになるんだ。
弱さを言い訳にしたことはない。弱いからと言って、周りにバカにされようと、俺は他人に力を貸してもらい、今ここにいる。
他力本願を肯定するつもりではないが、弱いからと諦めて行動に移さないのはもっと嫌だ。
そして、今のブリトニーのように、自分の弱さを理由に他人に迷惑をかけないように配慮することも、それは自分の努力、諦めない心を踏みにじっていることになるから。
「ブリトニーが言うように、俺には目的地がある。港町の船着き場に行って、外の世界に行かなければならない。そして、妹を見つけ出したい」
そう言った俺の視線は、まっすぐとブリトニーを見つめていた。
★ ★ ★
——ふう、ここで一息。
自分を語りすぎたことで、少しばかり恥ずかしさすら感じられる。
ブリトニーも、俺の話に圧倒されたのか、言葉を失っている。
「ブリトニーよ、さっきも言ったように俺は弱い。昔も、そして今も——。俺が今こうして冒険者としていられるのも、仲間の力があったからこそ。自分一人の力なんかじゃない。俺だって他の人に助けてもらってようやっといっちょまえなんだよ——いや、まだそれでも半人前かもしれないけどさ……」
他人を頼ってもいい。一人で背負い込まなくたっていい。
まして、10歳の少女ならなおさらだ。
本来ならわがままを言いたい年ごろだろう。それなのに彼女は、自分を低く、そして他人を優先する考え方をする。
彼女の生い立ちと、その姿から予想し、彼女は「自分一人でやっていかなければならない」「だれにも頼らず自立しなければならない」と思い込んでいるんじゃないのかと思った。
それも極端に——
だからこそ伝えたかったんだ。
俺の生き方を。今までの俺を。
そして、誰かに助けを求めてもいいんだと。
俺だって、村の仲間たちや家族、そしてポールやロゼッタ、それからファルコ——いろいろな人たちの力を借りて今ここにいる。それは悪いことだとは思わないし、何なら良いことだ。
彼女には、それを教えてあげたかった。
君は足手まといなんかじゃないって。
それから、俺だって強くならなくちゃならない。
「——装備を変えたのは、そんな弱い自分を少しでも強くするためさ。ブリトニーを守れるくらいにね」
「私は弱いし——自分の身を守るのに精いっぱいで——」
「弱くたっていいじゃない。戦えなくたっていいじゃない。そのことを責めて、自分自身を追い込むのは間違ってるよ」
「…………」
「もっと子供っぽく、誰かに甘えてもいいんだよ。そう、俺にオムライスをせがむみたいにさ。自分の弱さを否定する必要なんかない。『弱いこと』は『悪いこと』じゃないんだから——。もっと……もっと俺を頼ってもいいんだよ——?」
「でも……」
「あぁあもうっ! はっきりしないな! ブリトニーの素直な気持ちは何? ブリトニーはどうしたいの?」
「————ッ!」
急に激しい口調になったからか、ブリトニーが驚いた。
表情は依然硬いまま、頬が硬直して涙がこぼれそうな瞳。きっと、彼女の中でも答えが分からないのだろう。俺にだってわからないしな。
そんな曖昧な心境で、俺にすべてを否定され、諭され、彼女の心は今、混乱の渦に呑まれているのだろう。
「私は……迷惑をかけたくない」
「だから、そりゃ建前だろ? 俺は迷惑なんて思ってない。むしろ頼られるのが嬉しいくらいだよ。俺が聞きたいのはそういうことじゃない。もっと根本的なこと」
難しい質問だったかな、と少し考えなおす。
言い方がきつくないかな、と少し反省する。
だが、それは妹に対して放った言い方によく似ていた。
妹を注意するときの言い方に。
「——ちょ、もしかして俺のことが生理的に無理で、それでパーティーから抜けようって話か!? ごめん、それならもうお手上げだよ。俺から言うことは何もない……」
「ちがっ……! そんなことないっ!」
取り乱した俺に対して、同じく取り乱すブリトニー。まるで漫才のような光景に、俺は思わず笑みがこぼれた。
だが、話はまだ終わっていない。彼女の口から本音を聞いていない。俺を気遣うことが本音なのかもしれないが、俺の聞きたいことはそれじゃなく、彼女がどうしたいかだ。
「じゃあ質問を変えよう。ブリトニーはこれからどうしたい? この世界で普通に暮らしたいの?それとも——元の世界に帰りたいの?」
優しく、回答を選択制にして聞いた。
根本的なこと。彼女の目的を聞かなければならない。
行動と言うのは目的に準ずるもの。そのため、目的をはっきりさせることは、今後の行動方針につながる。
そしてそれは、ブリトニーのこれからを考える大切な材料となる。
「私は……元の世界に、帰りたい……です」
予想外だ。
確かに、突然わけのわからない場所に連れてこられたら、元の世界に帰りたいというのが自然。ただ、ブリトニーに関しては、自分がもともといた世界の話をするとき、とても険しい表情をする。悲しそうな表情をする。そして、言いたくなさそうに言葉を詰まらせる。
だから、俺はてっきり、この子は元の世界に帰りたくないものだとばかり思っていた。
だが、実際は違うようだ。
なぜなのか気になるところだが、それはまた今度にしよう。
「じゃあもう一つ聞くね。前に『戦う』って言ってくれたけどさ、あれは俺に『迷惑をかけたくない』って思ったから?」
ブリトニーは少し間を空けて、俯きながら小さく頷いた。
だろうな、そうだと思ったよ。
あの時俺が甘えたから、彼女の気遣いに甘えたから、今こうなっているんだ。もっとしっかり話し合うべきだった。
「——じゃあさ、実際戦ってみて、今はどう思ってる?」
口ごもる姿を見せたので、俺はすかさず言葉を増やした。
「……俺に気を遣う必要はないよ。はっきりと自分の思うことを言って。戦いたい? 戦いたくない?」
ブリトニーは再び沈黙した。
いろいろ考えて悩んだのだろう、そんな彼女から不意にボソッと小さな声でその言葉はこぼれた。
「戦いたく……ない」
そう、か。
無理させたな、相当。
俺は、戦いを強要したのと同じだ。それは、この前見たあの品のない冒険者と同じ、俺が大っ嫌いなゲスと同類だ。
召喚された人間に、好きでもない戦いを強要すること。マナが同じようにされていたらどう思うだろう。
まして、相手の優しさに漬け込み、好きでもないことをさせた自分。せざるを得ない状況を作り出してしまった自分。今はそんな自分が憎くてしょうがない。
「魔物が怖い……。攻撃したら痛そうでかわいそう——」
俺は眉間にしわを寄せ、唇を強くかみしめた。血が出たのだろう、鉄の味が口に広がる。だが、それでもまだ怒りは収まらない。瞳は潤い、涙が溜まり始めた。俺はそのまま俯いた。
これが彼女の本音だ。俺は、嫌がる少女に無理やりさせたのだ。最低だ。本当に最低だ。
「そうか——辛い思いをさせたな。ごめんな……」
自分自身が許せなくて、一番大嫌いだったゲスと同じ自分に反吐が出て、最低最悪な気持ちになった。
——だが、そんな俺に対し、彼女が口を開く。
「——でも、おにいさんに迷惑をかけたくない。守られてばかりの自分は嫌だ。けど、私は弱いし、また暴走して傷つけちゃうかもしれない。
そう、本当は『強く』なりたかった。今の世界も、前の世界でも——誰かに守られてばっかりの自分が嫌だった。自分で何とか出来るような、そんな『強さ』が欲しかったの。でも、強くなるためにはどうすればいいのかわからなかった——
このままだったらまたおにいさんに迷惑をかけちゃう。だから、このパーティーから抜けたかったの。私に振り回されて、おにいさんが目的を果たせないでいるのは嫌だった。今それが解決したとしても、今後同じようになると思ったから——」
「————ッ!」
そうか、そうだったのか。
同じだ。ブリトニーも俺も。根本は全く同じなんだ。
初めに俺に言った言葉、それらすべては、「強くなりたい」けどどうすればいいのかわからない、弱いままの自分だと迷惑をかけてしまう、だったのだ。
強くなりたい。
彼女を守れる強さを。
強くなりたい。
自らを守る強さを。
そう、強くなりたいんだ。
誰にも文句を言わせない強さ、弱いからこそ望む強さ。
俺をバカにする視線を見返すために、そして妹を見つけ出すために、今までずっと願い続けてきた強さだ。
彼女もきっとそうなのだろう。
高い身分で、命を狙われ、誰かに守られながら生きてきたのだろうか。
はたまたそんな自分が許せなかったのだろうか。
わかる、なんて言葉を使うのは強情かもしれないが、ここで「前の世界でも——」と言う言葉をつぶやいたということは、少なからずもともとの世界でも自分の弱さに関する何かがあったってことだ。
本当は最初から分かっていたのかもしれない。
そう、俺たちは『強く』なりたいんだよ。
サッ————
「————ッ!」
俺は机を軽く叩いて、その場で立ち上がった。
ブリトニーはびっくりしたのか、一瞬戸惑ったような表情を見せた。そして、俺が右手を彼女の頭へと伸ばし——彼女は片目を閉じて驚いていた。
そして、俺は彼女の頭を撫でながら——
「俺だって弱い、脆い。諦めたくなる時だってめちゃくちゃある。でも、ブリトニーにはさ、そんな俺を助けてほしいんだ。君に支えてほしいんだ——。今のブリトニーは自分で思っているほど弱っちいわけでもないしな!正直、俺なんかよりもずっと強いよ!」
「そんなこと————」
「記憶にないかもしれないけどさ、俺、ブリトニーに助けられてるんだよ」
フィリアとの戦闘時、俺はブリトニーに庇われた。
そして、彼女は俺を攻撃する際、涙を溜めて躊躇しているように見え当たのだった。
あれはただの化け物とひとくくりに言うのは間違いだ。彼女はあの時間違いなく、暴走する自我の中で俺のことを意識した。
俺は彼女に助けられたんだ。
そして俺は続けた。
「きっとこの先、どこかでつまずいて立ち直れなくなる日がきっと来ると思う。どうしようもなく落ち込んで、すぐにでも死んでしまいたくなるような——そんな時がきっと——でもそんな時、俺の心の支えになってほしいんだ——それはお互いが『弱い』からできること——『弱い』から
弱いから、わかってあげられる。
弱いから、支えてあげられる。
弱いから、手を差し伸べてあげられる——
——自分勝手なのはわかっているさ。でも、俺は君に頼みたいんだ」
「私に、そんな力なんて……それに私がいると迷惑に——」
彼女は鼻をすすりながら答えた。今にも泣き出しそうだ。
俺は彼女の両頬に両手を当て、視線を合わせた。
「迷惑なんてことはないさ。もっと自分に素直になれ、俺を頼れ。……お互い今は弱っちいかもしれない。この先とんでもなく高い壁にぶつかるかもしれない。でも、そのたびに二人で力を合わせて乗り越えていこうよ。俺たちならきっとできるさ、どんな壁だって————だからさ、『強く』なろうよ、俺と一緒にっ!」
「————ッ!」
少女は片目を閉じていたが、俺の一言でその眼をパッと見開いて——
「……うん……うんっ!」
再びポンポンと頭を撫でる。
その瞳からは、ポタポタと涙が零れ落ちていた。
——————————————————————————————————————
これにて第二章完結です。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
よろしければ応援やコメント、評価等していただければ作者の励みにつながりますので、よろしくお願いいたします!
※今作は「小説家になろう」に投稿する前の実験作として投稿した作品です。
改良案などございましたら、コメント等お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます