「違うわよ。彼女は【鎮護ちんごつどい】じゃないわ」

「さすが仲間だな。よく知ってる」

「憶測よ。というか、【鎮護ちんごつどい】が否定してるんだから、そうなんでしょ」


 いくら睨みを利かせても、全然響かないとしても、睨まずにはいられない。

 生徒会とも不良とも繋がってるなんて、私は一体、何者だっていうのよ。


「どういうこと?」

「【鎮護ちんごつどい】は会長が結成した組織よ。まあ、これも噂だけど。信憑性は高いわ。本人が肯定も否定もしてないだけでね」

「そうであるから肯定できひん。そうであるから否定もできひん」

「恨み向けられるくらいなら、疑問のままにしといた方が都合がいいってことだな」

「だから~こんな誤解も生まれるんだね~」


 椅子をギシギシ言わせながら、松ちゃんは天井を見ていた。


「それもまた、今更だけどね」

「そうなの?」

「今まで疑われてたのは、生徒会に新聞部に雑誌部に、あとは情報屋か? 有力候補は情報屋だけどな」

「それがなんで今さら、特定されたんや?」

「他の部の容疑が晴れたとか。もしくは、擦りつけ合いの末に新聞部が敗北した、とかな」

「それ~どれだけ本気で言ってるの~?」


 松ちゃんのツッコミに、【菩薩】は深く息を吐いた。


「それにしてもこの噂、本当に嘘っぽいよね~。この次期にまだ次期部長なんてね~」

「次期部長ってのも、まだ噂だしな」

「もう2月よ?」

「新聞部は無休だろ。部長が卒業するまでは、次期部長は次期部長だ。まあ、再来週には校内新聞で発表されるはずだぜ」


 テスト期間にも入っていることから、大半の部活・委員会は活動休止中だ。再開はテスト明けの3月からで、そのときにはすでに新体制となっているはずだ。

 当委員会は関係ないけどね。

 卒業生もいないし、委員長はなぜか私だし。


「ならなんで、ゆず季さんは次期部長なんて言われてるの?」

「新聞部の伝統行事のせいじゃねぇか? この時期に次期部長の噂を流して、部員に調査させるらしい。それで、部員の力量を図るんだと。記事を採用されれば賞与がでるらしいぜ。食券10枚。日替わり定食で」

「メニュー決められてるのはツラいね~」

「10食分は魅力的よ」


 【菩薩】が腕時計に目をむけた。


「それで、どうするんだよ」


 外の景色が、橙に色づき始めている。


「まずは、状況を掴まないことにはなんとも言えないわね。私たちに頼むってことは、《魔女》にとってまずい状況なんでしょうし」

「《魔女》も丁度良い駒がいて良かったよね~」

「なんで俺らなんや。頼める相手なら、大勢おるやろ」

「相変わらず用件も要点も曖昧だしな」


 紙切れに書かれていたのは、”偽物の正体を明かせ”という言葉のみ。

 言葉通りなら、頭を抱える必要もないのに。

 相手が《魔女》ではなく美樹なら。この噂に【鎮護ちんごつどい】なんて名前がなければ。紙切れが届くことはなかったのに。

 誰だ。《魔女》相手にそんな節操のないコトを仕掛けたのは。

 ただのバカか、恨みをもつ者か、はたまた身内による反逆か。

 身内、はないわよね。きっと私たちと同じ、《パンドラの箱》を握られているはずだから。それは、心臓を鷲掴みされているも同然なのだから。


「てか、放置するって選択肢はどこに行ったんだよ」

「今さらどうこう言われても、意に介さへんはずやろ」

「《魔女》なりの理由があるんでしょ。知らないけど」


 《魔女》からの指令は、どんな理由で頼まれたのか、それを考慮して動かなければいけない。

 意に反すれば、照準が即座にコチラをむく。

 本人に尋ねたところで、素直に教えてもらえるわけもないし。


「つまり~、結構めんどくさいことになってるってこと~?」

「そうでしょうね」


 私たちは項垂れるしかなかった。

 《魔女》がこの噂を放置しない理由か。

 この状況が《魔女》の思惑通りじゃないってことだけは、確かね。


ね」

「生け贄やないとエエけどな」


 呟きに誰も返さない。

 ただ私たちにできることは、蜥蜴の尻尾切りを避けることだけだ。

 そのためには悲しいかな、《魔女》の願いに応えなければならない。


「まずは情報収集ね」

「良い駒でありたいよね~、どうせなら~」

「生け贄になるつもりはないからな」

「ほんま、エエ加減にしてほしいわ」

「テスト前、だものね」


 学年末テストまで、あと3週間。

 2年は非協力的になりかねないわね。特に【菩薩】。

 そこも注視しなきゃいけない。

 校紀委員会は連帯責任なんだから。まあ、だから非協力的になれるのかもしれないけど。

 名ばかりの委員長という役職が、妙に重く感じられた。

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