第41話41

恒輝のクラスで、佐々木の英語の授業が始まり、生徒の英長文の朗読が始まった。


恒輝の順番は、数字も悪い4番目。


如何に、佐々木が恒輝に嫌がらせをしてるのかがよく分る。


そしてそれは、明人もよく分かっていた。


明人は机に向かい、2番目の生徒の朗読を聞きながら回想した。


数日前も…


午前に佐々木の英語の授業があり、その時に今回の英長文の難しい部分の朗読を、佐々木が恒輝に振り分けた。


それにより普段温厚な明人も、流石に佐々木に苛立った。


そして、その同じ日の午後…


明人は一人、恒輝が休み時間にトイレに行った隙に教室を出た。


どうせ明人が佐々木にメールで注意しても、無駄だと明人も分かっていた。


だから、校内の廊下で佐々木を呼び止め、人気の無い場所で二人きりになり、佐々木のやり方を締める方法を取った。


明人は、恒輝を見つけてから自宅で、例え友人でも他のアルファやオメガやベータにすら会うのを気を付け控えていた。


だから、幼なじみの佐々木とも、校内で話すしかなかった。


「こうやって、明人と二人きりで話すのは本当に久しぶりで嬉しいよ」


佐々木は、多分明人が何を言いたいのか分かっているのに、悪びれる素振り一つ見せず笑顔で言った。


「大河…お前とは小さい頃から兄弟のように育って色々助けてもらってきた事は感謝してる。でも…西島君に…俺のアルファに、これ以上子供じみた余計な真似はするな!」


明人はなるべく冷静に話したが、そんな佐々木に余計苛ついていた。


「子供じみた余計な真似?まさか…英語の長文朗読の事か?心外だなぁ…アレは別に、俺は教師として普通に西島に振り分けただけだし、普通のただの授業の一環じゃないか?」


佐々木は尚も、いかにもアルファらしい余裕を見せて笑った。

 

「ごっ!」


誤魔化すな!っと明人か言おうとした。


しかし…


その言葉に被せるように、明人の背後で恒輝の声がした。


「彩峰!一人でフラフラすんなって何度も言ってるだろうが!幾ら学校でも…すぐにオメガの匂いで理性を失くすようなタチの悪い奴等がここにはウヨってんだよ!」


明人は、さっと振り返る。


恒輝は、明人にそう言いながら、視線は佐々木に向いていた。


恒輝はさも、すぐに理性を失くすようなタチの悪い沢山の奴の中に、佐々木が含まれていると言いた気だ。


「西島…俺さえいれば、明人には危険な事は何も無い。俺さえいれば、明人は大丈夫だ」


佐々木は勿論、それが分かっていたから、わざとそう答えた。


「さぁ…それはどうだかな?…」


恒輝は、目を眇め佐々木を見て言った。


そして、次に明人に聞いた。


「重要な話しか?」


「あっ…いや…その…」


いつもならすぐに何かしら言葉を思いつくはずの明人が、珍しく戸惑う。


勿論、恒輝にはあの英語の長文は難しいから佐々木に抗議していたなど云々言え無い。


「重要じゃないなら、行くぞ!彩峰!」


恒輝は、明人を見て促した。


明人は、このまま中途半端に佐々木を放って置くと、恒輝につまらない嫌がらせを繰り返すのが分かっていたので、佐々木と話しを着けたかったが…


明人が恒輝の目を見詰めると、恒輝のそれは、明らかに明人に「俺に付いて来い」と言っていた。


明人に、複雑な感情が浮かんだ。


胸がチクチクフワフワする、不思議な感情が。


明人が、恒輝だけに感じる感情。


恒輝は、明人の恒輝への気持ちも分かっているはずだが、その明人の気持ちを受け入れてくれない…


そのくせこう言う時になると、明人の心配をしたり、凄く優しかったり構ってくる。


明人は、恒輝の目を見ながら正直「西島君は残酷だ…」と思ったが…


それ以上に、その何倍も何倍以上に、明人は恒輝に心配されている事が本当にうれしかった。


そして結局明人は、恒輝の言うがまま、佐々木と話しを着けられないまま、恒輝の後を付いて教室に戻る事にした。


明人は、廊下を自分より背の小さい恒輝の背中を見て歩きながら、さっきの恒輝を思い出していた。


そして恒輝は、自分をアルファとして不完全だと後ろめさたを抱えているから、恒輝自身には言えないが…


明人には、佐々木に向かっていた恒輝にちゃんとアルファの片鱗が見えていた。


そして…


病で恒輝のフェロモンが無くても、不完全でも…


やはり恒輝が、明人の「運命のアルファ」だと再確認した。





























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