第24話24
放課後になり、恒輝は予定通り教員室へ行く事にした。
同じ教室内の、少し離れた所にいた田北達に声をかけ、彼らの横にいた明人に、背を向けながら軽く挨拶代わりに黙って手を上げて見せた。
しかし…
「待って!待ってくれ!西島君!」
明人が廊下を追いかけて来て、恒輝の右手を強く掴んだ。
「あぁ?」
恒輝が振り返り向かい合う。
「帰ってくるまで待ってるよ。教室で…」
明人は、二人の距離をかなり詰めて手をギュッと更に握ると、微笑んで言った。
すぐ横を、他クラスの女子達が、「キャっ!❤️」「いいなー❤️」と言ったり、
男子達が顔のニヤ付きを我慢しながら、気を遣うように通り過ぎて行く。
明人は、時間と場所を選ばない悪い癖がある。
でも、幾ら大体の事が許されるハイオメガだろうが…
「お前なぁ…」
恒輝は呆れながらチラッと回りを見たが
、次は恒輝が明人の左手を握りグイグイ人気の無い廊下へ引っ張って来た。
そして、手をまだ握ったまま、明人に振り返り、
「帰れ!」と言おうとしたが…
「待ってるよ…」
明人がそう言いながら、強く手を握り返してきた。
「どうして?」
困惑を隠しながら、恒輝は視線を明人から外し聞いた。
「心配なんだ…凄く…西島君が…」
その言葉で、恒輝の視線が明人に戻る。
しかし…
(そんな目で見てくんな!)
明人の視線がとても色気ただ漏れで、しかも、本気で心配してるように見えて恒輝は、すぐに又目を逸した。
(そうやって…今まで何人たぶらかしてきやがった?!やっぱ、オメガは始末に負えねぇ…)
恒輝の脳裏に、あの、明人の自称元カレが浮かんだ。
そして、何故か急に訳の分からないイライラが湧いてきた。
だが、今までのいつもの恒輝なら、その瞬間的にカッとした気持ちのまま明人の手を振り払ってキツイ言葉だけをぶつけたはずなのだが…
どうしてだろうか?
それが出来なかった。
明人を傷付ける事が、出来なかった。
自分のこの複雑な感情と変化がよく分からなかったが…
ゆっくり明人の手を恒輝の反対の手で離させて、表情も言葉も静かに、子供を諭すように返した。
「いいから、先帰れ…絶対だぞ…いいな?…」
でも、オメガの明人が遅くまで一人教室にいるのを心配していた恒輝の気持ちは
、とうとう最後まで言葉には出来なかった。
「に…しじま君…」
恒輝は、明人をそこに残し、教員室へ向かった。
そこに着くと、クラ担の安藤が自分のデスクで待っていた。
そして、隣の面談室に行くように指示されたので、てっきりクラ担が後から来るものと思い、そこの横開けの扉を開けた
。
すると…
机一つに対面式で椅子が二つあり、その片方に佐々木が座っていた。
「どうした?早くそこ閉めて座れ」
困惑する恒輝に、佐々木がそう言いながら微笑む。
なんだか嫌な予感しかしなかったが、仕方無く恒輝も座り尋ねる。
「安藤先生は?」
「今日は、俺がお前の面談をする。そして…成績が悪い、このままじゃ留年しそうなお前に、とってもいい条件の取り引きを提示してやろうと思ってな…」
そう言って両方の口の端をにっと上げた佐々木だったが、目だけは笑っていなかった。
(彩峰…)
恒輝は、明人の顔を思い浮かべ、多分、明人絡みの話しだろうと予想した。
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