アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から!
みゃー
第1話1
「以外と強かったよなー」
高3の18歳の恒輝(こうき)といつもつるんでいる同じクラスの田北が、ファミレスの4人掛けのテーブルに頰杖を付いて漏らした。
「たまにはあれ位のが刺激があっていいんじゃね?」
田北の斜め向かいの窓際に座る恒輝は、ソファにドカッと腰を掛け、窓の外を別に意味も無く眺めながら言った。
「恒輝の唯一のいい所の顔が、台無しになってるけど、又家で何か言われんじゃね?」
そう言ったクラスメイトの岡本は、恒輝の向かいに座っている。
ついさっき、ガラの悪い自分達と同じ高校生だが他校の男達と、睨んだ睨まないで3対5で公園でケンカした。
無論、こっちが3で向こうが5だ。
そこで珍しく、恒輝は口元に傷を作った
。
結局、大きな公園の奥だったのに暫くして誰かが通報したのか警察官が来て、もう少しでカタがつきそうだったのに逃亡する事になってしまった。
「うっせーよ!何が唯一だ!」
顔しか取り柄が無い…
小さな頃から嫌と言う程周りから散々聞かされた言葉に、恒輝は語気を荒げた。
この世界は、男女の他、3つの性別が有る。
アルファ。
ベータ。
そして、オメガ。
アルファは、世界的にごく限られた人数だが、容姿に優れ頭脳も身体能力にも優れ、会社のトップや政治家、アスリート
、芸能人、芸術家など、社会の上層部に多く、ベータは、圧倒的多数派の人々でごく一般的な普通の人。
そして、オメガは、又少数派で容姿端麗な者が多いが、振りまく強烈なフェロモンで常に周囲を性的に誘惑し、常に1ヶ月に一回ある強烈な発情期(ヒート)が有る時は日常生活が出来なくなるなど不便が多く、特に就職には不利があったりする。
昔はオメガが性的に奔放というイメージからとかくアルファやベータから社会的に下に見られていたが、現代では人権意識の高まりにより、かつてよりオメガは他の2つの性と平等に扱われるようになった。
だが、完全にと言う訳では無い。
今でもオメガは、性犯罪を受けたり差別されたりする者が後を絶たない。
そして、アルファとオメガには、運命の番と言うものがあり、出会った瞬間に唯一無二の固い愛と絆で結ばれると言われているが、そもそもこの広い世界、出会える事が奇跡で、殆どの人間は見付けられないまま一生が終わる。
恒輝の家は、代々優秀なアルファをアルファ同士の結婚により多数輩出してきた名門で、父も母も、1人の兄、1人の姉、皆アルファで、容姿、頭脳は突出し抜群で幼い頃から周囲を支配してきた。
だが、恒輝だけ、違った。
いや、勿論、恒輝もアルファだったが、
それこそ顔は良かったが、背はいつまでも小さく学校の成績も悪く、スポーツも得意で無く、何よりもアルファであるのに大切なフェロモンを自ら出せず、その上更にオメガのフェロモンを感知するという事が出来ないという病持ちだった。
そこら辺にいるベータ以下のアンダーアルファ。
これも恒輝が成績の事などで、周囲では優しく人格者と絶賛される両親に叱責された時、二人によく叩きつけられた言葉だ。
周囲は完全に騙されていて、両親が日頃からベータやオメガを口汚く差別している事など知らない。
恒輝の小さな頃、父は恒輝の事で母の浮気を疑いケンカが絶えず、華奢な女性に見えて実は気が強くプライドの高いあの母が遂に折れてDNA鑑定にまで持ち込まれたが、やはり恒輝は両親の子供で、D
NA上もアルファで有る事が出ていて間
違いないと言う結果が出た。
しかし、その後も両親の仲は戻らず、広い屋敷で家庭内別居をしてお互い別宅のマンションを複数持ち、そこには彼等のそれぞれの複数の愛人のオメガが出入りしている。
何故そこまでして離婚しないのか?
それは全てアルファのプライドの為らしい。
恒輝もあの広い屋敷に居場所が無く、小学生から家出をしたいと思っていたがいつも誘拐予防に側にいたSPに邪魔され、
それでも遂に中学生になった時隙を突いて成功し、屋敷で唯一の味方だった退職した元世話役の男皆川の家に行ったのを境に彼とその妻に預けられる事となり、早6年目になった。
皆川夫婦はごく普通のマンション暮らしで穏やかで優しく、恒輝より一つ下の皆川の娘、花菜は本当の妹の様でコミュニケーションは良く取れ、どちらかと言えばこちらの方が本当の家族の様だった。
しかし、背が小さな事や実家の事を絶えず学校や周囲で持ち出されからかわれ、すぐケンカするのは皆川家へ移っても変わる事が無い。
しかし、お世辞にもランクが高いと言えない高校に進学してからは、恒輝がケンカが強い事が周りに知れ渡り手を出して来る者も少なくなり、それでもたまにケンカを売られたら、見つからないように上手くケリをつける知恵も付いた。
ふと、恒輝が周囲を見ると、圧倒的にカップルばっかりだった。
しかし、小さな頃からアルファだオメガだフェロモンだと振り回される人間の嫌な部分しか見てこなかった為か、恋人所か、人を、恋愛対象で好きになった事すら無かった。
あーあ…アホくっさっ…
他人のイチャイチャするのを冷めた目で見て、次に恒輝は又何気に大きな窓の外を見た。
暫く眺めていると、店の前の信号が丁度赤になり、一台の白い車が先頭に止まった。
するとどう言う訳か、自然と恒輝の視線は、その後部座席に向く。
やや遅れこちらの視線に気付いたのか、そこに居た若い男も恒輝を見た。
美形など見飽きていた恒輝だったが、こちらを向き目が合ったその男もかなりのイケメンで、首に黒いガードを巻いていたのでオメガなのはすぐ分かり、関わりたく無くて恒輝はフイっと顔を逸らせた
。
車は、その後すぐ発車した。
オメガはアルファに首を噛まれると、そのアルファだけにフェロモンを出す様になり、そのアルファだけの物になる。
番になるのだ。
しかし、オメガは、そのアルファを慎重に選ばなければならなかった。
そう…一度噛まれると、次は無い。
首を噛まれたアルファに嫌われ捨てられようものなら最後、もう二度と他の人間を誘い興奮させるフェロモンを出せず、フェロモン無しで激しいヒートに付き合ってくれる他の相手を簡単に見付けられればいいが、そうでなければ1ヶ月に一度ある激しい発情にのたうち苦しむ事になる。
現代では、キツすぎるヒートやフェロモンを抑える薬もあるが、どちらもあくまで限界を超えた時用で、乱用すればフェロモンやヒート自体が無くなったり、反対に余計酷くなったり、最悪、内臓自体壊され生命の危機に陥る。
だから、安易にまっさらな首を噛まれ無い様、オメガが首にガードを巻いているのはよく見る光景だ。
そして、すでに噛まれた跡の有る者も、無闇に人目にそれを晒さない為のガードを着けている。
だが、ごく稀に、首を噛まれても周囲を魅了するフェロモンの放出が止まらない
、しかもそのフェロモンが更に極上になるオメガもいて、彼等彼女達は、アルファの力に左右されないハイオメガとして
、逆に周囲の羨望と称賛の的になっていた。
だがそれでも、番いの印として一度噛まれた跡は二度と消えない。
皮膚を移植しようが、再び浮き上がってくる。
フェロモンが止まら無いのをいい事に、一度首を噛み番ったアルファと別れたオメガ。
そんな、オメガを…
自分と違う人間の所有だった証が身体にはっきり生生しく残り一生消えない者をちゃんとした正式な恋人、或いは伴侶にしようと言う者はいる。
だが、どうしても過去を常に意識してしまわざるを得ないのでどうしても葛藤が生まれ、そこから心の分断が起こりやすい。
ハイオメガと言えど、簡単に首は晒せないのだ。
「明人(あきと)、もう、10分程で着くから…」
先程、恒輝と目が合った明人は、運転手の女性のその言葉でやっと我に返った。
信号が青になり恒輝の居た店の前から車が出てもう何分か経っていたが、その間明人は呆然として我を失っていた。
こんな事は、勿論初めてだった。
誰かを、こんなに見詰めたなんて…
「母さん、すぐ車を止めてくれ!戻ってくれさっきの信号まで!」
いつも冷静な明人が叫んだ。
「えっ?さっきの信号?一体何処の信号?どうしたの?でも、大事な約束が…遅れては大変な事に…」
明人の急変に、スーツ姿のは母は戸惑った。
「ダメよ。明人。このまま食事会に向かいましょう!」
だが…
「いいから。俺の言う信号まで戻ってくれ!頼む、母さん!」
明人は、前方シートに身を乗り出し更に叫んだ。
恒輝の方は、苦手なオメガを見てなんだか嫌な気分になり、悪友2人を置いて店を出ていた。
本当は、そんな固定観念で見たらいけないのだろうし、そんな人間ばかりでは無いとは分かっていても、やはりどこかで
オメガが性に奔放でビッチが多いという
印象が、オメガ嫌いに拍車を掛けていた
。
今日は花菜がハンバーグを自分で作るから、早く帰って一緒に食べてねとか言ってたからさっさと帰ろ…約束は、守らねぇとな…
(やっぱり、俺は、ベータの女といる方が本当の自分を考えてなくて完スルー出来るから、マジ、楽出来んだよな…)
そんな事を考えながら家路を行く。
「あの…」
不意に、背後から呼び止められた。
「え!?」
恒輝は、ゆっくりと振り返った。
そして、意外な人物が居る事に目をパチパチとしばたかせた。
そこに、さっき窓から見た超絶男前のオメガが居た。
首に、例の物があるから間違いない。
しかし、病気の所為で、やはりフェロモンは感知できなかった。
恒輝は、暫く彼を見詰めた。
ハーフ?かと思わせる全体的に彫りの深い整った美しい顔に、ハッキリした二重の瞳が際立っている。
そして、何より恒輝が気になったのは、その背の高さだった。
もしかしたら、自分より10センチ以上は高いかも知れない。
ただそれだけでもイライラするのに、それがオメガだと思うと倍増する。
見た目なら、体格の良い彼の方が恒輝よりずっとアルファに相応しい。
「何ですか?」
関わりたく無かったがもしかしたら制服の自分より私服の彼の方が年上かもしれないので、イラつきを隠し尋ねる。
すると、オメガの男は、顔にパッと赤みを帯びて嬉しそうに微笑んだ。
それを見て、珍しく恒輝は一瞬ドキっと
する。
ケンカ前のあの高揚感に似ている様で、
恒輝は、自分がこの目の前の男と殴り合いでも期待しているのか考えてしまった
。
だが…
「やっと…やっと会えた…」
オメガの男は、更に更に顔を赤らめ破顔した。
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