第14話014「覚悟」
「何のつもりも何も⋯⋯私はこの村がずっと大嫌いだったんですよ。こんな何もない辺鄙な村で生き続ける人生なんてあり得ません! ええ、あり得るわけがありませんっ! では、どうすればいいか? 答えはカンタンです⋯⋯」
バスケルがニチャァと笑う。
「この村とこの場にいる者、そして南方鎮守城塞スザクの生き残りもすべて始末し、それらをすべて魔獣のせいにすればいい。そして、私はその魔獣を倒した英雄として王都に凱旋し大いなる褒賞と権力を手に入れる! そう、それだけでいいんですっっっっ!!!!!!!!!!!!」
「⋯⋯狂ってる」
「誰も私の苦悩を理解してくれない⋯⋯父親でさえも。だから殺しました。それもこれも皆『辺境伯』という『縛られた自由』をわかってくれないからぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」
「⋯⋯父親にも手をかけていたとは。貴様もはや人ではないな。人を捨てた⋯⋯ただの魔獣だ」
常軌を逸脱したバスケルの言葉にアリアナはバスケルを魔獣という『討伐対象』として睨みつける。
「ふ〜ん? あ、そう? で? 君に何ができるのかな、アリアナ先生⋯⋯いやさ、冒険者アリアナ・イーサン君? たかだかCランカー冒険者風情が? んんんん〜〜っ??????」
バスケルがケタケタと不敵に笑いながら魔力を引き上げ威嚇する。
「⋯⋯Cランカーか。なるほど⋯⋯確かにそうだな。エビルドラゴンはBランカー⋯⋯魔獣の中でも『災害級』だし
「ほう? わかってるじゃないか? さすがにただの脳筋バカではないようだな? そうだ。貴様は私からすれば所詮、雑魚に過ぎん」
「⋯⋯なるほど」
そう⋯⋯C(+)ランカーのバスケルでさえCランカーのアリアナでは勝算はかなり低い。ランクは一つしか違わないがその『一つのランク差』でもかなりの力量差があるからだ。
しかも、それに加え魔獣はBランカーのエビルドラゴン⋯⋯Bランカー魔獣は『災害級』と指定されるほどで通常、騎士団や術士団など一個師団が相手するレベルの魔獣である。
つまり、Cランカーのアリアナからすれば『一段階、二段階も上の敵』を相手にすることであり、それは単なる自殺行為のようなものである。
アリアナは一度、目を瞑って大きく深呼吸をした。
「オーウェンっ!」
「は、はい!」
「君が生徒や村人たちを逃がす先導役をしてくれ! こいつらは私が食い止める!」
「⋯⋯せ、先生」
「わかったら、さっさと行け!」
「⋯⋯」
オーウェンは一度、深呼吸をした後、キッと力強い瞳でアリアナに言葉を紡ぐ。
「先生一人では⋯⋯無理です」
「何っ!!」
「ですからっ!! 僕も⋯⋯マクスウェル家の騎士として共に戦いますっ!!!」
「オーウェン⋯⋯。なるほど、さすがはマクスウェル家の血を引く者だな」
「当然です。マクスウェル家の人間とはこういうことです」
「お前⋯⋯本当に11歳か? 年齢詐称してねーかー?」
「よく言われます」
「「フフ⋯⋯」」
そう言って、二人が笑顔を浮かべる。
「⋯⋯それ、私も参戦するから」
「「レナっ!!!!!」」
二人の間に入ったのは仁王立ちするレナだった。
「止めても無駄よ? それに今、逃げたところで二人が魔獣を止められなかったらどっちみち殺されるんでしょ? だったら少しでも魔獣を倒せる可能性のある⋯⋯この場で戦うことを私は選択するわ」
「レ、レナ! で、でも、それはあまりにも危険⋯⋯」
「それはオーウェン兄ちゃんも一緒でしょ? 相手はBランカーの魔獣にC(+)ランカーのバスケル辺境伯なのよ?」
「っ?! そ、それは⋯⋯」
「なるほど。そこまでの覚悟か。『魔力の才能』よりも『胆力』『判断力』のほうがより優れているとはな⋯⋯逸材だ、レナ・リンデンバーグ。わかった! レナ・リンデンバーグ⋯⋯お前の戦闘参加、許可しよう」
「アリアナ先生っ!」
「⋯⋯オーウェン。レナの言う通り、ここで魔獣とバスケルを止められなければ皆殺しにされるのは間違いない。ならば戦える人間は一人でも多い方が勝算は上がる」
「っ!? で、ですが⋯⋯」
「総合的に考え、且つ『最善手』を導き覚悟を持って行動する⋯⋯これが『実戦』だ。そして、それだけ今の状況が『絶体絶命』であるということだ、オーウェン・マクスウェル」
「っ!!⋯⋯わかりました」
オーウェンはアリアナの言葉を聞いてレナの戦闘参加を理解する。同時にオーウェンもまた改めて覚悟をし直した⋯⋯『死』という覚悟を。
「ちなみに勝算はまだ⋯⋯ある。すでに南方鎮守城塞スザクでも村が魔獣やバスケルに襲撃されているという情報は行っているはずだからな。つまり⋯⋯」
「応援が来るまでの時間稼ぎができればいい、てわけね?」
「その通りだ、レナ」
「わかりました。それなら何とか時間稼ぎできるよう動きましょう」
「オーウェン⋯⋯やっと冷静になったか」
「はい、もう大丈夫です」
先ほどまで狼狽していたオーウェンはもうそこにはなく、いるのは、いつもの『年齢詐称』と言われるほどの冷静さを纏ったマクスウェル家次男。『天才』と称される少年、オーウェン・マクスウェルだった。
「ミーシャ!」
「は、はいっ!」
「君はトーヤと一緒に村人たちと共に避難場所へ行ってくれ! 君も魔術は使えるがまだ未熟だ。だから安全な場所へ移動するんだ!」
「で、でも⋯⋯」
「大丈夫! 僕たちは負けない! そして、僕らと一緒に協力できないことに『申し訳なさ』を感じているのならこれから強くなればいい。強くなったら一緒に戦おう、ミーシャ!」
「っ!! う、うん、わかった。私⋯⋯頑張る。頑張って、次にオーウェンたちと一緒に戦えるようになるっ!!」
「⋯⋯ああ、頑張れ、ミーシャ。トーヤっ!」
「お、おう⋯⋯」
「ミーシャのこと⋯⋯頼んだぞ」
「っ!! オーウェン⋯⋯」
俺はオーウェンの言葉をすぐに理解した。オーウェンは死ぬ気なのだと。
そして、それは間違いなくアリアナ先生も。そして妹のレナも⋯⋯。
「お兄ぃ〜ちゃんっ!」
「わっ?! こ、こら⋯⋯レナ!」
レナは俺の気持ちを察したのか、いつもの屈託のないブラコン笑顔で抱きついた。
「んん〜〜〜ぎゅぅぅぅ〜〜〜⋯⋯!! お兄ちゃん成分、補充ぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜っ!!!!!!!」
「レナ⋯⋯」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん⋯⋯」
「っ?!」
「私は死なないし、アリアナ先生やオーウェン兄ちゃんだって死ぬつもりなんて1ミリもないから」
「⋯⋯レナ」
「これが終わったらお兄ちゃんはいっぱい勉強して学者推薦で高等学校に入学。そして来年は私も入学して一緒に学校生活を満喫するんだよ。これは決定⋯⋯事項⋯⋯なんだからね⋯⋯」
「⋯⋯ああ、わかったよ」
レナの体は震えている。それがすべてを語っていた。
「じゃあ、行ってくるね、お兄ちゃん!」
そう言ってレナはアリアナ先生やオーウェンのところへ戻った。
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